10月のテーマは「幸せ」。とはいえその形は人ぞれぞれ。今回は、これまでの伝統的な家族の形態にこだわらず、自分たちでで考え、自分らしい幸せの形を持って生きている、そんな人たちにフォーカスしてみました。

注目したいのは「シングルマザー」という生き方。ここ数年1 人親家庭は日本でも増加傾向にあり、平成24年の時点で8%。イギリスでは1人親家庭は25%にも上ります。いずれのケースも、その多くはシングルマザーが自分1人で育児を負担しています。「シングルマザーは貧困に陥りやすい」という調査結果もあります。が、もし1人でも育てられる条件がそろっていれば? 「父母がそろっていること」が幸せの条件なのでしょうか。イギリスでシングルマザーとして子育てしながら暮らす3人の女性の話から、その答えを探ってみました。

どんな夫でも、いないよりはいる方がマシなのか:えりさんの場合

スコットランドの小さい町エアドリーに住む日本人女性えりさんは自らシングルマザーになる道を選んだ1人。元パートナーにほとんど頼ることなく娘を育て上げました。

今年の春、長年勤めた投資銀行を離れ大学院に進学し、新しい人生の一歩を踏み出したという、常に変化を恐れないえりさんに、シングルマザーとしての生き方について聞いてみました。

--シングルマザーになった経緯を簡単に教えてください

「1998年、28歳のときにスコットランド人と結婚し、企業通訳を辞職して渡英。1年後に娘が誕生、その6カ月後に就職、その後2年ほどで別居して、法律で定められていた年数を経て離婚しまし た。どちらかが浮気したというような直接的な原因はなく、一緒に暮らしていく中で元夫の私に対する精神的、経済的な甘えが重く、人生への向き合い方の違いを感じることが多くなりました。話し合いをしても全く歩み寄れない日々が続き、シングルペアレントになった方が自分の人生は明るくなる、という確信を持ち私が一緒に暮らしていた家を出ました。

その時点で日本の両親から『帰国したら?』との提案もありましたが、幸い当時現地企業に就職していて安定した収入があったので、娘が父親と気軽に会えなくなるのは良くないと思い、在留を決めました」

--元パートナーやその家族は協力的?

「元夫は、子育てに関して労力も経済的な面からも、全く協力的ではありませんでした。娘が14歳になるまでは、毎月一度か二度程度は会っていた のですが、ある日娘がもう会いたくないと言ってから残念ながらもう3年ほど没交渉です。最後に会った数回には元夫が酔った勢いで私の悪口を言っていたようで、それがイヤになったようです。

一方、元夫の姉2人とその旦那さん達や子供達とは今でも仲良くしていて、私が出かける時娘を預かってもらったり、お迎えが遅くなる時には代わりに行ってもらったりと本当にお世話になっています。いざというとき頼れる人達がいるという、精神的なサポートも大きかったです」

--日本で子供を持ちたい、シングルマザーという選択を考えている人たちにアドバイスすることはありますか?

「独身で出産子育てしたい人と、パートナーと別れたい人とではアドバイスのあり方も異なるとは思うのですが、実感していることを箇条書きすると以下のようになります」

1.親業は人生で一番重要なプロジェクト。とにかくおもしろい。もっと早くたくさん産んでおけばよかった、と思うことはあります。

2.親が幸せなら子供も幸せ。ひとり親でも両親いてもそれは同じ。

3. 一方で、自分の子供は自分と同じではないということを肝に銘じて、親の人間関係や家庭の経済状態などを冷静に小出しに伝えることは重要だと思います。1人親でどんな楽しさや大変さがあるのか、などを含めて。

4.1人親の場合、何でも自分でやりきろうと思わない方がいい。政府や自治体のサポート体制があるなら利用し、近所、友人、親戚に日頃から相談したりヘルプをお願いしたりと、自分と子供のことを知っていてもらっておくように努めて。

シンプルに暮らしていきたい:バイオレットさんの場合

エディンバラ市内の投資銀行で働く南アフリカ出身のバイオレットさんは高校生のジョス君とエディンバラに2人で暮らすシングルマザー。同じ南アフリカ出身の元夫と、辛い時期を経た後離婚したのは8年前。

それまで家族で住んでいたスコットランド南部のピーブルズという街の邸宅を離れ、エディンバラのこじんまりとした家に居を移しました。「もう多くのものを背負わずに生きていきたい」というバイオレットさんはあえて賃貸住宅に住み、車も処分しました。

元パートナーについては「幼くて、甘えん坊でネガティブだった」というバイオレットさんだが、今多くを背負わずに生きることを楽しんでいるように見えます。そんなバイオレットさんに、シングルマザーとして生きることで"良かったこと"を聞いてみました。

--「シングルマザー」でいる事のいいところは?

「いいところは、長々と話し合ったり妥協せずに、すぐ自分で決断ができること。次に、息子と生きたい環境や雰囲気を自分で作りあげて生きていけること、私の場合は"調和と助け合いとポジティブ"さが大切にしたいこと。それに、息子との関係をもっと密接に感じられる、家族だという実感が得られることかしら」

--では、シングルマザーでいて、大変なことは?

「とにかく、とても疲れるということ。責任を分かち合える人がいないし、忙しい1日を送ったあと料理をしたり宿題を見てあげたりするのはなかなか大変なの。次にはクラブ活動やお友達とのお泊まり会をなかなかしてあげられないこと、でもこれはシングルマザーというより働くお母さんに共通の悩みかもね。そして、息子にとって身近に男性のお手本がいないこと! これは今ちょっと考えなくちゃって思ってることなの」

--離婚したことを後悔していませんか?

「離婚したことは、一度も後悔していないわ。今までした、最高の決断だったとすら思ってるのよ。私の人生は前のように複雑じゃなくなったから」

幸せでいるために。支えてくれる人達の存在:アリスさんの場合

エディンバラ在住のアリスさんは3人の子供がいるシングルマザー。3人目の子供が生まれた直後、元夫の子供に対する無責任さについていけなくなり別れを切り出したのだそう。現在、アリスさんには8年交際している彼がいます。

「もう何年も一緒にいるけど、彼は私を懸命に助けてくれるし、子供たちもすごく懐いてるわよ。でもできるだけそれには甘えたくはないの。彼はあくまで私のボーイフレンドであって、子供たちの親ではないから。私は子供の親代わりを必要としてるんじゃない。あくまで私が好きだから一緒にいる。そういう基本姿勢を崩したくないの」

彼女はシングルマザーであってもそうでなくても、難しい時期を支えてくれる仲間の存在はとても大事だという。

「元夫は頼りにならなかったし、家族は遠くに住んでいる。子供が小さくて大変だった頃、毎週末のように子供を預かってくれる高校時代からの友達が同じ町にいた私は、本当にラッキーだったと思う。彼女もシングルマザーだったから、大変だったと思う、だから彼女に息抜きが必要な時には、私が預かることもあるの。こうして悩みを打ち明けて、子供を預け合える仲間がいるだけで全然心強さが違う。そして心細い時には電話して『今夜はピザナイトにしよう!』って私の家に集まって、子供たちには居間で映画、自分たちは庭でワインを飲んでいっぱい話し合うの。映画が終わる頃にはまた元気になる」

さらに、自分の選んだ生き方を応援してくれる家族がいるかいないかでも大きく変わってくる。彼女にとってもう1人の協力者は母親。アリスの両親は電車で5時間以上かかる場所に住んでいるが、長期の休暇には子供3人を3〜4週間預かってくれるという。

「その間に彼とホリデーに行く、と言いたいところだけど、その間に溜まった仕事を終わらせて、夕方ゆっくり彼と食事をして、コンサートに行くの。子供との時間は楽しいけど、年数回はこういう時間を持たないと、気が狂ってしまうから」

幸せに正解はない

シングルマザー、とひと口に言ってもその経緯は様々で、事情が違うのは事実。たとえ自分1人でも子供を育てたいと思っている人、愛する人に去られてしまいどん底にいる人、子供のためにパートナーから去ろうかと考えている人…まず、どんな事情で1人で子供を育てることになったとしても、完全に孤立してしまうか、協力してくれる人達と支え合って生きるかで全く事情も違ってくるようでした。今回取材に応じてくれた人はみんな前向きで、困難をクールに乗り切る知恵がある人たち。みんなが同じになれないにしても、大事なのは1人で抱え込むことなく、子供と一緒にポジティブに生きられる環境を考えることではないでしょうか。

きっと日本でも同じような悩みに直面している人はいるはず。でも地球の裏側に同じように悩みながら前向きに生きて いる仲間がいることを忘れないでほしい。