9月のボクシング祭り

 2016年9月は、世界のボクシングファン垂涎(すいぜん)のビッグマッチが連発。さる9月10日には、"ロマゴン"ことローマン・ゴンサレス(ニカラグア・29歳)が4階級制覇を達成し、3団体統一ミドル級王者のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン・34歳)が貫禄のTKO勝利で防衛した。

 そして、9月後半戦も見逃せない。9月17日(日本時間9月18日)は人気・実力とも世界最高峰のサウル・アルバレス(メキシコ・26歳)が、そして9月24日(日本時間9月25日)には日本の帝拳ジム所属のホルヘ・リナレス(ベネズエラ・31歳)が、それぞれタイトルマッチに臨む。

 前編に引き続き、ロンドン五輪・金メダリストの村田諒太と、芸能界屈指のボクシング通で知られる俳優の香川照之氏に見どころを語ってもらった。

【WBO世界スーパーウェルター級タイトルマッチ】
サウル・アルバレスvs.リアム・スミス

 サウル・アルバレスは26歳にしてキャリア11年、49戦47勝(33KO)1敗1分の戦績を誇る。唯一敗戦した相手は、あのフロイド・メイウェザー・ジュニアだ。これまでスーパーウェルター級(WBA・WBC)、ミドル級(WBC)の2階級で世界タイトルを獲り、今回は本来の階級であるスーパーウェルター級に戻して王座奪回を狙う。

 迎え撃つ王者リアム・スミス(イギリス・28歳)はキャリア8年、24戦23勝(13KO)1分の好戦績。この一戦のオッズは8対1で「アルバレス有利」と出ているが、スミスは現在8試合連続KO勝利と勢いに乗っている。

 香川氏は、スミスの勢いを認めながらも、アルバレスの勝利を断言する。

「スミスは小さいので(176cm)、カネロ(アルバレスの通称)は前の試合でアミール・カーン(イギリス・29歳)の距離に悩まされたようなことにはならないと思うんですね。お互い至近距離から、自分の得意なパンチをインサイドから当てあうことになるんじゃないでしょうか。時間がかかることはないような気がします。5回TKOでカネロ・アルバレス。きっちりとしたKOを見たい」

 一方、村田の予想は少し異なる。

「カネロの圧勝はない。絶対苦戦すると思います。スミスはガードを固めて前に出る。あれだけガードを固めた、体格のいい生粋のスーパーウェルター級の選手に対して、カネロのパンチがガード越しにどれだけ通用するのか。スミスのガードを崩せなかったら、かなり苦戦すると思います。カネロの判定勝ち。ただ、薄氷の勝利になるかなと思います」

 アルバレスは昨年11月、階級を上げてWBC世界ミドル級王座を獲得(ミゲール・コット戦)。今年5月に初防衛に成功した後、タイトルを返上した。そして本来のスーパーウェルター級に戻したわけだが、これについて香川氏は首を傾げる。

「なぜ、ひとつ階級を下げるのか意味がわからないです。(3団体統一ミドル級王者の)ゴロフキンを避けているわけではないと思うのですが。(減量が厳しくて)身体が大きくなってくる年齢なので、ここで3kg下げるのはキツイのではないかと思うんですけどね」

 香川氏が期待するのは、その先にあるもの――。ゴロフキンvs.アルバレスの頂上対決だ。

「もう、それしかないですよね。メイウェザーとマニー・パッキャオも、なんだかんだと言いながら結局はやったわけですよ。5年は遅かったけど、我々は拍手をしました。ミドル級という、我々が多くのスーパーファイトを見てきた分厚い階級において、このふたりの対決しかないと思うんですよね」

 ミドル級は、村田の主戦場でもある。アルバレスがミドル級に復帰したら、「僕はいつでもやりますよ」と言う村田。仮に戦うならどう勝負する?

「序盤をしっかりしのいで、自分の距離でパンチを当てていく。(アルバレスの強みは)一発と思われがちですが、タイミングのよさと回転の速さです。一発一発はそこまでではないと思います。そこを外してしっかりガードして、スタミナもそこまであるとは思わないので狙っていく。真っ向勝負をしますよ」

【WBA・WBC世界ライト級王座統一戦】
ホルヘ・リナレスvs.アンソニー・クロラ

 WBC王者ホルヘ・リナレス(ベネズエラ・31歳)は2002年、17歳で来日して帝拳ジムに入門。あのオスカー・デ・ラ・ホーヤと同じ"ゴールデン・ボーイ"のニックネームを持つ。日本で才能を開花させ、2007年、無敗のままWBC世界フェザー級王座を初戴冠。翌年にはWBA世界スーパーフェザー級王座も獲得する。ライト級に上げた後、2011年から2012年にかけて連敗する苦境を味わったが、2014年、ついにWBC世界ライト級王座に輝き、3階級制覇を成し遂げた。戦績は43戦40勝(27KO)3敗。

 一方のWBA王者アンソニー・クロラ(イギリス・29歳)は38戦31勝(13KO)4敗3分。昨年11月に同王座を獲得し、今年5月にKO勝利で初防衛に成功している。今回の試合地はイギリスのマンチェスター・アリーナ。地元の大声援を背に王座統一を目指す。

 ロンドン五輪・金メダリストの村田は、イギリスのボクシング熱をこう解説する。

「イギリスは勢いがありますね。アメリカがボクシングの中心みたいに思われていますけど、もうひとつの中心はメキシコではなく、イギリスになっていますよね。そこでのビッグファイトなので、非常に楽しみです」

 リナレスにとってはアウェーとなるが、香川氏はその心配はないと言う。

「去年イギリスで試合しているし、アメリカ、メキシコ、いろんな国で試合していますので、敵地というイメージはさほどないと思います。リナレスはここのところ復調してきて、フェザー級時代のシャープさを取り戻している。クロラもチャンピオンではありますが、怖さがある選手ではない。リナレスに憂慮(ゆうりょ)する点があるとすれば、なりふり構わず相手が出てきたときに、目の上をカットしたりすることが一番恐い。アクシデントさえなければ、8回か9回で倒せると思います。もちろん、クロラもあっさりと倒れる選手ではないので、苦戦はすると思いますが、負けるわけにはいかないので」

 村田も、リナレス勝利を予想する。

「期待を込めてですけど、ホルヘの中盤KOですね。ホルヘの最大のポイントは、あのスピードですよ。超特急ですよね。一発一発のスピードを見たら、メイウェザーより速いんじゃないかというくらいの。ただ、相手に出てこられてプレッシャーをかけられたときに、どう対応するか。飲み込まれると厳しい試合になるでしょうけど、うまく最後までやり通せば。ホルヘが実力を出せば、勝てる選手はいないと思うので」

 9月後半のビッグマッチ2連戦――。村田、香川氏ともにアルバレス、リナレスというスーパースターの勝利を予想するが、リングの上で何が起こるかわからないのがボクシングだ。世界最高峰の激闘に酔いしれたい。

中込勇気●文 text by Nakagome Yuki