歯の保険診療と自費診療の違いは?

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「1970年代は、どこの歯科医院にも患者が一日100人くらい来てましたわ。私は診察チェア3台に患者を並べて、次から次へと立ったまま治療していましたね。凄まじかったですよ」

 滋賀・守山市の歯科医・津曲雅美氏。現在は患者が激減して、一日平均15人程度だという。

「ワーキングプアの歯科医がいるのは、ほんまですわ。診療報酬が低いから上げてほしいと、何度も国に頼んできましたが相手にされない。もうお手上げですわ」

 厚労省の全国調査によると、歯科医院1軒あたりの年間診療報酬で最下位だった都道府県は東京で、267万200点(平成24年、診療報酬点数の10倍が歯科医院の収益金額となる)。

 年間収益は約2670万円。1ヵ月あたり約222万円はそれほど低い額とは思えないが、スタッフ(歯科助手)の給料、医療器具のリース代、家賃などの諸経費を差し引くと余裕はないという。

 東京は人口10万人当たりの歯科医師数が約120人で、全国平均の約80人と比較しても突出して多い(平成26年)。

 一軒あたりの患者数が少なくなるのは必然で、保険診療だけでは経営が成り立たない。そこで大半の歯科医が費用を保険診療より高く設定できる、『自費診療(自由診療とも言う)』を並行して行っている。

 そのため初診時の問診票には、『保険のみで治療』、『自費の治療も考える』という設問が大抵用意されている。

 儲け主義の歯科医にとっては、自費診療のほうが利益になるので、問診票が『踏み絵』になるケースもある。だからと言って、費用が安く済む保険診療を選択することが、必ずしも正解と限らない。

 保険と自費の違いで最も分かりやすいのは、被せ物(クラウン)の材質だろう。

 保険は基本的に銀歯1本で、約3000円(3割負担の場合)。自費なら、天然の歯と同じように見えるセラミックなどが選択できる。ただし、東京では1本8万〜15万円程度の費用がかかる。

「保険で治療した銀歯が二次カリエス(治療箇所の虫歯再発)を引き起こして、ひどい状態になっている患者が多いです。治療費が安い保険診療という選択が、歯を失う結果に繋がっていることに気づいてほしい」

 こう指摘するのは、千葉市の吉川歯科医院・吉川英樹院長だ。削って詰める、被せる、という銀歯の保険治療が歯を失う負のサイクルになっていることは本連載でも指摘してきた。

「私が診てきた銀歯の9割以上がマージン(縁)不適合でした。これは銀歯が、歯にぴったりと合っていない状態を指します。その隙間から細菌が侵入して歯の根(根管)で増殖した結果、抜歯となってしまうのです」(吉川院長)

 診療報酬が低い保険診療では、多くの患者を治療しなければ経営が成り立たない。必然的に一人の患者に使える時間は限られ、丁寧な治療は現実的に難しい。

 それなら自費診療は、何がどう違うのか?埼玉県行田市の坂詰和彦院長(坂詰歯科医院)は、歯の型をとる印象と呼ばれる作業が、最も重要だと指摘する。

「フィットしたクラウンを作るには、印象をとる前の『歯肉圧排』が必要です。この手順を踏むと、マージン(縁)の境目が露出した状態で印象を取ることができます。ただし、歯肉圧排には、手間と時間が必要なので大半のクリニックでは自費診療になります」

 銀歯のクラウンを製作している、ベテランの歯科技工士に確認したところ、大半の印象は歯肉圧排されていないと答えた。つまり、マージンが曖昧な銀歯が、二次カリエスの原因になっていた可能性が高い。

●文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班

※週刊ポスト2016年10月7日号