中国の議会制度が揺れている。こう書くと「中国に議会制度があるだって?」と不審に思う方がいると思う。中国にも議会制度はある。写真は人民大会堂。

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中国の議会制度が揺れている。こう書くと「中国に議会制度があるだって?」と不審に思う方がいると思う。中国にも議会制度はある。もっとも、日本などの制度とは大きく異なり、しかも国を取り仕切っているのが共産党なのだから、「形式にすぎない」という批判も成り立つ。

しかし形式的な存在であったとしても、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)は、国の最高権力機関と定められている。省における省人民大会は、省の行政トップである省長を任命する権限を持つ。市についても同様だ。「制度上の形式」の権威が失せ、信頼がなくなれば、共産党を中核とする統治システムがぐらつく。それだけに、事件は深刻だ。

問題が発生したのは遼寧省だった。全人代代表(議員)は、各省の人民代表大会が選出することになっている(それとは別に軍選出の議員もいる)。省議会に相当する遼寧省人民代表大会の「腐敗問題」が調査の対象になっていることは、9月上旬には取沙汰されていた。そして全人代常務委員会は13日、同省選出の全人代議員102人のうち45人を「金銭またはその他の財物で議席を手に入れた」との理由で、資格剥奪の処分にすることを決めた。

遼寧省では省人民代表大会の議員452人が同様の理由で資格剥奪。残る議員は147人になってしまった。その他、遼寧省内の市でも、議員の資格剥奪や停止が相次いでいる。

事態の発端は、中央軍事委員会の徐才厚前主席が退任後の2014年に収賄の容疑で訴追されたことだった。同事件に関連して、遼寧省選出の全人代議員だった王春成氏が同年4月に議員資格を取り消された。王氏は遼寧春成工貿易集団という企業の会長だった。

調べが進むにつれ、省人民大会、さらに同省選出の全人代議員の多くが「人民元、黄金、米ドル」などをばらまいて、議席を得たことが明らかになったという。

同問題がなおさら深刻であるのは、中国が90年代に本格化させた「改革開放」の推進にどうしても必要だとして導入した、新たな権力ヒエラルキーの構造が、「自家中毒」を起こしていると言わざるをえない点だ。

「改革開放」および経済を全力で発展させた最大の目的は「共産党による統治の安定」だった。そして、経済発展の担い手である企業人は、政治分野での発言力向上を求めるようにった。自然な成り行きであるし、企業家の意見を政治にしっかり反映させることは、客観的に見ても必要と思われた。

企業家にまず門戸を開いたのは、政治協商会議だった。政治協商会議とは政策に対する「提言機関」だ。そのルーツは中華人民共和国成立以前の、国民党と対決するための「共同戦線」だった。つまり、共産党以外の各界から広く意見を求めるための組織という性格がある。企業家を政治協商会議のメンバー(委員)にすることに、さほどの違和感はなかった。

その結果2015年時点で、中国の資産家ランキングである胡潤百富榜の上位資産家1200人あまりのうち、約200人が、全国政治協商会議の委員を兼任しているという。

中国ではさらに、2000年に江沢民国家主席が提唱し、04年の憲法改正で序文にも盛り込まれた「3つの代表」で、民間資本家にも共産党入党への道が開かれた。民間企業の経営者が、人民代表大会の議員になることも、珍しくなくなった。

企業家が政界に進出すること自体は、西側社会でも珍しくない。日本でも、かつての田中角栄氏がそうだったし、米国で仮にトランプ氏が大統領に当選したら、財界人が政治のトップに躍り出た典型例のひとつになるだろう。

しかし西側諸国では、「選挙に勝つ」とのプロセスを経なければ、政界に進出することはできない。中国では、「経済における地位がある」ことがそのままで、「政界に出たい」との希望を実現させる有力な手段になってしまう。地元経済に欠かせない人物で、思想的にも特に問題なしとみなされれば、地方の人民代表大会の議員の座は得やすい。市の議員になれば省の、省の議員になれば省選出の全人代議員への道が開けてくる。