スペイン3回目のレースとなる第14戦・アラゴンGPの決勝レースは、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が前評判どおりの強さを発揮して優勝。今季4勝目を挙げた。

 ランキング首位をずっと維持してきたものの、マルケスは前半戦最後の第9戦・ドイツGPで優勝を飾って以来、勝利を逃している。サマーブレイク後に2週連続のレースが2回続いた4戦では、第11戦・チェコGPで3位を獲得したのみで、それ以外は5位(第10戦・オーストリアGP)、4位(第12戦・イギリスGP)、4位(第13戦・サンマリノGP)と微妙に表彰台をはずしてきた。

 今回のレースウィークでは、金曜のフリープラクティスから2番手タイムにつけて速さを発揮し、土曜にはレースペース、一発タイムともに他選手よりも頭ひとつ抜け出した内容のセッションで、必勝パターンのポールポジションを獲得した。

 だが、総合2番手だった金曜のレース初日には、「ここは好きなコースだけど、特別にリスクを取るようなことはしないつもりだ。決勝では2位や優勝、とにかく表彰台を目指して走りたい。去年は攻めすぎるあまり、2周目に転倒してしまったように、1戦で状況は変わってしまう可能性もあるわけだから、落ち着いて走らなければならない」と、あくまでチャンピオンシップ獲得に重点を置いた慎重なコメントだった。

 それが圧倒的な仕上がりのよさを見せた土曜のポールポジション獲得後には、「明日の目標は、まずは優勝だけど、それが無理ならばバレンティーノの前で終わりたい。そのほうが、チャンピオンシップでも有利になるからね」と、話す内容がやや「攻め気味」の方向になってきたことをうかがわせた。

 この段階で、フロントロー3番手を獲得していたホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、「マルクはワンステップ、あるいは二段階ほど他の選手の上にいるような状態」と評し、フロントローをはずして2列目6番手となったバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)も、「このコースではホンダが強いと思っていた。もともと彼らはここで強いし、特に今年のここ数戦はクラッチローが勝ってペドロサも優勝し、ホンダの課題だった立ち上がり加速は明らかに改善している」「明日はマルケスがとても強いと思うので、自分は表彰台を狙ってがんばりたい。マルケスに勝つのは、とても難しそうだ」と、レース前から白旗宣言に近い発言内容だった。

 日曜日午後2時に23周で争われる決勝レースでは、スタート直後の序盤にマルケスとマーベリック・ビニャーレス(チーム・スズキ・エクスター)、ロレンソの3台が熾烈な争いを演じた。マルケスは3周目の7コーナーでミスをして、5番手まで大きく順位を後退。そこからは、落ち着きを取り戻して沈着な走りで追いかけ、ロレンソ、ビニャーレス、そして、この段階でトップを走行していたロッシを着々と追い抜き、全周回の折り返し地点となる12周目でふたたびトップに立った。

「序盤からレースをリードするつもりだったけど、7コーナーで転倒しかけてしまい、それをなんとかうまくセーブしてからは落ち着きを取り戻した。冷静に、少しずつ順位を上げていき、バレンティーノの背後に追いついてからはまず1周じっくり様子を見て、それからアタックをしかけてオーバーテイクした。その後は、懸命に走って十分なギャップを開くことができた」

 このコメントだけを取り出すと、圧勝ムードで推移した地味な展開にも見えるが、自らが招いたミスで一度は下がってしまい、そこからいくつものオーバーテイクの見せ場ができたことで、結果的に意図せざる盛り上がりを演出するという、いかにもマルケスらしい劇的なレース内容になった。

 マルケスの背後ではロレンソとロッシが熾烈な2位争いを続けていたが、これもロッシのミスで決着がついて、ロレンソ2位、ロッシ3位の順でゴールした。

 この結果により、チャンピオン争いはマルケスとランキング2番手ロッシの差が52ポイント、ロッシと3番手ロレンソの差は14ポイントとなった。

 残り4戦で52点差――ということは、計算上ではマルケスは次の第15戦・日本GPでチャンピオンを獲得する可能性が生じる(条件:マルケスとロッシに24点差が生じること)わけだが、マルケスは、それは事実上あり得ない、と考えているようだ。

「日本では、チャンピオンは決められないと思う。ホンダのホームコースだから勝ちたいけど、決められるとは思わない。落ち着いて、ミスをしないように心がけ、どこで勝つかじゃなくて、勝つことが大事なのだから、日本では苦戦したとしても、他のコースではがんばれると思う」

 凡ミスを避け、手堅く戦いながら確実に王座への距離を詰めていく方針、ということだろう。

 一方、アラゴンGPを3位で終えて、マルケスに52点差を開かれたロッシは、王座奪還はほぼあきらめつつあるような口ぶりで、今後のチャンピオン争いについては、このように話した。

「(前戦の)43ポイントでも厳しかったのに、52になってさらに難しくなった。チャンピオンシップのことを考えるのではなく、これからオーバーシーの3連戦(日本、オーストラリア、マレーシア)は好きなコースでバイクもいつもよく走ってくれるので、表彰台を目指して戦い、一戦一戦の勝利を目指したい。今年のヤマハはバルセロナ(第7戦)から勝っていないし、スズキと特にホンダがシーズン後半はよくなっているので、自分たちも残りのレースをがんばって戦いたい」

 シーズン終盤の興趣(きょうしゅ)は、マルケスがいつ、どういう形でタイトルを決めるか、そして、ロレンソやロッシ、ビニャーレスたちがどこまでその王座獲得を阻む力強い走りを見せるか、という段階に移りつつある。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira