ひと言でまとめれば、「信頼の表われ」になるのだろうか。

 10月のロシアW杯最終予選に臨む日本代表のメンバーは、これまでとほぼ変わらない顔ぶれとなっている。

 変化の乏しい顔ぶれが不安視されるのは、主力選手の多くが所属クラブで出場機会を失っているからだ。スタメンと目される選手だけでなく、途中出場のカードと想定される選手のなかにも、クラブでゲームに出ていない選手がいる。

 現実的な対応として考えれば、メンバーの大幅な入れ替えは難しい。ハリルホジッチ監督は主力と目される選手への信頼を示し、彼らの奮起を促すことで、難局を乗り切ろうとしているのだろう。

 ただ、そこにはリスクも伴う。他でもない指揮官が「批判もあるでしょう」と話したように、日本代表入りにふさわしいアピールをしている選手はいるからだ。

 たとえば、斎藤学であり、大迫勇也であり、中村憲剛である。主力選手をメンバーから外したら、「代わりに誰を務めるのか」とハリルホジッチ監督は話すが、日本代表で戦う準備のできている選手はいる。戦略的な視点に立てば、9月のUAE戦のような展開になったときに、空中戦を得意とするストライカーを準備しておかなくてもいいのだろうか。

 主力への信頼を押し出した裏側には、代表チームの在りかたが揺らぎはしないか、との不安が貼り付く。メンバー選考は監督の専権事項だとしても、結果を残している選手が選ばれないのは不満の種として燻るものだ。

 ハリルホジッチ監督も、そのあたりは考えているのだろう。川島永嗣の招集には、チームを内側からまとめていきたい意図がうかがえる。

 代表チームのメンバー選考は、ハリルホジッチ監督の専権事項である。その選考が正しかったのかどうかは、結果でのみ判断される。現時点ですでに漂っている批判をかわすためには、ホームのイラク戦に勝利し、アウェイのオーストラリア戦で引き分け以上の結果を残さなければならない。2試合で勝点4以上の成績はマストだ。連勝スタートのオーストラリアを走らせないためにも、勝点3を与えてはいけない。
 
 今回と同じような状況に立たされた9月の最終予選で、ハリルホジッチ監督は海外組のコンディションを嘆く発言をしている。一か月前よりさらにゲーム勘やゲーム体力が鈍っている選手もいるなかで、コンディションに不安がなく時差の影響も受けない選手を招集しなかった。
 
 クラブで試合に出ている選手と、ピッチから遠ざかっている選手は、メンタルの色合いが決定的に異なる。
 
 出場機会を得ている選手は、自信を持ってプレーする。積極的なトライを恐れない。

 対して試合から遠ざかっている選手は、心に不安が忍び寄る。ひとつのミスでリズムを崩し、修正が効かなくなってしまうことがある。

 メンバー選考で示した主力選手への信頼の証が、万が一にでも結果へ結びつかなかったら──ハリルホジッチ監督の進退問題が浮上する。UAE戦のような失敗を繰り返したら、監督交代は避けられないだろう。