稲田朋美HPより

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 稲田朋美防衛相が2014年9月以降、夫名義で"軍事産業株"を大量取得していたことが発覚し2週間が経ったが、案の定、テレビや新聞はまったく追及する姿勢を見せず、ひたすら沈黙し続けている。

 いったい、この国のマスコミはどうなっているのか。稲田防衛相は20日の会見で、「配偶者の資産公開、プライバシー公開は抵抗がある」と逆ギレしたが、夫の龍示氏は法廷で稲田氏の代理人弁護士を務め、選挙戦でも陰で支援してきた。その政治活動に関係ないわけがない。また、言うまでもなく稲田氏は現在、防衛予算や発注の権限が集中する防衛相のポストに就いている。その気になれば、軍需が湧く政策を猛プッシュして防衛企業の株価を意図的に吊り上げることだって不可能でないのだ。

 しかも、もともと防衛産業は政治家や防衛官僚にとっておいしい利権で溢れかえっている。これまで日本の防衛産業は、防衛省とメーカーとの間に商社が入り、民間の入札なしに防衛相が任意に相手を選んで締結する随意契約がほとんどだった。そのため官製談合、官民癒着の温床となっており、たとえば07年に収賄罪等で逮捕・起訴された守屋武昌元防衛庁事務次官は、防衛商社・山田洋行から装備品納入に関する便宜供与で多数のゴルフ接待や賄賂を受けていた。

 防衛省・自衛隊OBの防衛企業への天下りも後を絶たない。しんぶん赤旗15年6月17日付によれば、防衛企業の13年度契約上位10社に対し、2014年に天下りした防衛省・自衛隊OBは実に64名。とりわけ長年契約金額1位をキープしてきた三菱重工は、12年にも20人、13年に21人、14年に28人と多数の天下りを受け入れている。

 さらに、自民党の政治資金団体である一般財団法人国民政治協会は、防衛企業大手から軒並み企業献金を受け取っている。同団体の14年度政治資金収支報告書によれば、たとえば最大手の三菱重工が3300万円で川崎重工が300万円など。しんぶん赤旗の調べによれば、こうした主要防衛企業による国政協への献金の合計は少なくとも1億7千万円にものぼるという(15年11月29日付)。

 歴史を振り返ると、日露戦争後に推し進められた日本の武器国産化は、終戦及び戦後処理によって一度は全面的に姿を消すが、1950年の朝鮮戦争による特需を契機として生産が再開。そこからアメリカの影響を強く受けつつも、1970年には当時の防衛庁がいわゆる「国産化方針」を定めた。

 しかし、安倍政権が武器の海外輸出を事実上禁止する「武器輸出三原則」を撤廃したことで、防衛産業を取り巻く環境は大きく変貌した。14年6月、防衛省は「国産化方針」に代わり、新たに「防衛生産・技術基盤戦略」を策定。そこでは「世界と地域の平和と安全に貢献」というタテマエの裏で、こんな本音がだだ漏れになっている。

〈これまでは、武器輸出三原則等により、防衛産業にとっての市場は国内の防衛需要に限定されてきた〉
〈防衛生産・技術基盤の維持・強化の施策を通じ、(1)安全保障の主体性の確保、(2)抑止力向上への潜在的な寄与及びバーゲニング・パワーの維持・向上を実現し、ひいては、(3)先端技術による国内産業高度化への寄与をはかる〉

 ようするに、こういうことだ。これまで日本の防衛企業は「武器輸出三原則」の縛りをうけ、基本的に日本政府だけがクライアントだった。もっとも、それゆえに景気に左右されず、国が税金で「保障」してくれるという側面もあったにせよ、必然的に、防衛部門の規模は一定の割合にとどまり、採算が取れないケースもあったと言われる。

 しかし、安倍政権下で海外武器輸出が国策化されたいま、クライアントは未曾有の裾広がり。官民一体となって海外に武器の売り込みをかけるとともに、国内の生産体制を安定化させ、なおかつ米国との共同武器開発や国内ライセンス生産を進展させることで日米同盟の強化をはかろうというのだ。

 事実、稲田防衛相の夫が新たに取得していた三菱重工、川崎重工、IHIという大防衛企業の株は、こうした武器輸出や国産化推進の恩恵を大きくうける銘柄だ。さすがにインサイダー取引的な行為がなされていたとは思えないが、いずれにせよ、えげつない行為には違いない。

 たとえば川崎重工は今年7月、国産新型輸送機C2の量産初号機を航空自衛隊に納入。国産輸送機としては従来機のC1以来実に43年ぶりのことだ。さらに防衛装備品の輸出を目指す海外営業部も設立し、C2の海外輸出を目指している。7月14日付日本経済新聞によれば、アラブ首長国連邦や西側諸国など複数の国が関心を示しているという。

 また、三菱重工は国産初のステルス戦闘機の開発に参加、今年4月には先進技術実証機X2の初飛行を実施しており、その国産初の推力増加機能を備えたエンジンの製造はIHIが担当している。そして現在、離島奪還作戦などを念頭においた新型水陸両用車の日米共同開発研究が防衛省の中で既定路線となっているというが、この開発のベースも三菱重工の技術だ。背景にはアメリカと組むことで第三国へ輸出を進めたいという思惑がある。

 しかし、安倍政権はこうした国産の武器輸出を成長戦略に組み込んでいるが、経済的にも上手くいく保証はどこにもない。昨年のオーストラリアの次期潜水艦共同開発交渉で、三菱重工と川崎重工が国とともに売り込みをかけるも受注を逃したことは記憶に新しい。

『武器輸出と日本企業』(角川新書)の著書のある東京新聞記者・望月衣塑子氏は、インターネット報道メディア「IWJ」の取材に対し、このように答えている。

「(政府が防衛装備を発注している)企業に対して、大量に株を買っているということが、まさに自分の身内のためにどんどん武器輸出をしなさいと言っているようなもので、利益相反じゃないですけど、利益を共にする企業の株を買い、そのための、自分たちの私腹を肥やすために株を買ったとも言えるような行動だと思う」

 繰り返しになるが、稲田氏は安倍政権による武器輸出と国産化の舵取り役である防衛トップだ。その夫が、防衛省のサジ加減ひとつで利益が誘導されるような間柄にあるこうした大手防衛企業の株を保有していること自体、あってはならないことだろう。

 そして、念を押すが、武器輸出は直接的に日本の技術が殺戮やテロに使われうることを意味する。だが、首相は武器を防衛装備と言い換えて死の匂いを消し、防衛相は国策に乗じて私腹を肥やす......。稲田氏の防衛株問題に沈黙するマスコミも含めて、この国は本当に行き着くところまでいってしまうのだろうか。
(宮島みつや)