「夢を見ない人間に未来はない」追悼、シモン・ペレス──前イスラエル大統領が『WIRED』に語った言葉

写真拡大

9月28日、93歳でこの世を去ったイスラエル国第9代大統領、シモン・ペレス。パレスチナとの和平交渉に尽力したことでノーベル平和賞を受賞し、政界引退後はスタートアップ啓蒙活動も行っていた。建国の瞬間からイスラエルのことを考え続けてきた男が、その生涯をかけて追い続けた夢とは何だったのか。2016年2月に行った独占インタヴュー。(『WIRED』 VOL.22より転載)

シモン・ペレス|SHIMON PERES
1923年、ポーランド(現ベラルーシ)生まれ。1934年に、当時英国の委任統治下にあった現在のイスラエルに移住。48年のイスラエル建国にともなう第1次中東戦争では海軍を指揮した。首相や外相などを歴任し、2007〜14年まで第9代大統領を務める。外相時代には、イスラエルとパレスチナが調印したオスロ合意の成立に貢献。1994年、中東へ平和への尽力を理由に、当時のラビン首相、アラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長とともに、ノーベル平和賞を受賞。

「「夢を見ない人間に未来はない」追悼、シモン・ペレス──前イスラエル大統領が『WIRED』に語った言葉」の写真・リンク付きの記事はこちら

われわれの国の歴史は古い。紀元前11世紀にはすでに国があった。だが2,000年も前に、それは失われた。一方で、イスラエルという国はとても若い。67年前に建国がなされ、世界中のユダヤ人たちはこの場所に帰ってきた。みな昔と同じように、畑を耕したり羊を飼って暮らしたかった。しかし、国土の多くが湿地や荒れ地で、そんな状態ではなかったし、何より水がなかった。さらにいえば石油もなければ、金も採れなかった。われわれは何も与えられなかったのだ。

そんななか、われわれが授かっていたのは人間だけだった。だから、教育を重視し、科学を学ぶ人間を増やした。その結果、点滴灌漑や、海水の淡水化など、厳しい環境で生きぬくための技術が生まれた。国家を成長させることを考えると、国土を大きくするか、人口を増やすかという選択になることが多い。だが、われわれは科学の力で国の生産性を上げて、この小さな国に大きな存在感を与えた。

未来のために、いま力を入れるべきだと考えているのは、脳科学だ。この分野には果てがなく、われわれはその細部をまだ知らない。脳は常に変化をつづけられる驚くべき構造をもっていて、エネルギー効率が非常によい。このような脳の驚異は人間とは何かという根源的な問いにつながっている。

人間のことを機械のようにハードウェアとソフトウェアを分けて考えるのは無意味なのだ。例えばわれわれは、目を動かすと同時に何かを見る。そして感情を動かされ想像を巡らせ、また目を動かす。この絶え間なくつながった流れこそが、人間の本質だ。

想像力がなく、夢を見ない人間に未来はない。世のなかにはたくさんの専門家がいるが、彼らは過去起きたことの専門家にすぎない。これから起こる何かについては、誰も確かなことは言えないのだ。だからわれわれは、子どもたち、そして自分自身に夢を見ることを教えなければならない。これまでに起こったことがない出来事を想像できる力こそが、未来を生き抜くためには必要なのだから。

INFORMATION

『WIRED』VOL.22「イスラエル ゼロワン国家の夢」

雑誌『WIRED』日本版のVOL.22「病気にならないカラダ」の第2特集では、“生まれながらのスタートアップ・ネイション”、イスラエルのテック&ビジネスシーンを紹介。起業家たちのリアル、水がないからこそ発達させることのできた桁外れの水技術、大物VCが語るヘルスケアビジネス必勝法から元大統領シモン・ペレスとの対話まで。ヘルス、水、宇宙、脳、ARの最前線を、ノンフィクションライター・安田峰俊が現地で探った。