たばこの煙をめぐって論争

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国立がん研究センターが2016年8月31日に発表した、「受動喫煙による日本人の肺がんリスク約1.3倍」という研究結果に対して、日本たばこ産業(JT)が即日異議を唱え、その約1か月後に今度は国立がん研がJTコメントについて「受動喫煙の害を軽く考えている」と突き放した。

受動喫煙は「迷惑なものとなることがある」というJTに、国立がん研は、人の健康に害を与えるもので「迷惑」というレベルではないとの立場だ。

JT「本研究結果だけで結論づけるのは困難」

国立がん研は、日本人を対象とした受動喫煙と肺がんに関する過去の研究論文9本をもとに、複数の論文を統合して解析する「メタアナリシス」を行った。その結果、受動喫煙と肺がんとの間に統計学的に有意な関連が認められ、相対リスクは約1.3倍と結論づけた。

JTはすぐさま小泉光臣社長名でリリースを発信、「本研究結果だけをもって、受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは、困難であると考えています」とした。理由のひとつとして、国立がん研が用いたメタアナリシスの手法について「選択された9つの疫学研究は研究時期や条件も異なり、いずれの研究においても統計学的に有意ではない結果を統合したもの」とした。また「肺がん等の慢性疾患は、食生活や住環境等の様々な要因が影響することが知られて」いるため、疫学研究の結果だけで喫煙との因果関係は結論づけられないとも主張した。

これに対して国立がん研は9月28日、「受動喫煙と肺がんに関するJTコメントへの見解」と題したリリースで、細かく反論した。メタアナリシスの手法については、論文選択の恣意性や取りこぼしを避けるために定められている国際的なガイドラインに沿って行われたと説明。また、研究時期や条件が異なる複数の研究で、1件を除いて受動喫煙と肺がんの関連性を示す結果が得られたことから、「むしろ受動喫煙と肺がんとの関連の確かさを示している」とした。

「迷惑かけないよう気配りを」に「健康被害の問題だ」

JTはリリースの中で、受動喫煙の疾病リスクについて多くの疫学研究が行われているが、リスクが上昇するという結果と、上昇するとは言えないという結果の両方が出ており、「科学的に説得力のある形で結論付けられていないものと認識しています」との見解を出した。

厚生労働省研究班が2016年5月31日、受動喫煙が原因で死亡する人が国内で年間約1万5000人と発表した際にも、社長名によるリリースで同じ内容を示していた。

これについて国立がん研は今回、「米国公衆衛生総監報告書は、2006年に受動喫煙と肺がんとの関連ついて『科学的証拠は、因果関係を推定するのに十分である』と判定している」と、複数の研究結果をもとに反発。さらにJTが受動喫煙を「周囲の方々、特にたばこを吸われない方々にとっては迷惑なものとなることがある」「周囲の方々への気配り、思いやりを示していただけるよう、たばこを吸われる方々にお願いしています」と述べたのに対し、「受動喫煙は『迷惑』や『気配り、思いやり』の問題ではなく、『健康被害』『他者危害』の問題である」と厳しく指摘している。

受動喫煙と肺がんの関係については、例えば日本医師会がウェブサイト「知っておきたいがん検診」の中で、「受動喫煙によっても、肺がんのリスクは1.2〜2倍に増加します。非喫煙者でも肺がんの原因として決して見過ごすことは出来ません」としている。

JTと国立がん研の議論はツイッター上でも関心が高く、多くの関連ツイートが寄せられていた。それらを見ると、たばこの煙そのものを嫌う人は多いようだが、「迷惑という問題ではなく、健康被害の問題」という国立がん研の主張について賛同する人や、「吸う吸わないの自由」と切り離して考えるべきという人、神経質になり過ぎるのもどうかと考える人、それぞれだ。今後、JTからの「再反論」が出るかが注目される。