『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(松本俊彦、岩室紳也、古川潤哉:編/日本評論社)

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 その分野における専門家や識者がひとつのテーマについて共同で執筆する本が増えている。『各分野の専門家が伝える 子どもを守るために知っておきたいこと』(メタモル出版)や『大学生のためのメンタルヘルスガイド:悩む人、助けたい人、知りたい人へ』(大月書店)など、いずれもいま実際に“悩んでいること、困っていること”がある人たちに向けて易しく解説してくれる。

 何かを知りたくてインターネットにアクセスすれば真偽の定かでない情報があふれている現在だからこそ、医療や教育、社会福祉など現場の最前線にいる専門家の声は価値がある。「知識や情報の出どころ、およびそれを伝えてくれる人」が明確で信頼のおける情報こそが、いま求められているということだろう。

“いま”だからこその悩みに答えられるか?

 こうした本を手に取らなくとも、心身のことは医師に聴けばいいし、教育現場や社会保障についてもそれぞれの専門家や機関にアクセスするのがもっとも早くて確実である、と考えている人も多い。しかしこれが、「思春期の子どもたちが、いま困っていること」だと、どうだろう?

 思い返せば、自分も10代のときはいろんなことに悩んでいた。というより、悩まない人などひとりもいないのが、この時期だろう。学校での人間関係、親との関係、将来への希望と不安、そして恋愛、性に関すること……。しかし、その時期が遠くなるとだいたいが「過ぎたこと」になる。そして実際に、わが子や身近な子どもたちが悩んでいても、「そういう時期もある」「子どもの悩みなんてたいしたことない、大人になれば消えてしまう」などと、したり顔でいったりする。自分が10代だったときにそういわれたらグッサリ傷ついていたにもかかわらず。

 たしかに、思春期のいろんなことを乗り越えて私たちは大人になる。でも、実際にはフタをし、目をつぶり、スルーしてきた“思春期の悩み”もあるのではないだろうか。そしてそれが、現在の悩みや生きづらさにつながっていることは往々にしてある。そんなとき「こうした知識、考え方があるとあのとき知っていれば」「適切なアドバイスをしてくれる大人が身近にいてくれたなら」という思いを、いまなお抱えている人は少なくないに違いない。

『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』は、各界のスペシャリストが、2010年代を生きるティーンエイジャーたちのリアルな悩み――たとえば、「いじめを受けたら?」「これって、うつ病?」「親に絶望したときは、どうすれば?」「人と自分を比べてばかりで苦しい」「彼氏が避妊してくれない」「オナニーって悪いことなの?」などなどに応える1冊だ。

 自身も障害とともに生きる小児科医、長年にわたって性の悩みに答えてきた泌尿器科医、自傷する10代を数多く診てきた精神科医、インターネット社会の専門家、仏教の僧侶などおカタイ肩書の“先生”のほかにも、過去にイジメを受けた経験のある小説家や、元AV女優、そしてマスターベーションサポートグッズ「TENGA」の社員までもが紙面をとおして少年少女の悩みに寄り添い、解きほぐし、そしてエールを送る。

思春期の「考える力」を信じる

 周囲の大人が身近な中高生の子たちに対して、「10代の悩みは自分も通ってきた道、専門家の力を借りるという大げさなことをしなくても、自分がアドバイスできる」と思うのは、ときに危うい考えとなる。時代の移り変わりとともに、少年少女の悩みも変化しているからだ。

 いじめにLINEが使われる時代とそうでない時代、出会い系アプリで見知らぬ人とすぐに出会え、性的関係を持てる時代と、それ以前。悩みの種類も濃度も明らかに違うのに、自分たちの時代の経験則を押し付けるのはエゴでしかなく、子どもたちも困ってしまう。身近な大人に相談しにくかったり、彼らから見当はずれの回答しか得られないとしても、子どもたちは自力でこうした専門家にアクセスしにくい環境にある。ゆえに、身近にあるネット情報に流れ、不確かな情報を信じてしまう。

 大人が子どもたちに対してできる最善のことは、耳を傾け、悩みを否定せず、解決策を押し付けずに一緒になって考えること。そして、必要があれば解決につながる情報を提示したり、専門家やしかるべき機関につなぐこと。本書を手渡すのでもいい。彼らは自分にそれが必要だと思えば、読んで、自分たちで考え、悩みの解消に向かう。たとえ解消までいかなくても、きっと心が軽くなる。

 これこそが、「自分が思春期のときも、大人にそうしてほしかった」解決法ではないだろうか。

文=三浦ゆえ