「まず、UAE戦の日本は負けるような戦いはしていない。しかし、重大な戦術的欠陥はあった。敵陣に入ったとき、選手たちのポジションや動き方には偏りがあり、ポジション的優位を失っていた」

 ロシアW杯アジア最終予選、日本の戦いを、ミケル・エチャリ(69歳)はそう言って鋭く分析している。

 エチャリは現在、バスク代表監督(FIFA非公認)を務める。リーガエスパニョーラの古豪、レアル・ソシエダで20年近くにわたり、強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、セカンドチーム監督、戦略担当などを歴任。「バスクフットボールの父」の異名をとり、鋭く詳細な洞察力で、「ミスター・パーフェクト」とも呼ばれる。豊富な見識によって、ホセバ・エチェベリア、ハビエル・デ・ペドロ、シャビ・アロンソといった選手を発掘してきた。

 エチャリは『日本サッカースカウティング127選手』(東邦出版)を出版するなど、2009年から日本サッカーを定点観測し、造詣も深い。ロンドン五輪の躍進、ザックJAPANの危うさ、清水エスパルス時代の岡崎慎司の飛躍も言い当てている。

 では、スペイン人指導者が世界標準で見たハリルJAPANの実像とは?

「UAE戦、日本は序盤から優勢に戦っていた。サイドを変えながら深くえぐっており、数多くの好機も作っている。ゴールにはならなかったが、敵ディフェンダーを圧倒していたのは間違いない。本田圭佑はFKをヘディングで叩き込んだが、他に少なくとも3度は決定機を迎えていた」

 日本の攻撃がUAEを苦しめていたことを、エチャリは真っ先に評価する。

「しかし、両サイドの本田、清武弘嗣が中に入ってきてしまい、中が渋滞を起こしていたのも事実だ。解決策としては、トップ下の香川真司がサイドに流れるというのが一つにある。だが、そこはサイドバックがすでにスペースを埋めており、出口がない状況だった。サイドバックの攻め上がりのタイミングが早すぎて、相手のディフェンダーを守りやすくしていた。結果として次第に、攻撃の動きが少なくなっていった」

 ミスター・パーフェクトは、攻撃の単調さが試合を厳しくした状況を解析する。

「選手たちのアイデアそのものは悪くなかったと思う。バイタルエリアでは数的優位で圧倒し、エリア外の選手たちもポジション的優位に配慮していた。しかし中央の狭いスペースに集まりすぎ、ピッチで深みを作ることができなかった。とりわけ香川はスモールスペースでの壁パスにこだわりすぎていた。バックラインの目の前の一番狙われる場所で、次の一手が読まれてしまっていたのだ。

(同点とされたFKのシーンは)正直、吉田麻也のファウルはまったく必要がなかった。軽率だったと言わざるを得ない。さらに言えば、GKの西川周作が適切な処置をしていれば、そのFKも止められたかもしれない。壁の作り方が悪く、ボールの軌道を確認するのがわずかに遅れたのではないか。そのズレによって、ブロックした手を持っていかれてしまっている」

 後半になって、日本の戦いがいくらか改善していることをエチャリは説明している。本田が右、香川が左という形で、好機を作っていた。しかし、ゴールは生まれない。そして日本はPKを与えて逆転されてしまう。

「3人の日本の選手が、ボールを持ったひとりのUAE選手を囲んでいた。その状況で、完全にPKを誘発させてしまった。すぐ側で審判はその様子を確認しており、弁解の余地はない。ナイーブなプレーだったと言える。もっとも、その後、宇佐美貴史が仕掛けたドリブルもプッシングを受けており、PKに値する反則だった。加えて言えば、浅野拓磨のゴールは、誰が見ても正当なゴール。審判のミス、もっと正確に言えば、副審のミス。追加副審がいないのも意外だった。

 そう考えると、勝敗そのものはどう転んでいたか分からない。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は後半、さらにオフェンシブなキャラクターにチームを変えたかったのだろう。大島僚太を下げ、ボールを前に持ち運べる原口元気を投入したのはその狙いに違いない。その効果は確実にあった。

 しかし最善の交代策だったのか? 相手が疲弊する中、FW岡崎慎司はそのままプレーさせ、もう1人FWを投入すべきだったかもしれない。ツートップにして得点力を高めるべきだった」

 エチャリはそう言って締めくくった。彼の指摘は、驚きはないかもしれないが、道理が通っている。その点、本物の識者だけに、現状把握の裏付けとなるのではないか。日本は負けるような試合をしていないが、負けるだけの要素もあったということだろう。

 そして名伯楽はこう言い添えている。

「この世界に生きている人間として、一つだけ断っておきたい。それは試合後にコメントすることはとても簡単なこと。日本の戦いはそこまで悪くはないし、心配する必要もない。守備面の欠点を修正していくことで、十分にアジア予選を勝ち抜けるチームである」
(つづく)

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki