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今回のテーマは「コタツ」である。

いきなり、凄まじく広げにくいテーマを出された。900回目というならまだわかるが、まだ10回にも行っていない。ネタ切れにしては早すぎるので純粋な嫌がらせだろう。それならわかる。

コタツ、それは女神の微笑み、母なる海。

嫌がらせにはもっと性質の悪い嫌がらせで返したいので、全文ポエムにしてやろうかと思ったがこのように一文も続かなかった次第だ。

コタツ、確かに我が実家にもあった。子供のときには家族で入った記憶がある。しかしそこに面白エピソードがあったかというとないし、その後、(以前のコラムで書いたが)次々と親父殿が部屋を占拠していったため、コタツも親父殿専用機となった。

さらに親父殿は恐ろしく腰が重い人なため、冬が終わってもなかなかコタツを片づけず、我が家では、真夏でもコタツが出ているというゴミ屋敷ではおなじみの光景が展開されることになった。

実家を出てからアパート暮らしをしていた頃には、コタツがあったが今はない、その代わり我が家には掘りごたつがある。特にこだわりのない注文住宅である我が家の唯一の特徴と言っても良いが、それに何か面白い話があるかと言うとやはりないのである。

このテーマ、嫌がらせとしてはかなりの大成功だが、コタツと言えば避けて通れぬ話がまだ残っている。「屁」だ。

むしろコタツと言えば屁、屁と言えばコタツだろう。家族漫画の代表、ちびまる子ちゃんの単行本にも、ジジイがコタツで屁をしたため家族が一斉にコタツから脱出し、ジジイは罰として、コタツ内の屁を全部吸う(本当にジジイがコタツに頭をつっこんで吸っているシーンが書かれている)という大爆笑話が収録されている。

実家では、屁は治外法権の無法地帯であり家族全員遠慮なくやっていたし、それに誰か何を言うわけでもなく、自分の出した屁は自分で吸うというちびまる子ルールもなかった。

しかし、私と夫の間では、まだ屁はフリーではない。というか夫の屁を聞いたことがない。夫がしないのに、一応、女である私がするわけにもいかない。むしろ屁界のジャンヌ・ダルクとして、こちらが先陣を切るべきなのかもしれないが、まあ普通に火あぶりだろう。

ともかく、相手の出方を見ている内にここまで来てしまった、という感じである。しかし、家族間でもだらしのないところは見せない、というわけではない。

確かに私は、夫の前では屁をしないが、身だしなみ、果ては便所の使い方が汚ねえとよく怒られる。便所の使い方が汚いとは、どういうことかというと、端的に言えば、色んなものを爆発四散させ過ぎな上にそれをそのままにしているというわけである。「飛び散りが許せないので夫を座り小便させる妻」という話はよく聞くが、我が家に至っては、「お前の方が立ってしてるんじゃねえの?」というぐらいなのである。

なぜこうなるかというと、実家でもよく言われたのだが「何かをした後は、そのあとをちゃんと見ろ」ということが未だにできていないからである。

よく、アクション映画などで、爆発に背を向けて歩くシーンがあるが、アレを便所でやっているのだ、爆発させたあとを見ないのである、おそらく夫だって爆発することはあるだろうが、その後始末をしてから出ているのである。

爆発痕を見られても平気な女が屁をするのを恥ずかしがるというのもおかしな話であり、むしろ夫は屁以外の私のだらしないところ、ずぼらという言葉では済まされない汚いところを既に山ほど見ているのだ。

逆に私は夫のそういうところをあまり見たことがない、ありがたいことなのかもしれないが、これから離婚とか、明日私がトレーラーとかに轢かれたりしない限りは、かなりの老齢になるまで一緒にいるはずだ。

年をとれは色んなところが緩んでくるはずだ。今までしっかりしていた綺麗好きの夫がいきなりジャンジャンいろんなものを漏らしだしたらショックである。逆に私は現時点で既に漏れてるので、夫にしたら漏れる量が増えたぐらいの感覚だろう。

「慣れる」と「忘れる」は神が人間に与えた最大の慈悲である。よって年を取って突然ガタがきて、配偶者にショックを与えるよりは、今のうちからちょっとづつ漏らして相手を慣れさせておくというのが、人間が無駄に長生きしてしまうようになった現代社会において必要な夫婦円満の秘訣ではないだろうか。

しかし、逆に考えると「熟年離婚」というものは夫(ないし妻)が少しづつ漏らし続けたものが、定年とかをきっかけに決壊して起こるものなのかもしれない。

私もこのまま漏らし続け、老齢になり離婚されるか、今のうちに締めておくか、決断のときなのかもしれない。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。

(カレー沢薫)