『函館珈琲』 (C)HAKODATEproject2016

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…前編「自分発見ドラマ! 音楽ファンのツボも刺激〜」より続く…

【映画を聴く】『函館珈琲』後編
ミュージシャン、あがた森魚やAzumiも出演

北海道出身で、函館の高校に通っていたという日本フォーク界の異才、あがた森魚はコーヒー店のマスターとして出演。その演劇的、歌劇的な要素を多分に含んだ作風は映画との親和性が高く、自身も俳優として、監督として、数々の映画に関わっている。1994年に監督作『オートバイ少女』を函館で上映したことをきっかけに、1999年以降はファウンダー/ディレクターとして「函館港イルミナシオン映画祭」に参加している。

本作では登場シーンは少ないながらも、終盤でコンチネンタル・タンゴの有名曲、「小さな喫茶店」の一節を歌うという見せ場が用意されている。昭和初期に日本でも中野忠晴というポピュラー歌手によって吹き込まれてヒットしたというこの曲、あがた森魚が歌うのは実はこれが初めてではなく、映画『学校の怪談2』の劇中歌として使われたヴァージョンがある。

本作が初の映画出演となるAzumiは、翡翠館に住むピンホールカメラ専門写真家、佐和を演じている。住人とほとんど口をきかず、夜はレコードをかけながら写真の現像をし、その日交わした会話をノートにメモする。彼女が住人たちに心を開いていく様子は、主人公の桧山が本当にやりたいことを発見するまでの過程と並んでこの物語の肝になっている。

Azumiは女優としてだけでなく、アーティストとしても主題歌「Carnival」を提供している。これは昨年12月にリリースされたソロとしての最初のオリジナル・アルバム『CARNIVAL』のリード・トラックだった曲で、作曲とプロデュースはDragon AshのKj(降谷建志)。Dragon Ashのハードでアグレッシヴなイメージとは異なるメロウなフォークトロニカ風の楽曲で、本編を清々しく締めくくる。

鎌倉や神戸、長崎、尾道などと並んで“映画に映える街”であり続ける函館。前編でも触れたように、本作にはいかにも函館という景色は出てこないが、一度でも訪れたことのある人なら多くの場面でこの街の匂いをはっきりと感じることができるはず。映画と旅、そして音楽と本と美味しいコーヒーのある平凡な毎日の生活を大切にする人すべてにお薦めしたい作品だ。(文:伊藤隆剛/ライター)

『函館珈琲』は9月24日より全国順次公開。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。