画像提供/東京キャットガーディアン

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保護団体から預かった猫たちの世話をしながら一緒に暮らせる「猫付きシェアハウス(※)」は、賃貸では猫を飼いたくても飼えないという不満をもつ多くの人たちの支持を受けて東京で着々と物件数を増やし、このたび大阪にもお目見えすることが決まった。「562(ごろにゃ)大阪京橋」は、交通至便な京橋駅から徒歩5分の好立地に、狭いながらも猫と人が快適に過ごせるようリフォームされた3階一戸建て。10月オープンに向けて内見受付け中の物件を、事業を支援するNPO法人の理事でもある筆者がいち早くレポートします。 ※「猫付きシェアハウス」はNPO法人東京キャットガーディアンの登録商標です

猫付きシェアハウスってどんな仕組み?

猫付きシェアハウスとは、住宅設備として「エアコン付き」や「洗濯機付き」と同様、文字通り猫が付いているシェアハウスのことです。ただし、この猫は飼い主のいない保護猫で、オーナーが保護団体から預かり、猫好きの住人がボランティアで世話をする点が特徴的です。

ご存じのように、シェアハウスに限らずほとんどの賃貸住宅は猫の飼育NGのため、猫を飼いたくても飼えない人がたくさんいます。また、猫を初めて飼うことに不安がある人、高齢であることや出張や引越しが多いなどさまざまな理由で猫との暮らしを諦めていた人にもぴったりの仕組みです。また、シェアハウス卒業時に、望めば猫を譲り受けることもできます。

オーナーにとっても、猫付きという付加価値で物件の入居率を高める効果が期待できるうえ、猫たちを助けるという社会貢献感が得られます。保護団体は、自前の施設のほかに猫の居場所を確保できるので、より多くの猫を保護することができます。

なお、シェアハウスに入る猫たちは、移動や人間との同居によるストレスに配慮して、同じ場所で多頭飼育されていた兄弟姉妹など気心の知れた大人猫が優先されているそうです。

かつて近江商人は、売り手と買い手ともに満足して社会貢献もできる商売を指して「三方良し」と言いましたが、オーナーも入居者も満足して社会貢献もできる猫付きシェアハウスは、居場所と飼い主を得られる猫たちも当事者とみれば、まさに「四方良し」の仕組みです。

この仕組みを考案してフランチャイズ方式で全国に広めようとしているのは、保護団体のNPO法人東京キャットガーディアンで、縁あって筆者は理事を務めています。代表の山本さんは、殺処分される不幸な猫たちを救うために「足りないのは愛情ではなくシステム」と考え、行政施設で殺処分を待つ猫や地域住民に保護された飼い主のいない猫の避難所と譲渡会場を兼ねた猫カフェ型のシェルターを運営し、8年間で5000頭を超える猫たちに里親を見つけています。

最近では、高齢者の死亡や施設入居、多頭飼育崩壊などで行き場を無くした大人猫の保護も課題で、子猫に比べて里親の見つかりにくい大人猫の居場所づくりとして考案されたのが猫付きシェアハウスなのです。

さっそく「562(ごろにゃ)大阪京橋」に行ってみた!

物件のある「京橋」駅は、JR大阪環状線と学研都市線、市営地下鉄、京阪本線が乗り入れる利便性の高い駅。真っ昼間から営業中のレトロな飲み屋街を抜けて徒歩5分で「562大阪京橋」に到着します。

玄関ドアを開けると、猫の屋外逃走防止用柵とリビング、その奥に猫の侵入防止柵のあるキッチンが目に入ります。狭い間口ながらもシックな木調で統一された床や家具の落ち着いた空間が特徴です。玄関横の出窓のクッションで猫が思いっきり脱力して日向ぼっこする姿を見せれば、まさに招き猫になりそうです。

【画像1】玄関から見たリビング(画像提供/東京キャットガーディアン)

【画像1】玄関から見たリビング(画像提供/東京キャットガーディアン)

【画像2】リビングから見たキッチンと階段(画像提供/東京キャットガーディアン)

【画像2】リビングから見たキッチンと階段(画像提供/東京キャットガーディアン)

猫が大好きな上下移動が思う存分できる3階建てで全館フローリング。2、3階の4部屋には猫専用のくぐり戸と部屋ごとに趣向の異なる猫用グッズがあります。当面、このシェアハウスが預かる猫は3頭なので、住人間での猫争奪戦も起こりそうですが、一部屋に猫が集中することもあるなど自由気ままな猫だけに展開が読めません。

部屋にはエアコンとベッドが用意され、スタイリストが選んだ布団カバーとカーテンが個性的な空間を演出しています。3階の小屋裏も含めて収納はしっかりあるので、収納家具をあまり持ち込む必要はなさそうです。

【画像3】各居室と猫のおもちゃ(画像提供/東京キャットガーディアン)

【画像3】各居室と猫のおもちゃ(画像提供/東京キャットガーディアン)

入居済みの猫3頭は愛知県出身だそうですが、新しい住まいに早くもなじんでいます。どの子も内見者の心をわしづかみしそうな、人見知りしないフレンドリーな性格で、オーナーさんからそれぞれ海藻にちなんだ可愛い名前をもらっています。

家賃・共益費水準は、立地条件や建物設備の良さからすれば割安ですが、猫フードやトイレ砂など猫を飼育するための費用が毎月別途1万円必要です。

東京キャットガーディアン代表の山本さんは、「オーナーご夫妻は物静かですがとても積極的な方で、東京の勉強会に参加されてすぐに物件を購入、事業化を決断されたのでこちらが驚いたほどです。特に、住人不在時の猫たちの世話や管理業務もこなされる予定の夫人は、内装のリフォームにあたって自らDIYされるほど素材やデザインにもこだわられました。良いオーナーに恵まれて、入居者にも猫たちにも快適な住まいが提供できそうです」と満足そうでした。

【画像4】間取り(画像提供/東京キャットガーディアン)

【画像4】間取り(画像提供/東京キャットガーディアン)

「猫付き」にすればシェアハウス経営が必ずうまくいくわけではない

幸いなことに、東京で稼働中の猫付きシェアハウスの入居は好調で、住人に気に入られて(もちろん猫のほうもなついて)里子にもらわれていった猫たちも十数頭にのぼるそうです。また、新たな事業化の申し出も全国から相次いでいます。

しかし、「猫付き」にすればシェアハウス経営が必ずうまくいくというわけではないことに注意が必要です。「猫付き」というユニークな付加価値があっても、家賃や管理費などの総額があまり高くなってしまっては、シェアハウスとしての本来の魅力がなくなりかねません。もちろん不動産事業である以上、最寄駅や商業施設から遠くて生活利便性が低かったり、老朽化した設備や内装が改修されずに住まいの快適性に欠けていたりしていては、顧客に敬遠されてしまいます。

現在の賃貸住宅マーケットは、人口減少で利用者増が期待できない一方、相続税対策で賃貸住宅建設が急増したため、市場の空室率は大幅に上昇しています。立地条件や物件に魅力がないため空室を抱えて悩むオーナーが、安易に「猫付き」にしたからといって入居率が上がる保証はないのです。

また、保護団体からすれば、入居者が集まらないで賃貸住宅経営自体が失敗しては、せっかくの猫たちの居場所づくりが無駄になってしまいます。東京キャットガーディアンが、ノウハウやスタッフを提供して継続的に支援できるフランチャイズ方式としたのも、物件調査やオーナーとの面談など事前審査に慎重の上にも慎重を期しているのもこのためです。

小さな命を預かる保護事業の一環として行う以上、事業の健全性と継続性の確保は当然だと思います。改修やインテリアについてプロのスタイリストがオーナーに助言や提案をするのも、できるだけ入居希望者を増やし、入居者の満足度を高める支援になればと考えるからです。

競争が激化する賃貸住宅マーケットでは、犬・猫などペット飼育可能物件以外にも、原状回復義務なしのDIY可能物件、リフォームした分譲物件のお試し居住のように、利用者からすればどうして今までなかったの、と言いたい仕組みが増えてきています。賃貸住宅のあり方を利用者目線でもう一度見直し、猫付きシェアハウスのように従来の市場慣行や常識にとらわれない新しい住まい方を提案できなければ、経営の持続的成長が期待できない時代になっているのではないでしょうか。

【画像5】階段横のキャットステップ(画像提供/東京キャットフガーディアン)

【画像5】階段横のキャットステップ(画像提供/東京キャットフガーディアン)

●筆者
松村徹
長年、シンクタンクで不動産調査に携わるなか、業界の常識には顧客本位を貫く哲学や時代を先取りする意欲が欠けていると痛感。フリーな立場になって自らも両親と同居して「実家問題」に悩むなか、利用者目線から面白くて役に立つコラムや記事を発表していきたい。共著に『不動産ビジネスはますます面白くなる』、『不動産力を磨く』、『猫を助ける仕事』ほか●取材協力
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