“秘境に甦った幻のコーヒー”なるものがあると聞きつけ、インドネシア・スラウェシ島へ

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サードウェーブコーヒーが話題となっている昨今。カフェだけでなく、コンビニ業界などでも“こだわりの1杯”戦争が激化している。そんななか、コーヒーカルチャーが気になっていた記者(コーヒーLOVE歴20年・♀)は、“秘境に甦った幻のコーヒー”なるものがあると聞きつけ、インドネシア・スラウェシ島で取材を敢行。虫がいっぱいのジャングルの奥地へ行くようなイメージだったが、そこには最高の1杯と、日本ではなかなか見ることのできない壮大な風景、ユニークな街並みがあった。

【写真を見る】「トアルコ トラジャ」の故郷は、インドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方

アメリカ西海岸から日本に上陸し、話題となったコーヒー界のムーブメント、サードウェーブコーヒー。近年、気軽に楽しめるようになったコーヒーを“さらにおいしく味わいたい”と考える人々の間で注目を集めているキーワードで、「単一種の苗木から収穫された豆(シングルオリジン)だけを使用した高ランクのコーヒーを、いれ方にこだわって飲む」という、一つのカルチャーのことを指す。

ということで、今回はこの高ランクのコーヒーをこだわりのいれ方で楽しむべく“秘境に甦った幻のコーヒー”を取材してきた。

今回の主役である幻のコーヒーとは、アラビカ種の傑作として古くから絶賛されてきた「トアルコ トラジャ」のこと。一度は失われたと思われていたこのコーヒーの芳醇な香味を蘇らせたのが、鍵のマークでお馴染みのコーヒーメーカー、キーコーヒー。

トラジャコーヒーは、第二次大戦でコーヒー農場が荒れ果ててしまったことにより、いつしか幻のコーヒーと呼ばれるようになったのだが、1970年、キーコーヒーは、わずかに生産されていたトラジャコーヒーに出合い、「トアルコ トラジャ」として復活させた。

製品を発売するに当たり、まずは架橋や道路造りなどのインフラ整備からスタートし、約8年もの歳月をかけて日本に登場させたというからその企業努力は凄まじいもの。以降、厳しい品質基準をクリアした豆だけを製品化し、世に送り出しているという。

記者が取材したのは、「トアルコ トラジャ」の故郷であるインドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方。ここは標高1000〜1800mという高地で、昼夜の寒暖差が大きいため生豆が堅く引き締まり、香りや酸味が優れたものになるそうだ。

日本から19時間以上かけ、たどり着いたスラウェシの桃源郷、トラジャは、コーヒーだけでなく、風景や文化においても魅力あふれるユニークな場所。「トアルコ トラジャ」のロゴにも使われている「トンコナン」と呼ばれる船形の屋根をした伝統家屋が棚田の間に並んでいるのだが、それらはまるでアート作品のようだ。ちなみにトンコナンの船の形は、数百年前、船に乗ってこの地にやって来たとされるトラジャ族が、海洋民族であった名残なのだという。

他にも、岩窟墓や盛大な葬式などの伝統文化がいまだ生活に根付いている同エリア。「この地では葬式が人生最大のイベントなんですよ」と現地のガイドさん。道路には放し飼いの鶏や水牛が歩いており、基本的にはのどかな気分が味わえる地域ではあるが、一方で、棺桶が岩壁に吊るされていたり、墓の近くには死者をモチーフにした人形が立っていたりと、葬式にまつわる見慣れぬ風景もあって驚いた。

朝になり、四輪駆動車に乗って山の奥地へ。“雲の上”にあるキーコーヒー直営のコーヒー農場、パダマラン農場(面積530ヘクタール、コーヒーの木約35万本を栽培)を訪れた。早朝、同農場の高台からは幻想的な雲海を見渡すことができる。

雲海を楽しんだあとは、農場や精選工場を見学した。ここでは、現地の女性たちが、完熟したコーヒーの実を丁寧に手で摘んでいる。そして、収穫したその実はすぐにチェックし、痛んだものなどを除去。今度は機械で果肉をはがし、しっかりと水洗いし、乾燥させていく。

さらに乾燥後に脱殻した生豆も、ひと粒ひと粒手で選別し、虫食いや割れ、変色などをチェック。チェックを通った豆をさらに検査員がチェックし、味に影響を及ぼす欠点豆を徹底的に除去していく。

最後は、コーヒーを焙煎、粉にしてお湯に浸漬させ、香りや味、口当りを確かめる「カップテスト」を、専門のカップテイスターが実施。

味にバラつきがないか、そのコーヒー豆特有の特徴を有しているか、あってはならないダメージがないかを、カップごとにチェックしてコーヒーの品質を判定していく(商品になるまで4回!)。何段階にも及ぶこの確認作業からは、ひと粒にかける並々ならぬ熱意がうかがい知れるのだが、「トアルコ トラジャ」の品質は、この“こだわり”が作り出しているのだ。

ちなみに、キーコーヒー現地法人のマネージャーを務めるアンディ ユスリル イスカンダールさんは「『トアルコ トラジャ』は、日本人のクオリティで徹底した生産・品質管理をしているので、他と比べていただいても自信があります!今後は、このクオリティの高いコーヒーが、もっと世界で有名になっていってほしいと思っています」と熱く語る。また、「トアルコトラジャ」はキーコーヒーの農場で作る豆と、苗木や栽培のノウハウを提供した近隣の協力農家から買う豆で作られているのだが、「『トアルコ トラジャ』が飲まれることによってトラジャの農民の生活も豊かになるんです」とも話していた。

これらの工程を見学した後は、いよいよこのこだわりのコーヒーを体験。せっかくなので、ハンドドリップ、フレンチプレス、サイフォン、現地の飲み方“コピ・トブロック(コーヒーの粉をそのままカップに入れ、湯で溶いて飲む)”4つの方法で「トアルコ トラジャ」を飲み比べてみた。

まずはハンドドリップから。すっきりと心地よい酸味、「トアルコ トラジャ」特有のコク、ほんのりとした甘みが感じられた。優しく、エレガントな味わいだ。

次はフレンチプレスで。色も味も濃く、先ほどのものより酸味を感じた。金属メッシュで濾しているので、オイルの成分も多く感じる。ミルクを入れて飲むとマイルドになり、味に深みも出て自分好みの味わいに仕上がった。

サイフォンは、熱々で飲めるのがうれしい。ロート内で撹拌したことによりコーヒーの旨みも出ている。最も柔らかな味わいなのがハンドドリップで、強さがあるのがフレンチプレス、その中間がサイフォンという印象だった。

最後は、現地の人の飲み方“コピ・トブロック”で。細かく挽いた粉と湯をかき混ぜて、その上澄みを飲むのだが、これは少し苦味が強い…。先ほどから飲んでいるコーヒーとは全くの別物に感じられたが、「これはこれで何だか大人の味でおいしい!?」とつぶやいていると、「現地マジックかもしれませんよ?」と同行者。確かに、飲み進めていくと溶け切っていない粉が出てくるので、ツブツブ感のある独特の舌触りが気になってきた…。

といっても、現地でもこのようにブラックで飲む人は少ないそうで、練乳を入れて飲む方法(コピ・スス)がメジャーなのだとか。それぞれ飲み方を変えると味わいも変化して面白かった。

日本では見られない、レアな景色が広がるトラジャにて、鮮度抜群の「トアルコ トラジャ」をさまざまな飲み方で味わい尽くすという、最高に贅沢なコーヒーシーンを体験してきた記者。今回の旅では、ジャングルで大変な目に!…なんてことはなく、“秘境に甦った幻のコーヒー”の確かなおいしさを存分に実感できたのでした。【ウォーカープラス編集部/平井あゆみ】