1日に飲むコーヒーの量は?(shutterstock.com)

写真拡大

 「On the eighth day, God created coffee.(神は8日目にコーヒーを創造した)」――。そんな神話伝説があるほどコーヒーのルーツは深い。原産国エチオピアでは「Kaffa(カファ)」、アラビアではワインを意味する「Qahwah(カフア)」に由来する。

 芳醇な香りに酔いつつ、香しいコーヒーとDNAのホットなエポックを話そう。

 電子ジャーナル『Scientific Reports』(2016年9月4日)によれば、 英国エディンバラ大学のニコラ・ピラツ博士らの研究チームは、1日のコーヒー摂取量はカフェインの代謝に関連する特定の遺伝子が決めている可能性が高いと発表した。

 発表によると、研究チームはイタリア南部の村民370人、イタリア北東部の村民843人を対象に、GWAS(ゲノムワイド関連解析)を行い、1日に飲むコーヒーの杯数を回答させた。その結果、「PDSS2」という遺伝子変異体を持つ人が1日に飲むコーヒーの量は、この変異体を持たない人よりも、およそカップ1杯分だけ少なかった。

 つまり、PDSS2という遺伝子変異体を持つ人は、PDSS2遺伝子がコードするタンパク質の発現量が高くなればなるほど、カフェイン代謝経路に関連する遺伝子の発現が抑えられ、カフェインの分解・吸収が阻害されるので、コーヒーを飲む量が減る。言い換えれば、PDSS2という遺伝子変異体は、カフェインの代謝を抑えるため、この変異体を持つ人はカフェインの分解が遅くなり、カフェインが長時間体内に残るので、コーヒーをたくさん飲めなくなるのだ。

 研究チームはさらに、オランダ人1731人を対象に、同様のGWASを実施したところ、PDSS2という遺伝子変異体を持つ人のコーヒー摂取量が少なくなる事実が再確認された。ただ、杯数にするとイタリア人ほど顕著な差はなかった。イタリア人は小さいカップで飲むエスプレッソを好むが、オランダ人は大きなカップでコーヒーを飲む習慣があることが理由と見られる。

 ニコラ・ピラツ博士は「コーヒーを飲みたいという欲求は遺伝子に組み込まれている可能性が高い。より大規模なGWASを行えば、PDSS2遺伝子変異体とコーヒー摂取量の相関関係がさらに明確に解明されるだろう」と期待を込めている。

SNPのカフェイン代謝の違いがコーヒーの好き嫌いを決める

 さて、今回の分析に使われたGWASとは何だろう?

 GWAS(ジーバス/Genome-Wide Association Study)は、DNAチップを用いて、1個の塩基に個人差があるSNP(スニップ/一塩基多型)のゲノム配列や、疾病に関わる多因子形質と遺伝子変異の関係を調べ、疾病に関連する遺伝的原因を解明する解析法だ。

 具体的には、まず、ヒトゲノム上に存在する50〜100万種のSNP(スニップ/一塩基多型)を位置マーカーとして使い、ヒトゲノム中に特定の個人の疾病に関連するSNPを見つける。

 SNPは、遺伝子配列の中の1カ所の塩基だけが、他の塩基と置き換わっている塩基の変異だ。薬の効きやすさや疾病のかかりやすさなどを決定している。

 したがって、SNPの近くに存在すると推測され、健常者群よりも患者群で高頻度に認められる疾患感受性遺伝子をリストアップして同定すれば、疾病に関連する遺伝的原因や候補遺伝子を解明できる。

 たとえば、日本人に多い高血圧、糖尿病、冠動脈疾患の場合なら、主要なリスク効果をもつ複数の疾患感受性遺伝子を同定すれば、欧米人に共通する遺伝子、日本人あるいは東アジア人に特徴的な遺伝子、その両者に共通する遺伝子が見つけられる。

 このアプローチによって見つかった未知の疾患感受性遺伝子は、病態の理解を深めるのに役立つだけでなく、環境要因と遺伝要因の相互作用という観点から、ヒトゲノムの疫学研究にも貢献できる。

 現在、特定の50〜100万種のSNPを解析できるアレイシステムが開発され、1人分のSNPを4〜5日で検出し、同時に48人分を並行解析できる。

 今回の研究は、個人のSNPのカフェイン代謝の違いによってコーヒーの好き嫌いが影響を受ける事実を示したことに意義がある。
コーヒーは死亡リスクを下げDNAの自然崩壊の抑制に役立つ

 ちなみに、コーヒーとDNAにまつわる最近のトピックをいくつかピックアップしてみよう。

 2015年5月、国立がん研究センターは、19年もの大規模調査の結果、コーヒーを1日3〜4杯飲む人は、ほとんど飲まない人よりも死亡リスクが24%も低いと発表している。

 米国の『応用社会心理学ジャーナル』(2011年)やヘルスケアサイト『mensfitness』は、コーヒーを飲んで得られる7つの健康効果として、体脂肪の燃焼促進、筋肉痛の回復、持久力の増大、記憶力の向上、DNAの強化、ストレスの緩和、性的機能の高揚を指摘している。

 国際栄養学術誌『ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション』(2015年2月号)によれば、ドイツのカイザースラウテルン大学の研究グループは、コーヒー(1日150mg)のカフェインを飲めば、疲労感の緩和、注意力の向上、DNAの自然崩壊の抑制に役立つという研究論文を公表している。

 さて、朝一杯のコーヒーが習慣の人も多いだろう。コーヒーなしでは夜も日も明けないコーヒー通も少なくない。だが、1日の摂取量は3〜4杯程度が適量だ。過剰に摂取すると、カフェイン依存症に陥り、耳鳴り、目まい、イライラ感、不安感などにつながることもある。適量を意識して愉しもう。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。