[AFC U-16選手権]森山監督「前日練習で勝利を確信」。愛弟子たちと演じた世界への大激戦

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[9.25 AFC U-16選手権準々決勝 日本1-0UAE]

 胆力の勝利だったのかもしれない。AFC U-16選手権準々決勝。UAEとの決戦に臨んだU-16日本代表“00ジャパン”は、何ともタフなゲームを1-0で制して、来年のU-17W杯出場を決めた。ただ、ギリギリの勝負を見守った森山佳郎監督は、「昨日の前日練習の時点で(準々決勝に)勝てるという確信があった」と振り返る。

 前日練習の会場は、インド・ゴア州の港町バスコ・ダ・ガマにある老朽化したスタジアムだった。よく言えば雰囲気のある競技場のピッチで、練習前に選手を集めた森山監督はこう語り出した。「明日はウキウキワクワクしながら、メラメラギラギラして、相手を飲み込んじまうようなサッカーをしようぜ」。グッと盛り上がっていく空気の中で練習に入り、適度な緊張感と盛り上がりを両立させた空気感は最後まで持続されていた。それこそ、指揮官の抱いた「確信」である。

「かなり集中高くやれた。『これで負けることはないな』と思った」。森山監督はそう振り返る。実際、練習後にベンチに腰掛けて、西野朗団長や木村浩吉技術委員と談笑する様子に、決戦を前にしたピリピリ感はなかった。こういう土壇場の勝負を前にするとナーバスになって周囲を寄せ付けなくなる監督も多いのだが(そしてそれは選手に伝染しがちだが)、森山監督はまったくそれを表に出さなかった。

 天然なのか、狙って演じている部分があるかは今もってよく分からない部分もあるのだが(たぶん両方だろう)、これだけ指揮官がどっしり構えてくれれば、スタッフも選手も決戦に怯える理由はなくなる。指揮官の絶対的な胆の太さは、チームの支えとなっていた。そして熱い言葉を紡いで、選手をモチベートすることに関して森山監督の右に出る者はそういないだろう。DF菅原由勢(名古屋U18)は「(森山監督には)本当に気持ちの部分を、僕ら一人ひとりに植え付けてもらった」と言う。

 苦しい試合になったが、「自分たちの時間帯でなくなったときにこそ問われる」(森山監督)のが、指揮官がチーム結成以来ずっと叩き込んできた戦う姿勢であり、味方と相手の様子を洞察して判断していく冷静さ。度重なる決定機でのミスによって勝機を見失いかねない流れだったが、後方に構える選手たちはいずれも動揺を見せずに粘り強い対応を維持し続けた。

 1-0での勝利。大勝続きだったグループステージから打って変わってアジア予選の厳しさを痛感させられる内容だったが、しかし選手たちは最後まで崩れず、隙を見せることもなかった。もちろん、ディテールを語っていけば、中央に偏り過ぎた攻撃やフィニッシュの質など課題はいくらでも出てくる試合である。ただ、負けてしまえば、その課題を解決していく場もなくなっていたのだから、ここは世界大会へ向けた“伸びしろ”が残ったと思っておくべきだろう。

 チーム結成以来最大の関門にして一つの区切りとなる戦いを制した“00ジャパン”。次に狙うのは当然、アジアのタイトルということになる。当座の目標はシンプルに「優勝して、世界に行く」(菅原)こと。森山監督とその愛弟子たちによる新しい戦いは、次の練習から早くも始まることになるだろう。

(取材・文 川端暁彦)