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分野は違っても、それぞれのフィールドで組織の生産性向上に取り組むプロフェッショナルがいる。経営戦略としてのワーク・ライフバランスを世に広める小室淑恵氏と、AIを使った組織の活性化を行っている日立製作所の矢野和男氏だ。

小室氏率いるワーク・ライフバランス社は、これまでに900社以上でコンサルティングを手がけ、労働時間を減らし、企業の業績を上げてきた。また矢野氏は、人間の身体の動きを読み取る"加速度センサー"のついたウェアラブルデバイスを使い、集団におけるハピネス(幸せ)を定量化することに成功。さらにハピネス度を上げると、職場の業績も上がるという調査結果を残している。

組織の生産性向上に必要な"絶対条件"とは何なのか。両社のコラボレーションセミナーにおける2人の対談の様子を一部紹介する。

○労働時間の削減×コミュニケーションの相乗効果とは

ワーク・ライフバランス社の小室氏ははじめに、残業時間を減らし、業績を上げる過程では「チームの関係性」を最も大切にしていると語った。

一例として挙げたあるIT企業では、「誰かが何かを言ったら"いいね!"とうなずく」「会議中、誰かの発言に対して"なるほど!"とうなずく役を作る」など、チームメンバーの発言に対して、誰かが反応するための施策を実施。その結果、発言や相談のしやすい職場がうまれたという。

この状態で労働時間を削減すると、リーマンショック後最高の売上高を記録。そのメカニズムについて小室氏は、「労働時間が減ると、メンバーそれぞれに違う"ライフ"のインプットができる。それが緊張と萎縮の解消されたチームに持ち寄られれば、今までになかった発想や思考がうまれる」と説明している。ここでうまれたものが、ビジネスにおける力となるのだ。

また時間の制約が、チーム内の関係性を向上させるという側面もあるとのこと。ある企業では、"時間内で成果をあげたチームのみ表彰する"という施策をとった。チームメンバーのうち、定めた労働時間を1人でもオーバーすると、競争の舞台にも立てない仕組みだ。

するとチーム内で変化が起こったという。今まで長時間労働になりがちだった業績の高いメンバーが、時短勤務の女性から効率化のスキルを学んだり、チームとして勝つために、他のメンバーの育成行動を取ったりするようになったのだ。

この現象について日立製作所の矢野氏は、「時間という制約が、コミュニケーションの必然性をうんでいる」と指摘した。「コミュニケーションは手段であり、コストであるという意識があるかもしれないが、実際には、情報の伝達という役割以外にも、チーム間の信頼や個人の幸福感をうんでいる」。結果として気づかないうちに、チームのパフォーマンスに影響していると分析している。

○人事評価で計りきれないムード作りの重要性

また2人が共感をおぼえたポイントは「ハピネスも業績も集団現象である」という点だ。

小室氏は、「業績のいい人は、その他の人たちが作った雰囲気をうまくいかして自分の成果を得ている。単体で成果が出せるわけではない。集団の中でこそ成果が出せている」と主張。矢野氏も、「うまい声掛けをして、いいムードを作っている人がものすごくチームのパフォーマンスに影響を与えている。人事評価や制度では計りきれないものだと思う」と語った。

矢野氏の研究では、ちょっとしたことで職場のハピネスが変わることも分かっている。ある集団をランダムに半分に分け、Aグループには今週"よかったこと"を3つ、Bグループには今週"あったこと"を3つ、チーム内で5週間にわたってあげてもらった。その結果、Aグループのメンバーの方が、ハピネス度が高く、チームへの帰属意識も高くなり、午前中から体の動きが活発になるという結果が出たという。

○データが証明「ライフとワークは分類できない」

また矢野氏は、「就業時間と個人の時間は分類できないということを、データはものすごく客観的に示している」とも語った。プロサッカーチームの選手にウェアラブルセンサーを付け、ゲームのパフォーマンスに何が好影響を及ぼしたか調べたところ、”睡眠時間や日常生活の規則性”という結果がでたとのこと。さらに別の研究では、平日と休日の睡眠時間の差が小さい人の方が、大きい人に比べて、集中力(平日昼間)が高いことも分かったのだ。

加えて「人間は1日トータルで平均8万回くらいしか動けない」「早い動きとゆっくりの動きの比率は自分の意思で変えられない」などの研究結果も披露。そのため例えば、深夜2時まで働いたとしても、翌日にマイナスの影響が出ることは避けられないと指摘した。矢野氏は、「人間は自分の意思ではコントロールできない、生物学的な制約に支配されているということを、多くのマネジメントに理解してほしい」と語った。

小室氏も、「寝だめしているタイプの人は、平日無理をして、土日で何とかするという発想をしがちだ。しかしそれでは、恒常的に集中力が低くなってしまい、生産性の高い仕事ができない。マネジメントは従業員が余力を残した状態で退社させることで、日中の仕事の生産性を上げることができる」と共感した。

プライベート・家庭の時間で得られる健康や幸せ、職場でチームとして得られる幸せが相乗効果をうみ、生産性の高い組織を作り上げる。なんだか夢のような話だが、コンサルティングの実績や、膨大な研究・調査のデータが、それを証明しているようだ。

(横山茉紀)