■極私的! 月報・青学陸上部 第10回

 青山学院大学同窓祭―――。

 9月22日、小雨が降る中、東京・渋谷の青山キャンパスで青山学院大学同窓祭が行なわれた。その中のイベントのひとつに「陸上部応援ステージ」というのがある。箱根駅伝に勝ち、全国区になった陸上部を応援する企画で、昨年も催され、その場で出雲駅伝の登録メンバーが発表された。

 今年は雨のために体育館内で行なわれることになった。出雲駅伝登録メンバーの10名が、部内ではすでに4日前の全体ミーティングで発表されていた。このイベントがそのメンバーの初お披露目になる。イベントを盛り上げ、OBや在校生の愛校心をくすぐる原晋監督らしい楽しい演出だ。

 応援団とチアリーディングのパフォーマンスで盛り上がったところで、原監督と出雲駅伝登録メンバー10名が登壇した。

「出雲で勝てるメンバーです。応援よろしくお願いします」

 原監督が、そう言うと割れんばかりの拍手が起こった。壇上にいる選手たちの表情は、晴れやかで自信に満ちていたが、ちょっと照れくさそうだった。

 同窓祭の前日、青学・相模原キャンパスの陸上競技場で非常に重要な学内TT(タイムトライアル)5000mが行なわれた。

 なぜ、重要なのか。実は、この3日前に出雲駅伝に登録するメンバー10名が発表されている。

■4年生:安藤悠哉、一色恭志、池田生成(きなり)、茂木亮介
■3年生:下田裕太、田村和希
■2年生:梶谷瑠哉、富田浩之
■1年生:鈴木塁人(たかと)、吉田祐也

 全員が夏季選抜合宿の中から選出されており、好調を維持していた選手ばかりだ。1年生の鈴木と吉田も決してサプライズではなく、実力でメンバー入りを勝ち取った。

 ただ、出雲駅伝の最終的な登録人数は8名、本番に出走できる選手は6名だ。この6つの椅子を巡って重要なポイントとなるのが学内TTである。原監督にとっては大会20日前の選手の現状と今後の状態、本番での出走を見極める意味があり、選手にとってはここでタイムと結果を出せば、出雲を走る可能性が限りなく高くなる。それゆえある意味、普通の大会よりも熱いガチンコ勝負なのだ。

 気温は22℃、時折吹く風が心地よい。

「涼しくて最高のコンディション。いいタイムが出そうだけど、今回は内容と結果。どれだけ積極的に前に出て勝てるかでしょう」

 原監督がポイントを挙げた。

 学内TT5000mに参加するのは全38名、木村光佑(2年)、谷野航平(1年)、仲正太郎(1年)の3名は3000mを走る。いつもとはちょっと違うピリッとした空気の中、原監督がスタートラインの横に立った。

「位置について。GO!」

 原監督の大きな声が弾んだ。

 10名は出雲の杜を駆けるために、それ以外の28名は次の全日本大学駅伝をにらんで学内TTがスタートした。

 序盤、一色が先頭に立ち、引っ張る。だが、突き離す感じはしない。

「今回はペース走を意識していました。大会20日前に全力を出してしまうと本番に合わせて調整するのが難しくなるし、僕が13分50秒ぐらいでいくと誰もついてこなくなる。14分10秒ぐらいだとチームの底上げにつながるし、自分の調整にもつながりますから」

 走り終わった後、一色はそう言った。

 その走りは確かにチーム全体のことを考えてのものだった。走りながら中村祐紀(3年)らに「前に出ろ」と声をかけ、選手を盛り上げていた。3000mまで1km2分50秒ペース、一色のいう14分10秒目安で引っ張った。

 だが、3600mで田村和が前に出るとペースが上がった。

「14分台一桁いけるよ!」

 原監督が選手に激励の声をかける。

 大学生の記録では14分10秒以内がトップレベルと言われており、いかにそのレベルの選手を揃えるかが駅伝に勝つために重要なキーとなっている。

 4200mを越えると田村和、茂木、下田の3人が抜け出た。後続との距離が少し開き、誰もついてこない。トップ争いは完全に3人に絞られた。残り200m、田村和、茂木、下田とつづいた。そのままフィニッシュかと思った瞬間、茂木が得意のスピードを活かして田村和を差した。

「13分59秒5!」

 14分を切るタイムでトップ。トラックでのスピードが持ち味な茂木が最後に本領を発揮した形だ。

 田村和は、悔しさを爆発させた。

「いやぁー、ここから新たな勝ちパターンを生み出そうとして、残り1000mでバーンといったけど最後、茂木さん、マジで恐いっす」

 茂木はニコニコしている。

 御嶽合宿では全日本インカレに向けて2人で練習をこなしていた。先輩後輩だが冗談を言い合い、楽しそうに調整していた。大会では田村和が6位に入賞し、茂木は13位に終わったが、今回の結果でその悔しさを少しは晴らすことができたことだろう。

 今回の学内TTの結果を見てみると、いくつかうれしい発見があった。キャプテンの安藤が5位(14分2秒6)で自分の走りを取り戻してきたこと。そして、御嶽合宿と妙高高原合宿ではそれほど目立たなかったが、富田が6位(14分3秒2)に入り、いい走りを見せてくれたことである。

「6位は悔しいです。一色さんがペー走だったので、なんとか5位以内にと思っていたんですが......。3人が前に出て、あーヤバいなって思って、一度は前に行こうとしたんです。でも、逆に行くと厳しいかなと感じて4着狙いでいったんです。そこで最後、前が落ちてきたら拾えるかなって思ったんですけど、最後の詰めが甘かったですね。自分の実力のなさが出ました」

 そう言って、富田は唇を噛み締めた。

 出雲駅伝に出走できる選手は6名。タイムの良い順になるとエースの一色を除き、茂木、田村和、下田、梶谷、安藤が走ることになる。単純にこの結果だけで最終選考されるわけではないが、しかし「勝負」と位置付けた学内TTに勝つ意味は大きい。それを知るからこその富田の落胆だった。

「今のままの順位では出雲を走れない。世田谷記録会(10月1日)になるのか、学内TTになるのかわからないですけど、次がラストチャンスになります。13分台を狙い、今日負けた選手には絶対に勝ちたいと思います」

 富田は9名のメンバー、そして自分に勝った選手たちへの強烈な対抗心を隠そうとはしない。むしろ剥き出しにして出雲駅伝を走る1枚の切符を奪おうとしている。

「自分は今年2月に二寮に移って、半年間そこにいました。9月に町田寮に戻ったんですけど、今回は二寮でもやれるんだというところを見せたかったんです。そのプライドがあるので、絶対に負けたくないです」

 そう言うと、移ったばかりという町田寮にジョグをしながら帰っていった。

 その後ろ姿を見て、強い選手になるなと思った。自分の弱さを謙虚に認めつつ、負けん気は滅法強い。アスリートとしての伸びシロは走りからだけではなく、個人の性格や意識からも感じられるものなのだ。

 富田のことが気になったのは、伊藤雅一マネージャーが「富田はちょっと前まで二寮だったんです。でも復帰して、ここまで本当によく頑張りました」と語ってくれたことがキッカケだった。第二寮、いわゆる二寮と言われる存在は聞いたことがあったが、一体どういうものなのだろうか。

 伊藤マネージャーが説明してくれた。

「うちは、町田寮と二寮に分かれています。町田は主力と1年生、二寮は実力がない選手、故障した選手など9名ほどが生活しています。1年生が町田寮に入るのは、早くチームに慣れて監督とコミュニケーションを取る必要があるからです。二寮は相模原キャンパスの近くにあって部屋が若干広い。大学のフィットネスセンターが午後9時まで使用できるし、町田までの往復ジョグがなくなるので、故障などでずっと走れない選手にとってはいいんですが、タイムが上がらない選手にとっては本人の本気(やる気)が問われます」

 つまり町田寮は1軍、二寮は2軍ということになる。2つの寮には当然だが環境、待遇面の違いがある。二寮は普通のマンションの一室(2部屋)で、朝食と夕食は相模原キャンパスの学食に移動して摂る。また週2回、町田寮で行なわれているトレーナーのケアが二寮にはないので、予約して町田寮に行くか、周辺の治療院に自分で予約をして行くことになる。規則はあるが学生しかいないので、自分を律する気持ちを強く持たなければ簡単に横道に逸れてしまう。ある意味、町田寮にいる選手よりも自己や競技に対する厳しさが求められるのだ。

 だが、故障が回復して本来の力を発揮できるようになったり、当初は力がない選手でも一生懸命に練習を積み重ね、諦めないで結果を出せば、チャンスが与えられる。そのために半期に一度、町田寮と二寮で選手を入れ替えている。

 今年の3月、4年生が卒業して寮の入れ替えと部屋替えがあり、その後9月の全日本インカレ終了後、寮の入れ替えと部屋替えが同時に行なわれた。部屋替えは基本的に上級生と下級生が2人一組となり、この時期は3大駅伝に絡みそうな選手同士のペアになる。たとえば一色と梶谷という感じだ。この時期の部屋替えは駅伝シーズンに向けて気持ちを切り替える「儀式」になっているのだ。

 この時、富田は二寮から町田寮に越してきた。

「富田のように実力があってもケガなどで二寮で生活し、頑張って町田に戻ってくる選手は過去にもいました。一昨年のキャプテンの藤川拓也(現・中国電力)さんも二寮を経験していますが、復帰後、すごい活躍をしています」

 伊藤マネージャーの言葉にあるように故障から回復し、二寮を出た選手は概ね活躍している。藤川は右大腿骨の疲労骨折のために二寮で生活し、復帰すると箱根で9区を走り、区間記録に3秒と迫る走り(1時間8分4秒)を見せ、初優勝に貢献した。箱根2連覇達成時のエース久保田和真(現・九電工)も3年生の時に二寮を経験しており、現在4年生で出雲駅伝の登録メンバー入りした池田生成も2年生の9月まで二寮で生活していた。その後、池田は3年生の時、関東インカレ2部のハーフマラソンで優勝し、原監督に「ミラクル」と言わしめた。

 学生ながら1軍、2軍に区別される厳しい世界だが、部内全体の競争意識を高め、ハングリー精神を養い、チームを戦う集団にしていくためには、この2つの寮とそこにある"格差"は必要なものであろう。だからこそ、池田や富田のような選手が出てくるのだ。それが青学の"強み"でもある。

「なるほどねぇ」

 原監督はレース終了後、そう呟いた。

 目標とする13分台、14分一桁台で走った選手は茂木から吉田(14分9秒5)まで12名になった。その中で出雲駅伝の登録メンバーは9名、夏季選抜合宿組は11名に及ぶ。7位(14分5秒3)の中村祐紀だけがチャレンジ組だが、もともと妙高高原合宿の構想に入っていた選手である。夏季合宿の成果が結果につながり、中間層が厚くなった。また、出雲を走る選手の目星もだいたいついたのだろう。「なるほどねぇ」は学内TTの結果と原監督の予想に差異がなく、自らのチームに「勝てる」という確信をもった呟きに違いない。

「出雲は今日までだと上位5人に一色、それに鈴木が絡んでくる感じかなぁ。次は世田谷(記録会)に出る予定です。出雲駅伝の9日前でいい刺激になりますし、そこで最終的に6人が見えてくると思います」

 原監督は表情を崩して、そう言った。出雲駅伝に向けて6つの椅子を巡る争いはいよいよ佳境を迎える。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun