『月光戦譚フォルモーント』(徳間書店)

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 おとぎ話や神話は物語好きにとってたまらないモチーフだ。神秘的で奥深く、なおかつキャラクター性が濃いうえに、数も多い。古今東西さまざまな小説、マンガ、アニメがこれを下敷きに世界を紡いできたが、今ここにまた、新しい神話が誕生した。Webコミックアプリ「GANMA!」連載中の「月光譚フォルモーント」(大塚ヨウコ)。このたび『月光戦譚フォルモーント』(徳間書店)と改題されて待望の1巻が発売された。

 舞台は1886年のバイエルン王国。突如あらわれた満月が空で煌々と輝き続けて60夜、深い闇に包まれた王国は人々を恐怖に陥れていた。隣国との境界もまた闇に覆われ遮断され、脱出することもかなわない。月光に狂わされたか、死者がよみがえり「不死者(ノスフェラトゥ)」と呼ばれるバケモノとなって、人々を襲う。それらを退治し、王国にかけられた呪いの謎を解くため旅をするのが、同じく不死者であるはずの少年・ヴィルだ。

 本作のどこに心躍るって、まずは不死者たちの設定である。最初に登場するのは狼人間とシンプルだが、襲われるのが少女、そして不死者退治に乗り出す王立機関が「赤ずきん(ロードケープ)」と呼ばれる7人、とくればもちろん連想するのはシャルル・ペローのあの童話だ。舞台もバイエルンだし、これはおとぎ話をベースに展開するファンタジーなのかしら、と思いきや、ところが2話ではいい意味で期待を裏切られる。塔の上に立つ魔眼の男に見られると、それだけで肉体をねじ切られるというのだ。邪眼はヨーロッパにも広く伝わる民間伝承のひとつ。さらに次にヴィルを襲うのはフギンとムニン、それぞれ思考と記憶を意味する、北欧神話の神オーディンに付き従う2羽のワタリガラスだ。そのワタリガラスを差し向けたのが、ロードケープたちだというから、読み手はまた惑わされる。人々を守るはずの彼らがなぜ、不死者退治をするヴィルを排除しようとするのか。王が望んだ王国の姿と、打ち立てられた呪式とはなんなのか。謎は深まるばかりなのだ。

 だいたい、ヴィルからして謎だらけなのである。彼の言うところによると、死者の身体に‘神性’――神さまらしきものが宿ると不死者となり、人の姿も心も失う。だがそれならばなぜ、ヴィルは狼のフェンリルを宿して正気でいられるのか。なぜ不死者退治をしようとしているのか。1巻ですでに謎と期待がてんこもりの本作、WEB上のファンが多いのも大納得の神話ファンタジーなのだ。

 ちなみにバイエルン王国は、19世紀のはじめから約100年間だけ存在した、ドイツ南部の国。1886年ということは、王国の末期にあたる時期なわけで、もちろん世界大戦を控えていた史実と本作は背景が異なるのだろうが、王国の運命を思うとそこはかとなくわくわくさせられる、歴史作品としての側面も持っている。ぜひ作品の端々にまで注目して読み解いていってもらいたい。

文=立花もも