政治、組織が問われた2016年夏…[樋原伸彦のグローバル・インサイト vol.1]

写真拡大

ようやく秋風が吹いてきたが、2016年日本の夏は暑い夏だったと記憶されるだろう。米国西海岸はいつもと同じように涼しかったが。気候はともあれ、2016年夏は、どのように人々の記憶に残っていくのであろうか。

イギリスのEU離脱の国民投票でこの夏は始まった気がする。日本国内では、7月の参議院選にはじまり、都知事選、生前退位のご意向表明。それから、リオ五輪があって、とかなり忙しい夏だった。そして今、米国は11月の大統領選に向けて、ラストスパートの状況に入りつつある。

そういう風に考えると、僕が2016年夏に今抱くのは、政治の季節、組織の季節(あるいは、より一般化すれば、制度の季節)、だったのではという感慨だ。

経済のファンダメンタルズが、政治とか組織のありようを決めるはず、というのはマルクス以来の社会科学における一つの有力な(あるいはドミナント、と言ってもいい)考え方だ。しかし、どうも逆のダイレクション「政治がむしろ経済を決める」という傾向が最近強まっているのではないか、と改めて考えたくなった。

イギリスのEU離脱が決まった後の金融市場の混乱、そして経済のファンダメンタルズへの悪影響を危惧する評論の数々だけでもその十分な証拠になろう。でも、それは、一つの制度変更の選択にしか過ぎないはずだ。

経済のファンダメンタルズを支えるヒューマン・リソースやキャピタルには何の変化もないのに、大きな混乱を招いた。これを不思議と思う感覚からは逃げてはいけないと思う。

同じようなことが、組織対個人についても言えるのかもしれない。通常は、個々人の能力が高まれば、それら個人の力が集結した組織の力も高まると考えるはずだ。しかし、リオ五輪を振り返れば、それはそうとも言ってられない気になってくる。つまり、組織力というのは必ずしも個々人の能力の単純な集合和ではないようだからだ。

例えば、今回のリオ五輪の日本男子サッカーは決勝トーナメントに進めなかった。十分進めるに値する個々の能力はあった気がするのに、だ。

組織の能力をいう場合、英語ではabilityではなくcapabilityという単語を使う場合が多い。組織力(organizations capabilities)を、例えばクリステンセンは、三つのカテゴリーで捉えようとする。

一つ目は、通常の目に見える能力、リソース。サッカーで言えば、個々のプレーヤーの能力、優秀な選手の数などで、最も一般的な能力のカテゴリーだ。

二つ目が、プロセス力。組織としてのアウトプットを生み出すためには、ファンダメンタルな能力・リソースをどのような手順で組み合わせていくのかを決めなくてはならない。サッカーで言うなら、4-4-2で行くのか、3-5-2で行くのかといったフォーメーションの意思決定、それから、交替の選手のカードをどう切るか、などがこれに当たる。監督の采配力と言ってもいいかもしれない。

普通の事業会社であれば、組織として意思決定するための決裁プロセスをどうするか、などがこれに当たろう。社長からのトップダウン中心のプロセスにするのか、あるいはボトムアップのプロセスにするのか、といった選択だ。

三つ目は、組織としてどう優先順位をつけていくかという能力だ。リソースというのはどこの組織でも限られている。その中で、いかにうまく取捨選択ができるかという能力だ。サッカーについて言えば、日本サッカー協会の役割になるのかもしれない。監督を誰にするのか。五輪前の事前の試合をどう組むのか。オーバーエイジの選手として誰を呼び、どう実際の試合で使うのか、などの判断能力がこの三つめのcapabilityと言える。

このように、組織能力というものを三つに分けて考えてみると、かなり見晴らしが良くなるのではないだろうか。さらに言えば、二つ目のプロセス力と三つ目の優先順位の判断力は、より昇華していくと、組織文化といえるものになってくる。「ブラジルのサッカー」「日本のサッカー」「リアルマドリッドのサッカー」という様に人々には認識されるようになる。

さて、今回の五輪で日本のサッカーの組織能力は発揮されたであろうか。個々の選手の能力は高かったが、プロセス力と優先順位判断力では色々と問題があった気がする。そこに少しだけ、工夫があれば、十分決勝トーナメントには進出できた気がする。その意味でも、プロセス力、優先順位判断力、さらには組織文化は、組織の勝敗を左右してしまうのだ。
 
今回の五輪で日本は予想以上にメダルを量産した。その理由はおそらく、4年後の東京を見据えて、上述したプロセス力や優先順位判断力を研ぎ澄ますインセンティブが高まったからではなかろうか。

これはおそらく、企業経営でも応用可能だろう。特に大企業の場合は、効果はすぐ現れるような気がする。

スタートアップ企業の場合は、たぶん話はもう少し複雑になる。起業したばかりの企業は、一つ目の個々の能力・リソースが混沌としながら際立っているような場合が多いからだ。そして、スタートアップ企業の勝敗は、その企業を取り巻く環境(エコシステム)のcapabilitiesに大きく左右されることになるはずだ。