大関・稀勢の里の「綱取り」に注目が集まる大相撲秋場所(9月場所)が現在、両国国技館で開催されている。ここ数年の相撲人気を物語るように、開催期間の前売りチケットは完売、という盛況ぶりだ。

 そうした状況の中、アマチュア相撲の最高峰となる第21回世界相撲選手権が、今年はモンゴルのウランバートル市で行なわれた。

 世界選手権は文字どおり、各国の予選を勝ち抜いた"相撲の選手"たちが世界の頂点をかけて戦う大会だが、髷(まげ)を結った"プロの力士"は参加できない。とはいえ、今や出場選手の実力は"プロ"と比べても、決して大きな差はない。

 今回、日本代表メンバーとなった5名もそうだ。国内のアマチュア相撲ランキングに基づいた、大学生、社会人選手の精鋭で、単純に比較はできないものの、現役力士で言えば、幕下上位から十両下位に匹敵する実力があると言われている。昨年の世界選手権、無差別級の覇者・黒川宗一郎(アイシン軽金属)、その黒川の実弟で学生横綱(昨年度)である黒川宏次朗(拓殖大)、昨年のインカレ3位の三輪隼斗(日本体育大)ら団体メンバーをはじめ、メンバーの誰もが、個人、団体戦での金メダル獲得を期待されていた。

 しかし、「相撲=日本」という図式はもはや存在していない。

 外国人力士が大相撲界を席巻しているように、アマチュア相撲でも外国勢の台頭が目立っている。団体戦では、地元ファンの大声援に後押しされたモンゴル、体格で上回るロシアの後塵を拝して3位に終わった。個人戦でも、中量級の三輪が唯一優勝しただけで、他の階級ではロシア、モンゴルの選手たちが頂点に立った。

 世界選手権では女子による大会も同時に行なわれる。今年で12回目となる世界女子相撲選手権である。

 最近では、テレビCMにも出場している女子相撲界の"アイドル"野崎舞夏星(のざき・まなほ/立命館大)の活躍などもあって、徐々に存在が知られるようになった女子相撲。全日本選手権は1996年から開催されていて、無差別級では女子相撲界の"女王"築比地里絵(ついひじ・りえ)が11連覇(1996年〜2006年)という快挙を達成している。

 国際大会も、1999年にドイツで初めて行なわれた。当時は世界新相撲選手権という名称で開催され、元小結・垣添の雷親方夫人の浅井(旧姓)栄美がその第1回大会に代表選手として出場している。

 そもそも女子相撲が競技として行なわれるようになったのは、オリンピックの正式競技入りを見据えてのものだった。1990年代に入って、大阪府が2008年五輪の開催地に立候補を表明すると、プロジェクトが発足。「相撲」が新たな五輪種目候補となるには、世界選手権の参加国を増やすこと、さらに男女ともに競技者がいることが前提にあるため、競技大会も開催されるようになった。

 こうして始まった女子相撲だったが、当初は「相撲=大相撲」、つまり「男性のスポーツ」という概念が強く、競技人口は非常に少なかった。周囲から"イロモノ"的にとらえられていた影響もあるだろう。

 それでも、各種大会がスタートし、柔道やレスリングなどから転向してくる選手が出てきたり、相撲人気に触発されて自ら女子相撲界に飛び込んでくる者がいたり、次第にその数は増えていった。今では、国内では小学生や中学生の大会も開催され、国際大会も世界各地で開かれるようになった。

 そして、12回目を迎えた今大会も大いに盛り上がった。日本のメンバーでは、国内の"絶対王者"であるふたり、軽量級の山中未久(立命館大職員)と、無差別級の上田幸佳(鳥取西中教員)に、メダルの期待がかかっていた。

 中学時代から相撲ひと筋の山中は、俊敏な動きと集中力の高さが売り。今大会でもその武器を存分に生かして、決勝まで駒を進めたが、決勝では女子の強豪国のひとつであるウクライナの宿敵ボイコバ・アリーナに敗退。銀メダルにとどまった。しかしながら、今回の世界選手権の運営に関わっていた横綱・白鵬は、「今大会で一番印象に残っているのは、山中選手のがんばり」とその奮闘ぶりを称えている。

 一方の上田は、幕内・逸ノ城の高校の先輩で、2012年に行なわれた第9回大会の覇者。国際経験豊富で、安定感のある相撲には定評がある。だが、今大会ではやや精彩を欠いて早々に敗退。メダルには届かなかった。

 大会全体を通してみると、海外勢の躍進に比べて、日本チームはやや低調に終わった印象がある。メダルラッシュで湧いたリオ五輪では、お家芸である"柔道ニッポン"の復活がクローズアップされたが、それとは対照的な結果となった。

 男子チームの敗因を挙げるとすれば、国際試合の経験の少なさに尽きるだろう。日本人選手は、相撲の基本に忠実で、多彩な技を持っているものの、"ここ一番"の大舞台で力を発揮できない。五輪の柔道同様、「勝たなければいけない」というプレッシャーに押し潰されている部分もある。

 翻(ひるがえ)って女子は、男子とは違って、かなり根本的かつ深刻な問題を抱えている。それは、相撲をやれる環境が十分に整ってない、ということである。

 高校では、照ノ富士、逸ノ城ら多くの力士を輩出していて、相撲に理解の深い鳥取城北高があり、大学では、日大、立命館大などがあるものの、女子相撲が部活動として成立している例は、数えるほどだ。そのうえ、中学、高校、大学で活躍してきた全日本レベルの選手たちが、社会人になってもそのまま相撲を続けるのは極めて難しい。社会人でも結果を出している山中や上田らは、非常に稀有(けう)な存在。せめて、女子柔道や女子レスリングの選手たちのような環境であれば、選手層が増して、レベルアップするのは間違いないのだが......。

 女子相撲の発展は、安心して相撲ができる環境づくりができるかどうかにかかっている。

 先頃発表された2020年東京五輪の追加競技に、「相撲」は入っていなかった。現在「大入り満員」が続く大相撲を支えている力士の中には、世界選手権経験者が数多くいる。外国人力士も、さまざまな国から集まってきていることを思えば、候補に挙がってもおかしくない。

 大学時代に国内外の大会で活躍してから角界に進み、先日引退を発表した元小結・時天空(間垣親方)は、「世界選手権の結果はいつも気になっています。アマ相撲は、僕の相撲の原点ですから」と語って、アマチュア相撲界の活性化と、プロとアマの融合を願っている。そうした声が膨らんでいけば、いつか五輪競技になる日が来るに違いない。

武田葉月●文 text by Takeda Hazuki