「第19回手塚治虫文化賞新生賞」などさまざまな賞も受賞した大今良時のベストセラー漫画を、数々の大ヒットアニメを産みだしてきた京都アニメーションがアニメ化した映画「聲の形」
「たまこラブストーリー」で「文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞」を獲得した山田尚子が監督を務めるということもあり、公開前から大きな注目を集め、現在、大ヒット公開中だ。
2年前の「たまこラブストーリー」公開時に続いて実現したエキレビ2度目の山田尚子監督インタビュー後編は、主人公の石田将也、ヒロインの西宮硝子以外のキャラクターについても話を聞きつつ、さらに深く物語を掘り下げていく。
(前編はこちら


結絃は、将也や硝子たちをつなぐ存在


──本作では、硝子の妹の結絃に原作以上の存在感を感じました。物語を引っ張る存在にもなっていますよね。
山田 大今先生からは、結絃と(将也のクラスメートの)永束(友宏)は、物語の中で繋ぐものの役割を担っているというお話をうかがっていました。なので、結絃は、まさにそのまま、将也や硝子たちをつなぐ存在というつもりで描きました。将也や硝子の代弁をしてくれるだけでなく、私たち観ている側の代弁もしてくれる。妹という近い立場だからこそ、ズバッと切り込んでもいけるし、途方もなく優しくすることもできるんですよね。あと、大今先生からは、この作品はあくまでも将也の物語であって、硝子の物語にはしたくないというか、硝子の一人称は使ってないとも聞いていたんですね。だから、技術的な面でも、結絃がいてくれてすごく助かったんです。結絃がいることで、(将也と一緒にいない時の)硝子にカメラが振れるんですよ。
──将也硝子のキャスティングの理由については、公式サイトの中に書かれていたのですが、結絃役に悠木碧さんをキャスティングしたポイントを教えていただけますか?
山田 ちょうど、キャスティングを決め始める時期、放送されていたアニメに悠木さんが出ていらっしゃって。そのお芝居がすごく良かったんですよ。その子にすごく心を奪われて、こういうお芝居される方がいるんだと感銘をうけまして。それで、オーディションに参加していただいたんです。


植野は対等な存在として、本気で硝子に向かっていく


──小学生時代の将也と硝子のクラスメート植野直花も、物語を動かす存在ですよね。ただ、わがままで面倒な子にも見えかねない子だと思うのですが、描く際にはどのようなことを意識されましたか?
山田 基本的に、どのキャラクターも肯定していこうと思っているので、植野のことも分からないということはあまりなかったですね。ただ、植野の中に心を沈めていき、植野から見た世界は、とても切ないんです。欲しくてももらえないものがたくさんありすぎるので。ちゃんと、そこに寄り添っていきたいと思っていました。でも、植野の思いも、皆さんが心の中に普通にもっているような思いのはず。それをすごく素直に出してる子なんですよね。
──普通は、周りからどう観られるかなどを気にして、外にはあまり出さずごまかしているところを出していて。それでも、強く生きていけている子だなと思いました。
山田 そう、植野はかっこいいなと思いました。あと、硝子のことを特別な目ではまったく見ていなくて。対等な存在として、本気で硝子に向かっていくんです。すごく魅力があるし、尊敬に値する人だなと思っています。
──そういう繊細で複雑な内面を抱えている植野を演じているのは、「たまこラブストーリー」で同じく複雑な思いを抱えた常盤みどりを好演した金子有希さんですね。
山田 みどりちゃん、お好きだったですよね(笑)。
──はい。以前の取材で熱く語ってしまいましたが(笑)。この植野に、みどりちゃん役の金子さんをキャスティングされたことには、なるほどと思いました。
山田 あはは(笑)。でも、植野役もオーディションをやったんですよ。金子さんには、他のキャラクターも受けていただいて、どちらもとても良かったんです。音響監督さんとも話し合って、植野をお願いすることになりました。植野はどうでしたか?(笑)
──きちんとキャストを確認しないまま、試写を観たのですが。植野の芝居が良いなと思って資料を確認したら、みどりちゃん役だった金子さんで、なるほど、と納得しました。
山田 すごくはまっていて良かったですよね。金子さんは、すごく上手い揺らぎが自然と出るんですよ。本当にぴったりだったと思います。


何を削って何を残すかのバランスが難しかった


──メインキャラだけでも8人いるので、約2時間という限られた尺の中で描いていくのは、大変だったのでは?
山田 難しかったですね。(将也と硝子以外の)この子たちのたどり着く答えを出すのに、すごく時間がかかりました。コンテを描く時、出だしは将也が本当に難しくて。なかなか将也の出口が見つからなかったんですが、その次は、この子たちの出口を見つけるのが本当に難しかったです。描ける尺がすごく限られていたので。でも、一人一人が将也や硝子と同じように、いろいろな思いや悩み、弱さなどを持っているので。これを取り逃してしまったら、原作のファンの皆さんをガッカリさせてしまうと思って、すごく考えました。結果、それが上手く行ってるかどうかは、まだ自分では分からないですけど……。
──結絃と永束がベランダから将也と硝子のことを覗いている時、永束が「落ちるなよ、少年」と優しさを見せるシーンや、遊園地でジェットコースターに乗った時、小学生時代の同級生・佐原みよこが泣きながらも両手を上げているシーンは、原作に無かったり、アレンジされたりしていると思います。限られた尺の中で、各キャラクターの個性を見せていくための工夫なのかと思ったのですが。
山田 原作と映画の架け橋になるようなところを探しては、そういうささやかなところでもキャラクターを描いていければとは思っていました。
──制作中から、原作ファンが観た時、どう見えるだろうかということへの意識も強かったのですか?
山田 とても強かったです。ファンの人たちから、得体の知れない人に触られて、自分たちの『聲の形』が違うものになったと思われたら辛いし。でも、(尺の関係で)いっぱい削らなきゃいけないし……。
──全7巻分の内容をすべて入れることは、絶対に不可能ですからね。
山田 何を削って何を残すかのバランスが難しくて、時間がかかってしまいました。でも、その中でも、最初に固めた芯はブレないように気をつけました。
──芯というのは?
山田 やっぱり将也ですね。将也がちゃんと生きていくための産声を上げられることです。
──小学生の時の行為をすごく後悔したまま止まっている将也が、自分を認めて、もう一度生まれ変わる?
山田 そう。将也さえ、ちゃんと生まれることができたら、周りの人のこともどんどん見えてくると思っていたので。それが一番コアなところでした。


作品に対する思いは熱くて、愛しかない


──この作品を観ていて、自分の過去の言動を振り返り、忘れていたことを思い出したり、すごく反省したりしたのですが。山田監督は、作っていく中で、そういった感情はありましたか?
山田 すごくたくさんありました。子供の時のミスとか、人としてアウトだろうと思うようなことがたくさんありました(笑)。開けたくない扉を開けてしまった感じでしたね。でも、こういう気持ちになるのは自分だけじゃなかったんだなという安心感があったし、みんな開けたくはないけれど、開けてしまったら、ちゃんと昇華したいんじゃないかなとも思いました。観てくれた皆さんが、自分のことを嫌いだとは思わないような作品にしたいなとは考えていましたね。
──本作は山田監督にとって、3本目の劇場映画です。3本目だからこそできたことなどはありますか?
山田 どうなんでしょう。毎回、はじめましてな気持ちで、がむしゃらにやってきたので、正直、3本目だからといったものは、よく分からないです。でも、「(映画)けいおん!」や「たまこラブストーリー」のことは、最近ようやく冷静に観られるようになってきました。今はできないなって思うことがけっこうあるんですよ。だから、この作品も後々、どうなるのか……。ただ今は、まだ振り返れないです。とにかくがむしゃらに、もう下手くそでもいいからと思って必死にやっていたので。
──最後の質問ですが、この作品は山田監督にとって、どんな作品になりましたか?
山田 すごくいろいろな意味で忘れられない作品です。でも、やっぱり今はまだ頭の中がゲシュタルト崩壊しちゃってて……。
──自分が何をやってきたのか分からない?
山田 そうなんですよ(笑)。作品に対する思いはもちろん熱くて、愛しかないんですけど……。熱すぎてごちゃごちゃに溶けちゃってて。今、自分ではどんな作品になってるのか分からないんです。だから、たくさんの方に観て頂いて。皆さんから、どんな作品になっているのかを教えていただきたいです(笑)。
(丸本大輔)