船上からの海洋散骨の様子 (c)朝日新聞社

写真拡大

 お彼岸に親族一同がそろって、先祖代々の墓参りに郊外までドライブ──。そんな光景が、次第に過去のものになりつつある。今や、葬式や墓の多様化が急速に進み、「エンディング産業」は激しい勢いで進化し続けている。“価格”も例外ではない。

 かつては“ドンブリ勘定”が当たり前だったという葬儀の世界に「価格破壊」が起こっている。

 ある葬儀業者によれば、一般的な葬儀一式の価格は150万〜160万円程度が相場だという。日本消費者協会の「葬儀についてのアンケート調査」(2014年1月)によると、葬儀一式に飲食接待費、寺院への費用を合わせた葬儀費用の合計の平均額は、約189万円で、03年の約236万円から2割減っている。

 葬儀といえば、宗教行為であるお布施や戒名授与に事前に金額を明示しない慣例もあり、総額でいったいいくらかかるのかがわかりづらいと指摘されてきた。

 そんな中、近年出現してきたのが、事前に葬儀一式の費用を明示し、格安プランなどをそろえたタイプの業者だ。

 事業立ち上げ当時は葬儀社のレビューサイトを運営していたという「みんれび」(東京都新宿区)もその一つ。同社が提供するサービス「シンプルなお葬式」は、一般葬が49万8千円。さらに、通夜を行わず告別式だけ行う「一日葬」が27万8千円、通夜も告別式も行わず、火葬場で行う「火葬式」が14万8千円と、格安のプランも提示している。秋田将志副社長兼COOがこう語る。

「全国に約7千社ある葬儀場の稼働率は実は30%程度。弊社はその稼働していないホールを使い、パッケージ化したプランとして葬儀を行うことで低価格を実現しており、サービスの質は他社に劣りません。ネットが普及したことで消費者側のリテラシーが高まり、これまで知られていなかった葬儀の値段も手軽に検索できるようになった。スマホがあれば、たとえば病院からでも検索できます。そうした時代のニーズをくみ取ったサービスだと考えています」

 同社は13年から全国一律総額3万5千円で法要などに僧侶を派遣する「お坊さん便」のサービスを始めた。15年12月からはネット通販サイト「アマゾン」で手配チケットの販売を開始。これに対し、伝統仏教の各宗派が加盟する全日本仏教会が「宗教行為を定額の商品として販売することに大いなる疑問を感じる」と販売停止を申し入れるなど、物議を醸している。前出の秋田副社長はこう語る。

「既存の檀家(だんか)さんとお寺との関係を崩そうなどとは考えていません。ただ、日本人の宗教観が変わってお寺との関係も薄れていっている一方で、やはり習慣としてお坊さんを呼びたいという方はいる。そうした方に対して、手段を提供しようという考え方です」
 
 こうした動きが示すように、今、葬儀や墓にまつわる新サービスが次々と生まれ、さながら「エンディング産業ブーム」の様相を呈している。「今は100年から150年周期で訪れる葬儀やお墓の流行の転換期です」と語るのは、日本葬祭アカデミー教務研究室代表で、葬祭カウンセラーの二村祐輔氏だ。

 二村氏によれば、日本人の葬祭の形はこれまでも土葬から火葬へ、個人のお墓から家族のお墓へなどと、時代ごとに変化してきた。そして今、再び大転換期を迎えているという。

「団塊の世代の多くは田舎から都会へ出てきて、故郷が違えば両親それぞれのお墓が別々の地域にある。両家の墓をまとめて都心につくり直したいという需要が増えた。ところが都心は深刻な墓不足で、都心の寺院では数百万円から1千万円超になるほど墓の価格が高騰。郊外の公営墓地もどこも満杯で、遺骨を家に保管したまま途方に暮れている人も多いのです」

 確かに、都心の墓不足は深刻なようだ。8月25日に発表されたばかりの東京都立霊園の今年度の抽選結果を見ると、都立多磨霊園の一般墓地はどれも倍率2〜3倍。同園敷地内にある遺骨の長期収蔵施設「みたま堂」は30の募集に対して968件の応募があり、倍率はなんと約32倍だ。都立小平霊園が12年から募集を始めた自然葬式の合葬墓地「樹林墓地」は、遺骨1体用の生前申し込みで募集88に対し1768件の申し込みがあり、こちらは約20倍だ。

 政府が進める地方分権の流れの中で、12年4月、それまで都道府県や中核市が担っていた墓地の経営許可などの権限がすべての市に移譲されたことも、墓不足に拍車をかける結果となっているという。全日本墓園協会の横田睦主任研究員がこう語る。

「都道府県の権限ならば人口の多い都市の住民のための墓を郊外につくるという判断もできるが、市単位では住民の反対運動の影響なども受けやすく、新規の許可を出しにくい。制度上の問題で、墓が供給不足に陥ってしまうのです」

 こうした状況がある一方、仏教界では不動産開発が盛んだったバブル時代から、ビジネス的な分野に積極的に乗り出す寺院が出てきた。そうした寺院が「墓不足」という消費者のニーズをすくい取り、現在の「ビル型納骨堂」など新たな「お墓ビジネス」が出現。近年は海洋散骨や樹木葬などの自然葬や、遺骨の一部をペンダントに加工したり、小型の骨つぼを自宅で保管したりといった「手元供養」など、さまざまな形の弔い方が生まれてきた。

 このまま葬儀やお墓の作法は“何でもあり”になってしまうのか。前出の二村氏はこう語る。

「私は揺り戻しがあると考えています。深く考えず親の遺骨を散骨してしまった遺族が、一周忌を迎えて親戚から『法事はやらないの?』と聞かれて困ってしまう。そんな相談が実際に私のところにも来ます。自然葬の人気が高まっているとはいえ、やはり日本人は供養に何らかの『実体感』を求めている。となると故人の遺骨か遺髪が必要ですが、やはり永年残るのは遺骨。遺骨があると、残された人たちは安心感を感じるようです」

 たとえお墓がなくても、日本人には「骨」へのこだわりがあるのだろうか。合葬や散骨でも、遺骨の一部を少量残しておいて、ペンダントなどに入れる「手元供養」と併用する例が出てきている。

「現代は良くも悪くも葬送がビジネスとなり、選択肢が広がるが、やみくもに安さを追い求めるのではなく、『葬祭リテラシー』を持って、故人の送り方を考える時代が来ているのです」(二村氏)

週刊朝日 2016年9月30日号