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●隠居生活における働き方
あなたは「年収90万円で生活しろ」と言われたら、どうしますか?

厚生労働省の国民生活基礎調査において「相対的貧困層」とされるのは、等価可処分所得が年間122万円(名目値/「平成25年 国民生活基礎調査の概況」より)未満の世帯です。それを下回る「年収90万円」という数字を見ると、毎日を生きるのすらままならないのでは? と思ってしまうでしょう。

しかし、『年収90万円で東京ハッピーライフ』の著者 大原扁理さんは、「お金を稼ぐこと」にとらわれない、快適で幸せな生活を送っています。年収90万円の「ハッピーライフ」へいかにしてたどり着いたのか、また、どうやって自分自身の幸せを見つけたのか、お伺いしました。

○お金と仕事について

――年収90万円で生活されているとのことですが、収入の内訳を教えてください。

週2回介護の仕事をしています。それが月70〜80時間です。この介護の仕事が定収入で、大体月7万〜8万円です。単純計算して年収が90万円ということになります。また、文筆業やインタビューなどの臨時収入もあります。去年は本(『20代で隠居 週休5日の快適生活』)を出したんですけど、それでも年収100万円を切るくらいですね。でも、臨時収入があると、あることに安心して介護の仕事を断ったりしちゃうんです。なのであまり油断しない範囲で仕事をしています(笑)。

――年収が貧困線(122万円)を下回っています。隠居生活の生活費を見ると、家賃2万8,000円、固定費1万5,000円、交際費1万5,000円、食費1万円で暮らしているとのことですが、「生活が苦しい」とは思いませんか?

貧困って、基準があるんですね。まずそれにびっくりしてしまいました。貧困の基準をみると、社会の生活水準って高いなと感じます。でも私は、貧困のラインや社会での役割とか、そういう基準を国や社会に決められたくないって思っています。生活や快適の基準は自分で決めれば良いこと、社会の基準になぜ合わせなくてはならないのだろうと疑問に思っています。私は年収90万円で快適に楽しく過ごしていますし、自分が快適に過ごしているのが90万円だったというだけです。自分で決めて良いんじゃないかなって思います。

――では年収をもっと増やそうと思うことはありますか?

ないですね。私は、年収はいくらでも良いと思っています。「年収90万円で東京生活」って言っていますけど、それは快適な方を選んでいったら、結果として年収90万円の生活にたどり着いたという話なのです。だから、今不便を感じることはないですし、今のこの快適な状態でいられるのなら、これからも増やそうとかいうことはないです。余ったお金で貯金もしていますし。ちまちまですけど(笑)。

――年収90万円で貯金もできるんですね!

何かあったときのためにしています。貯金額は40万円ないくらいなんですけど、30万円を切らないように頑張ってる感じです。私が節約して生活すると、最低限6万円で生きていけるということが分かったので、半年分くらいあると何かあっても安心ということで、30万円をキープするようにしています。

――昨年「老後破産」という言葉が話題になりました。今のままの生活を続けていく場合、老後に不安はありませんか?

これは私の言葉ではないのですけど、老後は「自分がどう生きてきたかということに向き合わされる時期」だそうです。それは自分も感じていて、きちんと自分の考えや生き方に向き合わないで、社会が求めるまま流されて過ごしていたら、老後になってすごいツケを払わなくてはならなくなるんじゃないかと考えます。

――お金の問題ではなく、生き方なんですね。

そうですね。どうしたら自分が幸せかって、常に自分に問いかけることが大切だと思います。

●年収90万円の食生活って?
○食事について

――隠居生活では食費にどれくらいお金をかけていますか?

買い物は週に大体2回で、1回の買い物に使うのは1,000円くらいですかね。1週間のメニューを考えてから買い物をします。米は無農薬の玄米を知り合いの農家さんに分けてもらっています。野菜はまるごと使うことを考えます。例えばキャベツを1玉買ったら1週間でどうやって使い切るかってことをメインで考えています。

――「自炊」は結果的にお金がかかる、という人がいます。隠居生活で身につけた「自炊代を安く抑える方法」を教えてください。

毎日の基本メニューがあって、大体毎日同じものを食べています。朝はスコーンと紅茶、お昼は麺類で夜は玄米と味噌汁という基本のメニューを決めておくと、買うものが決まってきて、余計なものを買うことがなくなります。

――とても穏やかに冷静に物事を見て考えているように感じますが、食生活は関係あるんでしょうか?

肉は瞬発力がある食べ物ですが、玄米菜食をしていると、感情をコントロールできるような気がします。玄米菜食の「感情が穏やかでいられる」という効果は、出方がゆるやかなので、年単位で続けることが必要です。時間はかかりますけど、今強欲で困っている方におすすめです(笑)。

――お話を伺っていると、仙人のような生活を楽しんでいると感じます。大原さんは物欲とどうつきあっていますか?

物欲はあまりないですね。欲しい物も思いつかない。強いて言えば、神社行ったときにおみくじを引くくらいです。大吉が出たらそれを集めてて、本のしおりにしています。本を開いたときに「ああ、俺は大吉だ!」って良い気分になれます(笑)。

――「物欲はあまりない」とのことですが、物を購入するときに気をつけていることはありますか?

物は必要な分しか持っていませんし、必要がなくなれば人にあげてしまいます。買うときは、処分するときのことを考えています。立派な物は必要なくて、例えば衣装ケースなら厚手のたためる段ボールで良いと思っています。

――「ミニマリスト」「ミニマリズム」(最小限のもので暮らすライフスタイル)に少し近いものがあると思うのですが、それらについてどう思いますか?

私は「持たない生活」も、「年収90万円」も目的にしているわけじゃないんです。あくまでも自分が求める快適さの結果なのです。自分が快適だと思うことが、結果として物を持たないことであれば良いと思います。

○人付き合いについて

――最近はSNSなどで「●●に行った」「□□を食べた」といったアピール合戦があります。「いかに自分が充実しているように見せられるか」を気にする人も多いようです。そこから抜け出すためにはどうしたらいいですか?

本当に抜け出したいのなら、自分自身に何が快適なのか問いかけることが近道だと思います。でも、抜け出してつらかったら意味がないですよね。アピールすることが好きで快適なら、それで良いんじゃないかなって思います。

――例えば人から食事や遊びに誘われたらどうしますか?

年収90万円ということを知ると、そんなすごい(お金がかかる)ことに誘われないですし、うまく回っているんです。自分らしさを選択できることが1番の贅沢なんじゃないかな。

――そんな大原さんが今でもつきあっている人はどんな人ですか?

会社員の方は少ないですね。フリーの方やミュージシャンの知り合いが多いです。社会にとらわれていない人とのつきあいが多いですね。

――外食や遊びに行って贅沢をしたいとは思いませんか?

率先して人づきあいをしに行くタイプではないので、遊びに行きたい、外食をしたいとはあまり思いません。会いたくない人に会わなくて良いとか、行きたくないところに行かなくて良いとか、いかに自分が快適に過ごすことを実行することが贅沢だと思っているので、私が贅沢だと感じていることは、あまりお金を使うものではないんです。

――人生観ですね。自分で快適を選んでいるという。

そうですね。お金があってもなくてもどっちでも良いんです。今ワンルームで快適に過ごしてますけど、豪邸に住んでても、何とも感じないだろうと思っています。自分の価値観や、快適の実感が先にあるんです。その快適さを得ようとした結果が年収90万円だっただけです。そう考えると、執着がなくなるからとても楽なんです。

――「人は平等というが、『経済力』は平等ではない」と著書にありますが、その事実を受けいれるにはどうしたらよいでしょうか。

大人になって様々な視点でものが見られるようになってから、お金持ちにはお金持ちなりの大変さがあるということがわかりました。その視点で考えることができたのは、「世の中にはどうにもならないことがある」ということを知っていたからではないかと思っています。生かされていると謙虚に考えることができますし、社会との向き合い方も自分で選択できるのではないでしょうか。視点を変えることができると、とても楽になりますね。

●パートナーができたらどうする?
○ライフスタイルについて

――ベストなライフスタイルの見つけ方について、「どうすれば自分が幸せか」を知ることが重要とありました。それを知るためには何をしたらいいですか?

小さな頃から自分で決めるという経験をしていないと、「自分の実感で決めてください」って言われても難しいのかもしれないです。決める基準は、例えば飲み会の誘いがキャンセルになったとき、ホッとしてうれしいと思うのなら、その飲み会は行かなくて良いんです。消去法でいらないことから削除していくと、やりたいこと、会いたい人、行きたい場所がわかってくるのではないでしょうか。世間や社会が「こうあるべき」というものは、必ずしも悪いものではないですが、実感を持って、必要か必要でないかを選択していけると良いですね。

――大原さんは、いわゆる「理想の老後」を30代で既に実現しています。将来やってみたいことや、パートナーができたときのイメージはありますか?

パートナーを持つことは特に考えてないですし、予定もないですけど、そういう人ができたら、一緒に生活してみても良いかな。この生活をどうしても続けたいということではなくて、そのときの状況環境に合わせてしなやかに変わっていけたらなって思っています。また、ゆくゆくは農業をやってみたいです。どうにもならないことを相手にすることに興味があります。

――とてもハッピーに生活している感じが伝わってきます。

主体的に選んでこの生活をしているので、楽しいです。自分で選択することは楽しいんです。緊張するし怖いし失敗するかもしれないけど、人に決められるよりは良いです。社会や世間など、他のせいにすることは楽ですが、自分で快適であることを選んでいかないと、生きづらくなるんじゃないかなと感じています。

――自分が快適であることを選ぶのが重要とのことですが、今後住んでみたいところはありますか?

西荻窪と下北沢に住んでみたいな、と。

――まさかの23区内(笑)。仙人のような生活をされているので、例えば多摩の山奥などが候補にあがるのでは? と予想していましたが……。

誰もいない山の中にいたら隠居しかやることがないじゃないですか(笑)。人々が生活している感じがあるところが好きですね。こんなに都会の誘惑があるのに、あえて隠居する、というのは面白そうです。

――最後にお聞きします。30代ですでに隠居されている大原さんは「長生きしたい」と思いますか?

いつまで生きるかはわからないですけど、100年後の世界を自分の目と体で見てみたいですね。そのときにどう変わっているのか興味があります。

――そのときは、本当に仙人になっているかもしれないですね。

仙人は多摩にいた! とか、ネットニュースになってるかもしれないですよね(笑)。

○終わりに

大原さんからは、年収90万円とは思えないハッピーに過ごしているエネルギーが感じられます。それは、「嫌なことをしない」「嫌な人に会わない」という、本質的に贅沢な生活を送っているからなのでしょう。

社会や世間は、消費活動を促し、やりたいことで社会貢献できることを見つけさせたがる風潮がありますが、大原さんはそれらすらも、快適ではないと感じるなら必要がないという、新しい価値観を提供しているのではないかと感じます。

自分自身で快適さを選択するライフスタイル、ハッピーな脱欲生活が、これからの主流となっていくかもしれません。

【書籍紹介】
『年収90万円で東京ハッピーライフ』(著:大原扁理、イラスト:死後くん/太田出版/1,400円+税)

年収90万円で、誰よりもハッピーに暮らす方法(しかも東京で)。

「親も先生も信用してはいけない。就職しなくても生きていける。終身雇用なんて期待するな。世間の常識は疑ってかかれ。同調圧力や空気に負けるな。人生は一度きり。他人に自分の運命を左右されるのは御免だ。など、僕と考え方はほとんど同じだ。『働かざるもの食うべからず』なんて、古い。」(推薦文:堀江貴文)

(桜庭由紀子)