2016.09.26


東京のすしカルチャーはどこへ行く
寺沢大介 × 杉村啓対談


日本の食を代表するすし。その文化は奥深い。関西ですし屋に入りメニューを見ても意味が分からないという経験をした。「にぎりすし」の松竹梅の隣に並ぶ「上 盛り合わせ」。値段もにぎりと変わらない。「上 盛り合わせ」とはナニ?どうやら「盛り込み」とも違いそう。
「すしカルチャー」ド素人の私、今住む東京のすしだって本当のところあまり知らないのだ。日本人としてこれでいいのか!?というわけで、今回はグルメマンガの巨匠 寺沢大介先生と漫画料理研究家の杉村啓さんに「すしカルチャー」について談義いただいた。


粋でいなせな江戸のすし
店と客の阿吽の呼吸



―最近のすし屋事情 特長的なことはありますか

寺沢昔はすしは出前で食べるものという認識がありましたよ。店に出向いて食べるんじゃなくて、お客さんが来たときなんかに近所のすし屋に注文して家で食べることが多かった。だから、人に「どこかうまいすし屋知らない?」と聞かれてもいつも出前を頼んでる近所のすし屋しか知らない、そんな風だった気がするな。

杉村:そうだったかもしれませんね。それに、今のようにネットで検索できる時代でもありませんでしたから、人づて以外にいい店の情報を知る方法がなかった。食事のためにわざわざ電車に乗って食べに行くとかは、よほどのことがない限りなかったですよね。それが今は口コミ評価の高い店にわざわざ行きます。すし屋に限らず、いろんな食でその現象が起こっています。それもあいまってか、中間層のすし屋が少なくなってきた気がします。

寺沢昔は東京のすし屋はラーメン屋よりも多かった。近所にふらっと寄れる店があったもんです。かしこまった格好じゃなくても行ける、それこそ、ラフなシャツとサンダルでも入れちゃうような店がいくつもあったと思う。だけど、手ごろな価格で食べられるデリバリーすしや、回転すしの出現でこうした中間層のすし屋が減っていったわけです。この辺のことも『将太の寿司』(講談社)ではテーマにしてたわけですがね。
以前、仕事でフランスのすし屋に入ったことがあるけど、みんなすごくフォーマルな格好で来ていてビックリしちゃったね。こっちはラフな格好で、取材だからすしの写真とかもバチバチ撮るでしょ。すると、マダムがちらっとこちらを冷ややかに横目で見るんだよね。あの目が忘れられないな。もちろん、店に許可を得て取材したんですがね。


杉村:先生の場合、それは取材という特別なことで、店側も分かっているわけですから問題はないと思うのです。でも、近頃の日本ではこれが許可なく日常的に起こっている。
日本酒で有名な店でのことですが、常連のお客さんに大将が珍しいお酒が入ったからと薦めたことがありました。すると、近くにいた「いちげんさん」らしき人が「え、すごい!こんなのあるの。あ、あっちも見せて」とカウンターの中まで入って写真を撮ろうとした。店の人が「お客さん、それはちょっと困る」と言うとムッとして、口コミサイトに「珍しいお酒があったので写真を撮りたかっただけなのに、ものごい勢いで止められた!」なんて書き込みがされたといういうのです。こういう話は非常に残念です。

寺沢:客には客の作法があるよな。もちろん、店には店の作法がある。客と店側の阿吽の呼吸というか。すし屋でも、常連との差別を明らかにする店があるけどあれはいやだな。常連さんへの図らいは、しのぶようにしていただきたい。実際そういう粋な店が東京にはある。大将が何も言わずに常連さんの前に珍しいネタのすしを出す。受け取った客の側も「おっ」と思うが口には出さずにちらっと眼を大将に向けて珍しいねって顔をする。そういう粋なやり取りがある店ってあるんだよな。

産地にいいネタがあるわけではない
東京が全部持ってく問題



―東京と関西、ネタの好みに違いがありますよね

寺沢:すしネタの好みは違いがあるね。私は関西生まれなので分かるのですが、ある時、関西のすし屋に修行に入った関東人が「うお持ってこい」と言われて分からなくて怒られたという話があった。関西で「うお」と言えばタイのこと。なんせ、関西は白身がすしネタの王様。マグロはそれほどの地位ではない。ところが、東京ではすしといえばマグロでしょ。消費量も多いから、いいマグロは全部東京にあるなんて言われるくらい集まってくる。


杉村東京が全部持ってく問題ですよね。意外とその産地にいっても地場にはいいものは残っていない。なぜなら、東京がいいものを全部持っていってしまうからという問題です。取引価格も東京は良い値段で落としてくれますから、そりゃあ、流れてしまいます。

寺沢:でも、頑張っているところもある。最近は全国チェーンじゃない地域密着型の回転すしなんかが出てきてもいる。地元の捕れたての魚を提供する店で、店によっては生け簀があるところもある。値段はもちろん東京より安く食べられる。地方から東京に進出して成功している回転すし屋もある。東京では中間層のすし屋が減った分、回転すしが増えている気がするな。

杉村:僕は今、京都に住んでいるのですが、そういえば京都は回転すし屋が少ない気がします。

―江戸前すし、何を頼んだら“通”

寺沢:コハダだろうな。行きつけの一軒になった店では一日前に漬けたコハダと二日前に漬けたコハダ、三日前のコハダと三つ出してくれて、「どれがお好みですか?」と聞いてくれました。「二日目のが好きだ」と答えると、次に来た時からはコハダは二日目のを必ず出してくれるようになった。こういう客とのやり取りができる店っていうのは、何度でも行きたくなるもんですよ。

杉村:客の好みを覚えておいてくれるってことですよね。


外国人さんもいらっしゃ〜い
まずは回転すしでレベルを上げるべし!





―外国人観光客の増加で日本のすしはどうなるのか

寺沢:やっぱり店と客との阿吽の呼吸みたいな文化は崩されたくない。となると、客も客で作法を練習する必要があると思う。すし屋に行き慣れていない海外からの観光客の方々は、まずは回転すしで作法を練習するっていうのもいいんじゃないかな。

杉村:そうですね。京都にもたくさんの外国人観光客がきていますが、観察していると面白いことが分かりました。どうやら彼ら、食券のある店は助かるようです。メニューを見て口頭で注文するのは難しく感じるようで、和食が食べられる「やよい軒」なんかはよく行列ができています。すしも同じだと思う。メニューを見ても、魚を見ても分からないと思うので、目の前をメニューが流れてくれる回転すしから入るのがいいでしょうね。だから、回転すしに外国人観光客向けにすしの食べ方を英語で書いたものとかを置いたらいいのかもしれないですよね。

寺沢:醤油をやたらジャブジャブつけないとか(笑)「こんな小さいもん食べただけでこの値段!高い」と文句をいう外国人観光客がいて困ったなんて話もすし屋で聞いたことがあるから、価値の分からないものに食べさせるのもお互い不幸だよな。“ここまで分かったらちゃんとしたすし屋へ!”みたいな段階的なこと、必要なのかもしれないな。


二人の“通”な話を聞き終えたマダムは、さっそく行きつけ(にしたい)すし屋へ行った。いきなり出てきたのはコハダ。うん、この店、やはりなかなかやるな。二人の話しの聞きかじりでまんまと“通”になった気分のマダムであった。

(Text: ジョーキョーマダム)
(Photo:栗原美穂)

画業30周年+1周年記念 寺沢大介原画展 開催中!
今回、余すところなく江戸のすし文化についてお話しくださった寺沢大介先生。30+1周年記念の原画展は銀座のCHEEPA`S GALLERY(チーパズギャラリー)にて開催中。10月10日まで。詳しくは下記ホームページへ。
http://ajikko-shota30.grinship.com/

寺沢大介 (てらさわ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。
甲陽学院中学校・高等学校、慶應義塾大学文学部出身。
1985年、「フレッシュマガジン」にて『イシュク』でデビュー。
1986年に連載された『ミスター味っ子』が大ヒット、アニメ化。
以降、料理漫画を中心に、様々な作品を手がける。
1988年『ミスター味っ子』で第12回講談社漫画賞を受賞。
1996年には『将太の寿司』で再び第20回講談社漫画賞を受賞する。
主な作品に『ミスター味っ子』『将太の寿司』『喰いタン』など。

杉村啓 (すぎむら・けい)
日本酒ライター、料理漫画研究家、醤油研究家。
2003年頃から日本酒の魅力にとりつかれ、各地で開催される様々な利き酒会に参加したり、お酒の会に参加して各地の蔵元等と交流を持つ。気がついたら自由大学で「入門日本酒学」を開講したり、日本醸造協会などでもセミナーを行う立場に。
2014年1月にワニブックスより発売された「酩酊女子 〜日本酒酩酊ガールズ〜」に参加。「むむ先生」としてお酒のコラムや紹介を担当している。
https://cakes.mu/creators/211