もう一つの「東芝事件」――手を挙げない“高ストレス者”に自己責任を求められるのか?
昨年12月、心の健康診断とも言える「ストレスチェック制度」が始まりました。この制度は職場のメンタルヘルス対策のセルフケアの強化・徹底と、職場環境の改善を目的とされています。
厚生労働省の指針によると、心の健康診断結果は体の健康診断結果よりもプライバシー度が高いものとして、より慎重に扱うべきとされています。ストレスチェックテストの結果も、例外はあるものの、基本的には受検者本人の同意なく会社に開示されることはありません。
◆高ストレス者であることは隠すべき!?
しかし、もし自分がストレスチェックテストを受け、高ストレス者だった場合、会社にそのことを隠すことでデメリットはないのでしょうか? 会社側に「Aさんはご自分が高ストレス者であったことを会社に伝えてくれなかったので、会社としてはケアできなかった(安全配慮義務を果たせなかった)」と、言われることはないのでしょうか?
結論から申し上げると、その心配は不要です。
「メンタルヘルスに関する情報は、本人が申告し難いことを前提とし労働者の体調悪化を察知し得る段階では労働者側から申告がなくとも、それに応じて業務軽減等必要な対応を図るべき」というのが、司法の見解です。
今回はこのような見解を出した「東芝(うつ病・解雇)事件」(東京高判平成23年2月23日労働判例1022号5頁)について、考えてみたいと思います。
◆「東芝事件」で明らかになったこと
この事件の概要は、うつ病で休職していた社員を解雇した東芝に対し、業務が原因で病気になった社員の解雇は無効であると確定したというものです。裁判のなかで、会社側が「元社員が自分の精神科通院や病気のことを会社に言わなかったので対応が取れなかった」と主張したため、この主張が認められるのか否か、裁判の行方がどうなるか、私たち産業医や労働安全衛生業務関係者(人事関係者)からは注目された裁判でした。事件の詳細についての日経新聞記事はこちらです(参照:日経2014/3/25付記事)
この裁判では、該当社員は時間外労働を伴うそれなりに難易度の高い業務従事していたこと、精神的な体調不良について医療は受けていたが会社には開示していなかったこと、同僚から見ても調子は良くなさそうで、上司にも体調不良については伝えていた(病気については伝えていない)ことなどが、客観的事実として認められていました。
⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=111107
裁判は最高裁まで争われました。最高裁では、以下の点が明記されました。
1.使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている
2.労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合は、心の健康のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである
3.メンタルヘルスに関する情報は申告し難いことを前提とし、労働者の体調悪化を察知し得る段階では労働者側から申告がなくとも受診勧奨等した上で、それに応じて業務軽減等必要な対応を図るべきである
まとめますと、心の病気に関することは体の病気以上に会社には開示しづらい内容だから、会社はそのつもりで労働者の健康に十分な注意を払い対処する義務を負うということです。この内容は、「過労死」「安全配慮義務」という言葉の意味を決定付けた”電通事件”と同じように、”東芝事件”として、後世に語られるものとなるでしょう。
ストレスチェック制度開始後の現在、職場でメンタルヘルスに絡むトラブルが発生した場合、過去のストレスチェックテストの結果がどうだったのかは、関係者が注目するところとなるでしょう。社員が急に脳梗塞や心筋梗塞で倒れた時に、直前の健康診断結果を見直すのと同じですよね。
厚生労働省の指針によると、心の健康診断結果は体の健康診断結果よりもプライバシー度が高いものとして、より慎重に扱うべきとされています。ストレスチェックテストの結果も、例外はあるものの、基本的には受検者本人の同意なく会社に開示されることはありません。
◆高ストレス者であることは隠すべき!?
しかし、もし自分がストレスチェックテストを受け、高ストレス者だった場合、会社にそのことを隠すことでデメリットはないのでしょうか? 会社側に「Aさんはご自分が高ストレス者であったことを会社に伝えてくれなかったので、会社としてはケアできなかった(安全配慮義務を果たせなかった)」と、言われることはないのでしょうか?
結論から申し上げると、その心配は不要です。
「メンタルヘルスに関する情報は、本人が申告し難いことを前提とし労働者の体調悪化を察知し得る段階では労働者側から申告がなくとも、それに応じて業務軽減等必要な対応を図るべき」というのが、司法の見解です。
今回はこのような見解を出した「東芝(うつ病・解雇)事件」(東京高判平成23年2月23日労働判例1022号5頁)について、考えてみたいと思います。
◆「東芝事件」で明らかになったこと
この事件の概要は、うつ病で休職していた社員を解雇した東芝に対し、業務が原因で病気になった社員の解雇は無効であると確定したというものです。裁判のなかで、会社側が「元社員が自分の精神科通院や病気のことを会社に言わなかったので対応が取れなかった」と主張したため、この主張が認められるのか否か、裁判の行方がどうなるか、私たち産業医や労働安全衛生業務関係者(人事関係者)からは注目された裁判でした。事件の詳細についての日経新聞記事はこちらです(参照:日経2014/3/25付記事)
この裁判では、該当社員は時間外労働を伴うそれなりに難易度の高い業務従事していたこと、精神的な体調不良について医療は受けていたが会社には開示していなかったこと、同僚から見ても調子は良くなさそうで、上司にも体調不良については伝えていた(病気については伝えていない)ことなどが、客観的事実として認められていました。
⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=111107
裁判は最高裁まで争われました。最高裁では、以下の点が明記されました。
1.使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている
2.労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合は、心の健康のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである
3.メンタルヘルスに関する情報は申告し難いことを前提とし、労働者の体調悪化を察知し得る段階では労働者側から申告がなくとも受診勧奨等した上で、それに応じて業務軽減等必要な対応を図るべきである
まとめますと、心の病気に関することは体の病気以上に会社には開示しづらい内容だから、会社はそのつもりで労働者の健康に十分な注意を払い対処する義務を負うということです。この内容は、「過労死」「安全配慮義務」という言葉の意味を決定付けた”電通事件”と同じように、”東芝事件”として、後世に語られるものとなるでしょう。
ストレスチェック制度開始後の現在、職場でメンタルヘルスに絡むトラブルが発生した場合、過去のストレスチェックテストの結果がどうだったのかは、関係者が注目するところとなるでしょう。社員が急に脳梗塞や心筋梗塞で倒れた時に、直前の健康診断結果を見直すのと同じですよね。