自殺未遂経験者は推計で年間53万人(shutterstock.com)

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 日本人の4人に1人は本気で自殺を考えたことがある──。そんな衝撃的な調査結果が、先日発表された。

 日本財団が9月7日に公表したこの調査は、同財団が調査会社に登録しているモニターを対象に実施し、全国の20歳以上の男女約4万人から回答を得たもの。

 その結果によると、これまでの人生で「本気で自殺したいと考えたことがある」と回答した人は、実に全体の25.4%。また、自殺未遂についても尋ねた数字から推計すると、過去1年以内に自殺未遂経験のある人の数は、推計53万人にものぼるという。

 長く続いた「自殺者年間3万人以上」の状態はとりあえず脱したとはいえ、日本ではいまなおこれだけの人が潜在的に自殺を考えている。なぜ、人は死を望むほどにまで追いつめられてしまうのだろうか。その原因を推しはかるキーワードは「孤立」にあるのではないだろうか。

「自殺希少地域」の特徴は?

 精神科医の森川すいめい氏の『その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、「自殺希少地域」を行く』(青土社)という本が話題だ。

 ホームレス支援や東日本大震災被災地支援の活動も行なっている森川氏は、本書のなかで、日本全国5カ所の「自殺希少地域」、すなわち自殺で亡くなる人が少ない地域を訪ね、その土地の人と触れ合って感じたことを書き綴っている。

 森川氏が訪れた村や島では、住民たちが助け合うのが自然のスタイルとなっている。

 ある地域では、バスはバス停以外の場所でも、お年寄りが手を上げれば止まってくれる。自分で車を運転できない人のためのバスだから、それは当たり前のことだ。

 別のある地域では、突然の雨で洗濯物が干してあるのを見かけたら勝手に人の家に入って洗濯物を取り込む。玄関はつねに鍵が開いていて、トイレを借りたりもする。

 人間関係が濃密であればいいというわけではない。森川氏が引用しているある研究によれば、自殺希少地域では、隣近所との付き合い方は「立ち話、挨拶程度」。

 むしろ自殺で亡くなる人の多い地域のほうが「緊密」だと答える人が多かった。「人間関係は疎で多。ゆるやかな紐帯」であることが、<自殺希少地域>の特徴だという。
都会から「ホッとできる空間」が減っている

 そういった自殺希少地域では、屋外のいたるところに、座ってしゃべれるベンチや置物が置かれている。森川氏はそれに対し、新宿のような都会にはベンチがないと指摘。座ろうと思ったら、お金を払って入る店しかない。お金のない人には、座って休めて、人と話せる場所がない――。

 都会では効率的なものやオシャレなものばかりが重視され、非効率的なものや冴えないものは排除されていく。「効率を手段ではなく目的に添えてしまっては、それは何も生み出すことはない。それどころかひとを不幸にしてしまう」と森川氏は記している。

 先日も、上野動物園の前で70年続いた昔懐かしい「上野こども遊園地」が閉鎖された。地主である東京都が「動物園の魅力を高めることを目的とした正門前広場の整備工事」の支障となると判断したという。

 跡地にはオープンカフェのある広場ができるという。オシャレだがどこでも同じような雰囲気の、飲み物の値段も高めな現代的なカフェができるのだろう。この開発計画には、2020年の東京オリンピックも関係しているのだろうか。

 都会からは、ほっとできる空間、人と人がゆるやかに交われる空間が、どんどん減っていってはいないだろうか。流行のセンスとお金を持つ人だけが過ごせる街は、弱者を排除する街へとなりかねない。「人が孤立しない街のありかた」をいまこそ都会の人々は、森川氏が訪れたような自殺希少地域から学ぶときがきている。


里中高志(さとなか・たかし)
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして、『サイゾー』『新潮45』などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に精神障害者の就労の現状をルポした『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。