“時間差褒め”“最後まで聞く”部下をやる気にさせるトーク術

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立て板に水のトークは、ビジネスに必要ない。とはいえ、マジメに拝聴するだけでは先に進まない。相手がこちらに(意識的・無意識的に)求めていることを的確に察知し、シンプルに返答すること。相手の立場に立てば、心を溶かすことができる!

部下のやる気を向上させるのも、マネジメント層の任務だ。褒めることはその一手段だが、土岐氏はこう語る。

「上司は意思決定の頻度と重みが増すだけで部下より偉いわけではないです。だから、常に部下のいい面に着目して、そこに尊敬と感謝の念を持つ。いい仕事をしたら、『よくやったな』ではなく、『すごい、俺には到底できないよ』と同志的な目線での声がけがいい」

河野氏も褒め言葉には、工夫が必要だと語る。そのポイントは、具体性。例えば、「あのときのあなたの発言は、とても的確でした。おかげでその後の司会進行がスムーズになりました」とか「1週間前倒しでの契約取得、ありがとうございます。おかげで契約目標件数を達成できました」と成果や数字をあげるのが効果的だという。

部下はどういう行動がチームに喜ばれたのかが明確に理解できるため、その後の行動に具体的に反映できる。受けた期待に対して、それ以上のパフォーマンスで応え、そのことに対して感謝を受ける。それを糧に、また新たな期待に応えるための努力をする――。フィードバック(声がけ)に理由を添えることで、好循環サイクルを継続的なものにできるのだ。

「逆に、せっかく褒めてもあまり効果的でないのは、『よくやってくれましたね。ありがとう』『がんばっていましたね』といった抽象的な表現。何を褒められているのかがわかりにくいため、上司の気持ちの半分以下しか部下に伝えられません」(河野氏)

時間差で褒めることも、思いを伝える確かな手段となる、と河野氏。

部下の成功体験をその場できちんと認識してもらうために、グッドジョブと感じた瞬間には、たとえ自分が忙しかったとしても、「○○の件、とても助かりました」とすぐに伝える。

そして、大事なのは、念押しで褒めることだ。例えば自宅へ戻ってからメールで「ちゃんと言えなかったけれど、○○の件の仕事は完璧でした」と。褒められて嫌な人はいない。ほんのささいな一言でも複数回に分けることによって部下の心をとろけさせるのだ。

「あまり露骨にベタベタ褒めるのはよくありませんが、日本人特有のちょっとドライな人間関係の距離感よりも、少しだけ踏み込んで心情に訴えかける感じが、部下のモチベーションをより上げるのだと思います」(河野氏)

人の話に自分の話をかぶせないのも、部下とのトークにおける重要項目だ。実はこれ、対顧客・対上司にも言えることだ。なぜ、かぶせてはいけないのだろうか。

「ひとつは、早とちりを防ぐことです。日本語の文法の構造上、話を最後の最後まで聞かないと、否定しているか肯定しているかがわかりません。『……だと思う』のか『……ではないと思う』のか。話の方向性は180度違います。だから、途中で部下の話に『あ、その件はね……』などと口を挟むと、相手の意図と反した理解をしてしまう危険性があります。相手との距離が近いケースほど、ふだんから1を聞いて10を知る、といった会話のリズムができていて、つい口を挟んでしまうのです。

2つ目は、相手の感情を害さないようにするということ。部下であれ、顧客・上司であれ、自分の考えや思いを伝えたくて話をしています。これから話の核心というところで、話をかぶせられたり、遮られたりすると、非常に腹立たしくなります。そうなると、うまくいく話や商談も、感情のもつれによって、誤解を呼んだりご破算になったりすることが少なくありません」

河野氏の経験では、この話をかぶせることのリスクは外国人ビジネスパーソンを相手にした英語トークでも同じことが言えるという。話を遮るとそれまで穏やかに話していた外国人が急にヒートアップし、議論が紛糾してしまうことがあるのだ。「話を遮らない」は万国共通のルールなのだ。

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河野英太郎
デロイト トーマツコンサルティング シニアマネジャー。
1973年生まれ。東京大学では水泳部主将として活躍。大手広告代理店などを経て現職。著書に『99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ』。
 
土岐大介
前ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント代表取締役社長。
1961年生まれ。日本鋼管、日興証券、ゴールドマン・サックス証券および上記を経て、現在は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授、東北大学特任教授。
 

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(大塚常好=文 堀隆弘、平地勲=撮影)