2016年9月26日
TEXT:大谷和利(テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー)

▷発表された「ニューモデル」と併売される「既存モデル」

 

以前、初代Apple Watchが登場したときのコラムでは“次のモデルチェンジの際には、既存ユーザーに対するアップグレードサービスに期待する“と触れたことがある。それはデザインにおいて中心的な役割を果たしたジョナサン・アイブとマーク・ニューソンの2人の時計への思い入れから、特にこの製品ラインでは<愛着を持って長く使い続けられること>を重視すると考えたからだ。仮にモデルチェンジをしたとしても、基本形は大きく変えず、中身を進化させていく方向を選ぶだろうとも述べた。

そして先日実際にニューモデルが発表されてみると、基本デザインの維持という面では想定通りであったが、アップグレードサービスはついに用意されることがなかった。ただ1つの光明は、より廉価に価格改定して併売されるSeries 1の筐体が初代モデルの流用、かつ搭載チップがSeries 2と同じデュアルコアのS1Pになっている点である。

希望的観測をするならば、モデルチェンジ後の製造・販売が一段落した頃(来春あたり?)に、“買い替え/買い足しをしなかったユーザー向け(この層の動向をアップルは注視しているはず)”に、メンテナンスやアップグレードサービスを有償で行うということも考えられる。そうすればアップルは初代モデルユーザーからの信頼も得られ、同時にアイブとマークも自己矛盾に悩まずに済むというわけだ。実際、Apple Watchのデザインと造りはそうした愛用の仕方にも耐え得るものであるし、ここは一つ、ティム・クックの英断に期待したい。



▷Series 2に買い替えるまでの魅力はあるか

 

いくらハードの性能がアップしたとはいえ、防水性能とGPS機能の付加だけではSeries 2への買い替えの動機としては物足りないだろうと感じていた。watchOS 3の最適化が進んで、体感上の処理速度が向上したためもある。その点FeliCaのサポートに加え、Nike+モデルの登場など付加価値がついたシリーズの存在は買い替えを後押しする魅力の一つとなったはずだ。もちろんiPhone 7でもFeliCaは使えるが、これまでもiPhone 6 Plusのケース側に交通カードを入れて使っていた者としては、チャージの手間などを除いて使用感にさほど違いを感じない。手首に着けたApple Watchだからこそ新たなユーザー体験が得られるだろうし、それを検証したい思いもある。


検証という点では標準モデルでも事足りるが、いずれにしてもFeliCa対応のアップデートは10月末。Nike+モデルの出荷時期と重なり、ノーマルのアルミニウムモデルと価格も同一なのでデメリットはさほどないだろう。例えば、自分にとってのNike+モデルの魅力はあの純正の穴あきベルトにある。使用中の初代モデルのベルトはスポーツタイプで、質感、装着感ともに気に入っているものの、夏はやはり蒸れやすい点が気になる。またベルトの穴を利用し、マンション入口の自動エントリー用のチップを本来のキーホルダー状のものから移植して使っているのだが、その位置が今ひとつしっくりこない。ベルトに多数の通気口が設けられたNike+モデルでは取り付け位置を工夫して、使い勝手を改善できるのではないかと考えている。

もちろん、今後HomeKit対応のキーエントリーシステムが登場すれば、そんな工夫は不要になるだろう。自宅自体の玄関ドアは簡単に換装できそうだ。しかしマンション入口の改変ともなれば、住民全体の合意が必要となる。Series 2の登場でApple Watchの販売が加速するとしても、さすがにそこまでの普及は一朝一夕には実現しそうにない。そういうわけで、ここしばらくはNike+と自作チップカバーコンビのお世話になるつもりだ。

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[筆者プロフィール]
おおたに・かずとし●テクノロジーライター、原宿AssistOn(http://www.assiston.co.jp/) アドバイザー。アップル製品を中心とするデジタル製品、デザイン、自転車などの分野で執筆活動を続ける。近著に『iPodをつくった男 スティーブ・ ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』(以上、アスキー新書)、 『Macintosh名機図鑑』(エイ出版社)、『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社現代ビジネス刊)。

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