『「食べない心」と「親の心」 摂食障害から回復、自立 する女性たち』(小野瀬 健人/主婦と生活社)

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 学生時代の専攻が縁で、養護教諭の知人が複数います。講演会などで顔を合わせると、近況報告をしながら、対応にあたっている子どもたちの話を聞くことがあるのですが、そこで時々話題に上るのが、摂食障害を患う生徒さんについてです。地元にも評判のいい専門医が居るそうなのですが、問い合わせてみたら初診が最短で5年待ちだとかで…。心療内科や専門外来など、摂食障害の対応にあたられるお医者さんは、相当多くの患者さんを抱えていらっしゃるようです。

『「食べない心」と「親の心」 摂食障害から回復、自立する女性たち』(小野瀬 健人/主婦と生活社)は、岡山県にある女性のための摂食障害者向け回復施設「なのはなファミリー」での実践について解説された書籍です。著者である小野瀬健人氏は、ジャーナリストとして活動する傍ら、2004年にこの「なのはなファミリー」を設立。2003年には著書『「食べない心」と「吐く心」』(小野瀬 健人/主婦と生活社)を発表しており、本書はその続編にあたります。

 摂食障害とは、長期にわたりやけ食いや食欲不振が続くなど、食行動を自分でコントロールできなくなってしまう心の病で、日本では、10〜20代の女性に多く発症しているようです。摂食障害の症状は、食べ物を口にすること自体が難しくなる「拒食症」と、極端に多くの食べ物を摂ってしまう「過食症」という2つに分けられます。そして、拒食症・過食症それぞれにおいて、下剤や利尿剤を利用したり、意図的な嘔吐をおこなったりと、強制的な排泄を伴うケースもあります。

 著者である小野瀬氏は摂食障害の原因について、幼少期の心の傷であると考えています。具体的には、4〜6歳頃に受けた精神的ショックが大脳の視床下部にプログラムミスを引き起こし、このひずみが思春期になると、空腹・満腹中枢を過剰に刺激して、食行動に問題を引き起こすのだそうです。

 本書では、摂食障害のしくみについて解説するほか、摂食障害を患う女性たちへの取材をもと に、幼少期のつらい経験からの立ち直り方について考察しています。自身の体験を語ってくれたのは、所謂「毒親」に追い詰められてきた人や、家族間の小さないさかいに深く傷つき、不安定な心持ちのまま、日々を生き延びてきた人たちです。こうした心の傷に対して、「なのはなファミリー」では次のようなアプローチをおこなっていると、小野瀬氏は話しています。

人が生きていく上では、いやな思い出やつらかったことは折々に出てきます。しかし、いやな思い出と「心の傷」は大きく異なります。
普通の思い出は、つらいことも、楽しいことも、時間と共に薄れていきます。つらかったことから四年も五年も経てば、新鮮には思い出せません。
それに対して、心の傷はずっと同じつらさが心の底で続いているという違いがあります。
(中略)
心身の状況を踏まえ、環境や条件を整えた上で、その人の心の傷になっている出来事を探し出し、傷となった心配がもう解決されていることを自覚してもらう。そういう方法で、心の傷に解決を与えます。

「なのはなファミリー」に入居した女性たちは、疑似家族として共同生活を送りながら、グループミーティングを軸とした独自プログラムに参加することで、心の傷を癒し、自立をめざします。本書の最終章には、この施設の卒業生による体験記が掲載されているのですが、そこには当たり前のように、「なのはなのお父さん」「なのはなのお母さん」という言葉が登場します。これには少し唐突な印象も受けますが、しかしそのエピソードを読んでいくと、幼少期に家族との関係に悩んだ入居者たちが、確かにこの場所で「家族」を再構築し、精神的な安定を得ることができたのだろうと感じさせられます。

 同書は、摂食障害の確実な「治し方」を指南する本ではありません。しかし、十数年前まで摂食障害のことを、過剰なダイエットの延長だろうと軽視していたこの日本社会において、その認識を改めるとともに、根本原因となりうる「親」のあり方について問いかける、大きな役割を果たす1冊であると思います。

文=神田はるよ