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航空自衛隊向けF-35Aの初号機が、2016年9月23日(現地時間)に米国テキサス州フォートワースにあるロッキード・マーティン社の工場でお披露目された。そこで本連載でも、改めてF-35について取り上げてみることにしよう。

なにしろ、本連載で最初に取り上げたのがF-35で、もう3年以上も前のことだ。3年も経てば、いろいろと新しい情報が入ってくる。

○ステルス機は要求精度が高い

実は、別件の仕事の関係で、このお披露目式典の模様を現地取材してきた。式典の後で実機をじっくり見ることができたのだが、その前日にはさらに、組立工場を見学するメディアツアーが行われた。ただしもちろん、本当に機微に触れるところは見せてもらえないし、そもそも「撮影禁止」である。

さて本題である。

ステルス機でも非ステルス機でも、いや飛行機に限らずどんな工業製品でも、製作や組み立てに対しては高い精度が求められる。ただしステルス機の場合、要求される水準はかなり高い。

かつてF-117Aナイトホークが試験飛行を行っていた時、あるフライトでいきなり、機体がレーダーに大きく映ってしまって、ひと騒動あったという。そこで調べてみたら、機体の外板を固定するのに使っているネジが3本、緩んでいたのが原因だったそうだ。

つまり、外板や開口部のパネルがほんの少し浮き上がるだけでも、ステルス性に大きな影響があるということである。

○F-35の機体構造は複数社で分担

といったところで、F-35である。この機体、すべてフォートワースのロッキード・マーティン社工場で製作しているわけではない。

中央部胴体はカリフォルニア州パームデールのノースロップ・グラマン社で、後部胴体と尾翼はイギリスのBAEシステムズ社で製作している。さらに尾翼まわりの部品はカナダやオーストラリアのメーカーが手掛けている。

そうやって各地のメーカーが分担生産したパーツが最終的にフォートワースに集まって組み立てられるのだが、そこで寸法が合わなくてはまりません、なんていうことになったら大変だ。もちろん実際にはそんなことはなくて、問題なく組み立てが行われている。日本向けの機体も同様だ。

そして当然、設計した通りのステルス性を発揮できるだけの精度を確保しなければならない。コンピュータ・ベースの設計・製作でなければ実現できない芸当ではないかと思われる。

また、接合工程ではレーザーによる位置決めが行われている。ただ単に適当に持ってきてパカンとはめているわけではない。もっとも、これはF-35に限った話ではなくて、例えばユーロファイター・タイフーンでもやっていることではあるが。

日本向けの機体のうち、フォートワースで製作するのは1〜4号機までで、5号機以降は愛知県の小牧にあるFACO(Final Assembly and Check-Out)施設で組み立てることになっている。そこで使用する部材の生産分担は、基本的には前述の各社と同じだ。

○パネル部分も平滑

実機を間近に見て感心したのは、各種の開口部だった。

降着装置を収容する脚収納室の扉や機内兵器倉の扉は、開閉できなければ仕事にならない。また、点検や交換を必要とする電子機器などの区画にアクセスするには、これもまた開閉可能なアクセスパネルを必要とする。

そうした開口部のパネルが、機体表面と見事なまでにツライチになっている。前述した「ネジ3本でレーダーにどかーんと映った」話があるから、開口部のパネルを閉めたときには高い平滑性を実現しないと、所定のステルス性は発揮できない。これもまた、設計・製作における精度の問題になる。

そこでふと思いついて、最初の機体がロールアウトしたときの写真を見てみたら、今の機体よりもいくらかパネルまわりが凸凹しているように見受けられた。現在製作中の機体の方が平滑に仕上がっている背景には、生産現場が習熟したこともあるだろうし、設計・製作のノウハウが進化したこともあるのだろう。

たぶん、F-35の製作では「取り付けようとしたら寸法が合わなかったので、その場で適当に直して合わせちゃいました」なんてことはないだろうし、許容もされない。かつて日本で別の戦闘機をライセンス生産した時は、「米国メーカーから来た図面通りに作っていたら合わなかったので、その場で適当に直しちゃいました」なんて話があったらしいが。

ちなみに、寸法をきちんと合わせようとすると、温度管理という問題も出てくる。金属は温度変化に応じて伸縮するからだ。もちろん、F-35の組み立てを行っているフォートワースの工場は冷房が効いていて、摂氏30度オーバーの屋外とは別世界だった(わざわざ摂氏と書いたのは、アメリカでは華氏が普通だからである)。

問題は、この「長さ1マイル近い大箱の工場建屋」が、もともとは第2次世界大戦中に造られたもので、できた当初から空調がついていたというところである。そんなことまでする国と戦争をしたら、勝てるはずがない。

(井上孝司)