『日本女性の底力』(白江亜古/講談社+α文庫)

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 いよいよ10月1日に最終回を迎えるNHKの連続ドラマ小説『とと姉ちゃん』。戦後の日本人、特に女性の暮らしの向上に大きな助けとなった雑誌『あなたの暮し』を立ち上げた小橋常子のがんばりに、「よっしゃ、今日も私もがんばろう!」と毎朝元気をもらっていたという人、多いはず。朝ドラ初の「生涯独身」ヒロインでもある常子は、いわゆる「元祖・仕事に生きた女」という画期的存在でもあったわけで、ドラマの中にはいまどきの働く女性が共感するシーンも多かった。結婚とか恋愛とか私生活の心配なんて余計なお世話。時代の波の中を懸命に生きる中で身体に染み付いた「仕事=生きること」という彼女の幸せの方程式は、力強くゆるがないのもかえって清々しいほど。

 それにしても常子はなぜそこまで「強い」のか。父を早くに亡くしたことも大きな理由だろうが、おそらく戦争、そして戦後ゼロからの出発を体験して生きてきたのは大きいのかも…そんなことを『日本女性の底力』(白江亜古/講談社+α文庫)を読んで思った。戦前から戦後、そして高度経済成長を経て現在までを生き抜いて来た女性たちのインタビューをまとめたというこの本は、登場するのがオーバー80&90歳の淑女のみなさまばかり。驚くのは圧倒的にみなさんお元気で、しかも常子に感じたような、半端ない芯の強さがあるということ。芸術を極めた人、奉仕に生涯を献じた人、愛に生きた人…彼女たちの人生は実に様々だが、その凛とした生き方と言葉の持つ力には、現代の甘えた40女ごときではとてもとてもかなわない。

 実は本書には、常子のモデルとなった「暮しの手帖社」の大橋鎭子さんも登場する。パンツスーツ姿にさっぱりとしたメイク、まっすぐにこちらをみつめる穏やかで強い瞳が印象的な写真の大橋さんは、取材当時で90歳。「編集者にとって大事なものは、世の中のすべてのものに興味を持つこと」との言葉通り、土日はデパートを歩いて人々の関心事を確認している(!)とか。これまでの道のりにはご苦労もあったはずなのに淡々とされていて、むしろ「毎日の暮らしへの、揺るぎない、しっかりした眼。それが、私たちが平和に暮らすために、一番大切なもの」と、いまを生きるメディア人として「伝えるべきこと」にまっすぐに向き合う姿が印象的。ドラマで花山編集長に常子が教えを受けるように、まるで大橋さんに私たち自身が教え諭されている気分になってくる。

 ほかにも作家の田辺聖子さん、舞台美術家の朝倉摂さん、デザイナーの森英恵さん、岩波ホール支配人の高野悦子さんのほか、小唄や芸事の師匠、華道家、医師、シスターなどさまざまな方々が登場。すでに鬼籍に入られた方もいるものの、素晴らしい先輩方の言葉を同時代に生きる者としてリアルに受け取ることができるのは、実はとっても幸せなことかもしれない。

 中でも異色なのは「100冊の本より、一回の恋愛」という瀬戸内寂聴さんだろう。20代で不倫の末、子供をおいて駆け落ち。2人の男性の間で心揺れる時代もあったが、50歳ですべての煩悩を断ち切るべく出家。女の幸せと悲しみを体験しまくった寂聴さんの言葉はやけに印象的で心が揺さぶられる。

(恋やセックスに)一度、振り回されてみなさいよ〜、どんなにいいものか

 それにしても、「女の人生、まだまだこれから!」とここまで圧倒的に感じさせてくれる本も珍しい。彼女たちに言わせれば、アラフォー、アラフィフだってまだまだ「小娘」だろう。女なればこそ「志」高く生きたい! 先人の姿に元気をもらい、この先の未来が楽しみになってくる。

文=荒井理恵