『もしくはルーズソックス』(藤緒あい/祥伝社)

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 とてもしんどいことがあった一日の終わりに、お風呂で汗と涙を流すと、気持ちがスッキリするように、寝る前に少女マンガを読むと、とても癒されることがある。

 20代も半ばをすぎると、現実には都合の良い出会いなんてないことを嫌というほど知っている。自らが動かなくても、イケメンの王子様がある日突然現れて、つまらない日常をバラ色に変えてくれる……なんてことを信じているわけでもない。

 ただ少し、イケメンの優しい笑顔と甘い言葉に癒されたいだけなのだ。それはたとえ、マンガの中の出来事でも、全然かまわないのだ。それだけのことで、背中を押してもらえた気分になり、明日からの過酷な日常も、何とか乗り越えられるかも! と、かすかな希望を抱くことができるのだから。

 藤緒あい作のマンガ『もしくはルーズソックス』(祥伝社)はまさに「大人女子頑張れ!」と、イケメンに抱きしめてもらったかのような、極上の胸キュンが味わえる作品である。
本書は、全4編の作品が収録されているのだが、どの話も、登場人物が、現実とは程遠い、混沌としたよくわからない状況に置かれているのに、やけにリアルなコンプレックスを抱えているのが印象深い。

 例えば、表題作である「もしくはルーズソックス」。わけありで警備会社に就職して間もない、アラサーの水島くんの話だ。

 彼の部屋にはなぜか毎晩、黒髪おかっぱで、目がクリクリとした可愛らしい女子高生が「ふわっと」現れる。セーラー服で、ルーズソックスをはいた彼女をよく見ると、それは高校時代に水島くんがはじめて付き合ったマミ先輩だった……!

 妄想か、頭がおかしくなったのかと焦る水島くんを尻目に、マミ先輩は、

「水島くんもわかんないなら イイほうを選べば イイんじゃない?」

 と、上目遣いで迫ってくる。そして二人は毎晩色々と大人な出来事をしてしまうのだが……!?

 実は水島くんは、以前はけっこういい会社に勤めていた。社内に恋人もいて、長く付き合っていたにもかかわらず 、いつの間にか恋人が社内の別の男性と浮気しており、自分のことは「なかったこと」にされた過去があった。そうして周りにストーカー扱いされた結果、会社にいられなくなり、警備員になったのだ。

 マミ先輩は、水島くんのそんな過去を知ってか知らずか、彼を「大丈夫だよ」と抱きしめる。

 果たして、水島くんは本当に、妄想で昔の彼女(女子高生)のマボロシを見てしまう頭のおかしい男なのだろうか?

 つらい現実は何も変わらなくても、これから先、ちょっとだけイイことがあるかもしれない、と希望を持てるラストが待っているので、ぜひ期待して読んでみてほしい。

 本書は他にも、事故死した、見た目に強烈なコンプレックスを抱える女子高生が、地獄でイケメンの鬼と出会い、現世では叶えられなかった夢を一つだけ叶える「それではみなさん良い旅を」や、刺しても斬っても死なない、浮気性彼氏との攻防が描かれた「たぶんもうゾンビ」が収録されている。

 また、最後に収録されている長編「希望の王国の夜と朝」は、OLの朝子が買ったばかりのマンションに、初老のワケありおじさん・夜太郎がタダで住みつく話なのだが、やりきれない寂しさや、心にポカンと開いた空洞に、優しく寄り添ってくれる物語であった。

 大人女子は、年を重ねるたびに、簡単に口には出せないコンプレックスや嫉妬・困難に遭遇する機会が増える。人知れず涙を流すことも、一度や二度ではないだろう。
だが、そんな時はぜひ本書を読んでみてほしい。明日はきっと大丈夫、希望にだってまた必ずめぐり合えるし、優しい彼だって世界のどこかにはいるはずだから、頑張ろう! と、不思議と素直に思えるはずだ。それはきっと、登場人物たちが皆、心に傷を負った上で、光を見つけたからなのかも……。心を柔らかくしてくれる、最高の少女マンガである。

文=さゆ