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●CEATECはどう変わっていくのか?
2016年、CEATEC JAPANが変わる。長年にわたって千葉県の幕張メッセにて開催されてきた同展示会だが、これまでの最先端IT・エレクトロニクス総合展という立ち位置から、新たにCPS/IoT Exhibitionと銘打って、新たな船出を迎える。

ITおよびエレクトロニクスという言葉が消え、IoTならびにCPS(Cyber Physical System)という名称が用いられる裏には何があったのか、そして、なぜ、今、このタイミングで変革する必要があったのか。新生CEATECのキーマンにして、主催団体の1つである電子情報技術産業協会(JEITA)の代表理事 専務理事を務める長尾尚人氏に、話を聞いた。

--この数年にわたって、CEATECはこれからどうなっていくのか、という話を各所から聞いていた身からすると、ようやくか、という思いと、今、このタイミングで変えるのか、という思いが半々なのですが、今回、決断に至った経緯は、どのようなものなのでしょう?

長尾氏:変える必要性は以前から感じていましたが、なかなか踏み切れませんでした。国内外問わず、展示会というものは、その分野のリーディングカンパニーの事業部が有する予算で成り立っている側面があります。市場が右肩上がりの時代であれば、事業部ごとに個別に育っていれば、企業として成長できていたからです。

しかし、リーマンショック以降、世界がシュリンクし、企業の成長が難しくなっていく中、日本の企業、特に総合家電メーカーはそうした事業部ごとの集合体のビジネスが通用しないということに気づかなくてはいけませんでした。この間、バーチャルマニュファクチャリングや製品とサービスの一体化といったビジネスモデルの変化があったにも関わらず、CEATECも旧態依然の姿でそのまま残ってしまった。本来であれば5〜6年前から変わるべきだったはずです。

今回、展示会の方向性を変えるという決断をしましたが、本当にこれまで出展してきてくれた企業がついてきてくれるかどうかといった点などでリスクが生じることも理解しています。しかし、IoTという道具がバーチャルマニュファクチャリングなどの新たなビジネスモデルを加速させる段階に至り、悠長なことを言ってもいられなくなりました。展示会としても、世界のトレンドを生み出していく企業を育てていく支援や、新たなトレンドとしてどのようなものがあるのか、といったことを見せていく必要がでてきており、だからこその決断といえます。

IoTの時代は、とにかく「つながる」ということが必要となります。これは今回のテーマ「つながる社会、共創する未来」にも言えますが、産業同士がつながっていくことにもなります。そのため、CEATEC JAPAN 2016では、ITがつなぎ役になるのか、AIやロボティクスがつなげるのかといった技術面に加え、政策や国同士、特に独米との連携なども真剣に進めなければ勝ち抜けない、ということも含めて見せたうえで、企業がこの先、生き残っていくために必要な場であるという意識につなげたいと思っています。

●なぜCEATECはCPSとIoTを選んだのか
--目指す方向性はわかりましたが、具体的には、どのようにそれを目指すのでしょう?

長尾氏:これまでのCEATECは家電ショーとしては中途半端だったと思っています。本来であれば白物家電が暮らしの中でどのようにつながっていくのか、といった姿を見せていく必要があったと思いますが、テレビとスマートフォンに偏ってしまっていました。確かに映像は華やかに見える部分もありますが、そこは人間の生活の一部であって、生活の主体ではありません。新生CEATECでは、シーン別にエリアを分けることで、単に部品を売るのではなく、そのシーンにマッチするイメージを見せてもらいたいと出展者にはお願いしており、そこのどこにビジネスチャンスがあるのか、というビジネスモデルそのものも出してもらいたいともお願いしています。

例えば、自動運転が実用化されれば、今以上にライドシェアが流行り、自前でクルマを持たない時代になることが考えられますが、果たしてそれで人間の生活に幸福がもたらされるのか、という部分がそういった部分にあたります。確かに、見せ方は難しいことは理解しています。しかし、そこが自社の成長力となる、ということを多くの人の目に見せられるのがCEATECという場でありたいと考えており、主催者側として、そうした取り組みを助けることができればと考えています。

企業側も、どう出展すれば良いのか、といった面で悩んでいますが、その点については、企業文化という殻を自らどうやって破るかが鍵になると見ています。IoTの最大の敵は社内の事業部門の間に立ちはだかる見えない壁であり、それが垂直の事業を水平に展開することの障壁となります。そのため、事業部に横串を入れる、という経営者の手腕が問われるレベルの話にもなってくるとも言えます。

こうした新たな見せ方を行うという動きは単に今年だけで終わる話ではありません。今年の取り組みは、これからのビジネスに向けた企業間での優劣が見える、といったところで、来年以降の発展につながる程度のものだと思ってますので、今年の経験を来年以降、どう生かして行ってもらえるか、という点に注目したいですね。

--そうした中、IoTとCPSという言葉を選びました。IoTはともかく、CPSという言葉を選んだ意図はどこにあるのでしょう?

長尾氏:CPSは敢えて入れました。IoTはあくまで道具であり、CPSはそれを活用して社会を変える、という意味を込めています。ただ、世の中の人たちがわかりやすいのならばIoTだけでも良いでしょうし、政府が掲げる「Society(ソサエティー)5.0」が浸透していくなら、それでも良いと思っています。いずれにしても、本質的な目的はサイバー空間と現実が一体化して、何かを作るということにあり、将来的にそうしたことを踏まえた次代の日本を背負える企業による日本式IoTのビジョンなどが出てきてくれる場を提供できればと思っています。

そのためにはJEITAそのものも変わる必要があります。日本に工業会は数多ありますが、それらをつなぎ合わせるミッドフィルダー的な役割を汗をかいて担っていくことを目指していきます。CEATECは、そうした変わっていくビジネスの1つの象徴になると思っています。

●百貨店から専門業者の集合体へ、未来のCEATECの姿とは?
--今回、キーワードとして「異業種」、「ベンチャー」、「海外」の3つが掲げられています。また、カンファレンスとして「地方創生」という言葉も掲げられています。そうした点でも前述の"つながる"という言葉の意味に重みがでてきそうですが?

長尾氏:地方創生というのは、空いた工場で野菜を作る、といった類の話ではなく、製品とサービスの一体化モデルをいかに生み出すのか、という点にあると思います。農業や観光といった分野は現状、生産性がそれほど高くありませんが、IoTの活用で生産性を向上できることが見込めるようになりますので、そうした点に注目です。

CEATECのカンファレンスとしても、そうした地方での取り組み事例を見せるセッションなども用意しています。これまで、部品メーカーは最終セットメーカーを見てビジネスをしていましたが、IoT時代になり、その先のエンドユーザーを意識できるようになります。そういった姿も1つの"つながる"というポイントになってきます。

--キーワードの1つである"海外"も、ドイツをはじめ、イギリス、フランス、アメリカと各国のIoT関連動向の紹介を行うカンファレンスを用意するなど、かなり意識しているイメージがあります

長尾氏:ドイツは特に意識しています。日本と並ぶものづくり大国という認識です。そしてサービス分野の巨頭がアメリカで、この2国が連携を図ると、日本のものづくり産業は終わると見ています。しかし、一方で日本とアメリカが連携を強めるとドイツが孤立してしまうことになります。そういう意味では、日本が仲介役として機能することが最適ではないか、と考え、今回、政策を発信する場を設けました。どうしてもこれまで、そうした主催者側からの発信力が弱かったところがありました。今後、そこについては強化していきたいと考えています。

--新生CEATECとして、色々なことをやりたい、ということは分かりましたが、最終的にCEATECが向かうところはどういった物になるのでしょう?長尾氏:数年後、エリアごとに、そこに関わる企業だけが集まって複合的な展示を行っている集合体ですね。言ってしまえば、百貨店形式で、1社が1つのブースで色々見せるのではなく、専門業者が集まって、新たな価値を見せる。そういった企業同士が共同で何かを見せるという、産業間連携を実現できる場にしたいと思ってます。農業とICTとか、製造業とSIerとか、色々あると思っています。地方創生の話でも少し出ましたが、IoTの進展がユーザー業界とのマッチングを実現しやすくして行きますし、世の中もそっちに向かっていくと思います。そういう点では、タスクフォースを組んで、ユーザー業界と産業界のマッチングなども推進できれば良いなという思いはあります。

--最後に、CEATEC JAPAN 2016に興味を持っている皆さんにメッセージをお願いします長尾氏:競争できる分野を自ら作り出して行かなければ工業会としても存在できない時代になっています。それはJEITAとしても十分承知していて、それを実現するための1つの鍵を握るのがCEATECという存在だと考えています。CEATECが変わり、JEITAも変わる。出展者の皆さんも来場者の皆さんも一緒に変わって行っていただければと思います。

--ありがとうございました

○インタビューを終えて

長尾氏の話を聞いていて感じたのは、変わらなければ終わる、という強い想いと、変革を推し進めるための強い意志であった。長年CEATECを見てきた側としては、デジタルテレビの大型化、高精細化などの波に乗っていた2005〜2008年あたりをピークに、目新しさを感じられなくなっていき、そこから袋小路に入ったかのような閉塞感が漂い始めたと記憶しているが、今回の新たな方向性の提示が、そうした閉塞感を打破してくれることつながることを期待したい。

ただし、長尾氏の言葉にもあったが、産業同士がつながっていく、という点では、コンシューマの最新製品や技術を見にくる来場者の期待とは逆に乖離していくことになるように思える。とはいえ、CEATECは元々、Combined Exhibition of Advanced Technologiesの略であり、コンシューマもエレクトロニクスも入っていないことを考えれば、本来のさまざまな企業が最新技術を持ち寄る展示会、という立ち位置に戻ったとも言えなくもないだろう。そうした意味でも、企業同士が共同で何かを見せていく方向性にしたいという同氏の思いは、CEATECの基本を発展させていくものとも思える。新たな船出となるCEATECが、どのように変化していくのか、その試金石となるCEATEC JAPAN 2016は2016年10月4日から7日にかけて開催される予定だ。なお、CEATECはあらかじめPCやスマホなどから入場登録をしておけば、当日入場券(一般1000円/学生500円)を購入することなく入場できるので、同展に行ってみようと思う人は、事前登録を行っておくことをお薦めしておく。

(小林行雄)