『函館珈琲』 (C)HAKODATEproject2016

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【映画を聴く】『函館珈琲』前編
音楽は赤犬のクスミヒデオが担当

古くから映画のロケ地として愛される港街、函館。“映画を創る映画祭”として1995年にこの地でスタートした「函館港イルミナシオン映画祭」は、オリジナルシナリオの映画化を目的とする「シナリオ大賞」を1996年から募っており、これまで10作品を世に送り出している。『函館珈琲』はその最新作にあたり、翡翠館という古い西洋風アパートに集まるクリエイターの卵たちの日常と“自分さがし”の行方を描いたオフビート・ドラマだ。

主人公の桧山は、新人賞を獲ったデビュー作の後、次の作品を書けずにいる小説家。古本屋を開くという名目で東京から翡翠館にやってきた彼だが、実際はブックオフなどで仕入れてきた格安の古本をネットで転売して生活費を稼いでいるだけ。Amazonで自分のデビュー作が1円で投げ売りされている悪夢にうなされながらも、テディベア作家や装飾ガラス職人、ピンホールカメラ専門写真家の住人たちのブレない生き方に触れ、自己を見つめ直していく。

函館を舞台にしているとはいえ、本作には函館山からの夜景や八幡坂、ハリストス正教会、五稜郭タワー、トラピスチヌ修道院、立待岬、金森赤レンガ倉庫といった観光スポットがこれ見よがしに登場するわけではない。切り取られているのは函館の風景ではなく、この街に流れる時間だ。手動のミルで豆を挽き、ネルドリップでていねいにコーヒーを淹れる桧山と、その香りを楽しむ翡翠館の住人たち。そのゆったりとした優しい時間の流れを、クスミヒデオによるデキシーランド・ジャズ風のサウンドトラックが彩っていく。

クスミヒデオは大阪のバンド、赤犬のメンバーで、昨年の『味園ユニバース』では本人役として出演していたことも記憶に新しい。同作で主演した関ジャニ∞の渋谷すばるのシングル「ココロオドレバ」の作詞も彼のよるものだ。そのほか、函館に所縁のあるシンガー・ソングライター、あがた森魚や、Wyolicaの元メンバーで現在は多彩なソロ活動を展開しているAzumiが女優として出演するなど、音楽ファンにも嬉しいツボが用意されている。

後編「Azumiがピンホールカメラ専門写真家に〜」に続く…