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東京大学(東大)などは9月21日、クマムシのなかでも極限的な環境に高い耐性を持つヨコヅナクマムシのゲノムを解読し、そのなかにコードされたクマムシ固有の新規タンパク質のひとつがヒト培養細胞の放射線耐性を向上させることを発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 橋本拓磨 特任研究員、慶應義塾大学先端生命科学研究所 堀川大樹 特任講師、東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 國枝武和 助教、国立遺伝学研究所らの研究グループによるもので、9月20日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

クマムシは、陸、川、海に生息する4対の脚を持つ体長1mm未満の小さな動物で、特に陸生クマムシの多くは、外界の乾燥に応じて脱水し、「乾眠」という無代謝状態になる。乾眠状態では、超低温・高温・真空・高い線量の放射線照射など、さまざまな極限環境に耐性を示すことが知られており、特に放射線については乾眠状態・通常状態いずれにおいてもヒトの半致死量の約1000倍となる4000Gyの放射線照射にも耐えることができる。しかし、このような高い耐性能力を支える分子メカニズムについては明らかになっていない。

今回、同研究グループは、クマムシのなかでも特に高い耐性を持つヨコヅナクマムシのゲノム配列を高精度に決定。同種が約2万個の遺伝子を持つことを明らかにし、このうち52.5%はほかの動物の遺伝子と類似していたが、41.1%はクマムシ固有の新規遺伝子、1.2%は外来遺伝子を含むことがわかった。

また、遺伝子レパートリーをほかの動物種と詳細に比較した結果、酸化ストレスへの抵抗性が高いことが明らかになった。これは、乾燥時に発生する酸化ストレスに対抗するために獲得されたものであると考えられるという。一方で、ストレス応答に必要な一部の遺伝子群を喪失していることもわかった。これについて國枝助教は、「不思議な結果」であると説明していたが、クマムシが耐性を示す過酷な環境ストレスに対して過剰な応答をしないよう適応した結果ではないかと推察している。

さらに、同研究グループは、ヨコヅナクマムシの核DNAと結合するタンパク質を分離・同定し、これらのうち既知のタンパク質と類似しない新規タンパク質「Dsup(Damage Suppressor)」を発見。Dsupタンパク質は核DNAと同じ局在を示すことを確認した。なお、同タンパク質をヒト細胞に導入してもDNAの近傍に局在していたという。

このDsupが放射線耐性を付与するかどうか調べるため、Dsupを導入したヒト培養細胞にX線を照射した後、DNA切断の量を調べたところ、Dsup未導入細胞に比べて切断量が約半分に低下していたという。この切断量の低下は、DNA切断自体の減少によるものであり、切断されたDNAの修復が亢進したためではないことがわかっている。放射線は活性酸素を発生させて間接的に生体傷害を引き起こす作用があることから、Dsupは活性酸素による攻撃からDNAを保護しているものと考えられる。

また同研究グループは、Dsupが放射線傷害からDNAを保護することから、細胞の放射線耐性も向上している可能性を考え、細胞増殖能を喪失させる4GyのX線を照射した後の細胞の形態と増殖能を調べた。この結果、未導入細胞では増殖がほぼ停止し、8日目以降は減少傾向を示すのに対し、Dsup導入細胞では一部の細胞が正常な形態を保ち、8日目以降も顕著に増殖することがわかった。したがって、Dsupはヒト培養細胞の放射線耐性を向上させることが明らかになったといえる。

國枝助教は今後の研究について、「今回の研究で見つかったほかのクマムシ固有の遺伝子についても解析を進め、クマムシの高い耐性能力を支える分子メカニズムを明らかにしていきたい」と話している。

(周藤瞳美)