連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第24週「常子、小さな幸せを大事にする」第143回 9月16日(金)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


悪役が退場し、登場人物それぞれの生きる道が示されたとっても楽しい回だった。

それぞれの生きる道その1 プロポーズする男


101022(とうとう夫婦/「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日、放送終了のマネ)。

美子(杉咲花)と大昭(上杉祥平)の結婚が現実味を帯びてきた。
大昭が大将(ピエール瀧)から店を任されたことをきっかけにプロポーズ。
そのときの台詞がこれ。

「俺のためにおみおつけをつくってくれないかな」
なぜ「みそ汁」でなく「おみおつけ」だったのか。
「おみおつけ」とは室町時代、宮中の女房がつかっていた女房詞で「おかず」「おでん」「おつむ」「青もの」「あつもの」など、頭に「お」や語尾に「もの」などをつける言葉づかい。
料理人だから「おみおつけ」とこだわったとも言えるし、じつは「女房」という言葉に「女房になってほしい」という気持ちをこめたなんてことはないだろうか。だとしたら、大昭、いじらしいぜ。

それぞれの生きる道その2 帰って来た男


10年以上ぶりに小橋家に顔を出した鉄郎叔父さん(向井理)。7年くらい前に結婚し(妻・幸子/岩崎ひろみ/朝ドラには96年の「ふたりっ子」と12年の「梅ちゃん先生」に出演)、新潟で米をつくっていると近況報告。余計なお世話だが子どもはいないのだろうか。
いろいろ苦労もあって連絡できずにいたがようやく落ち着いたという鉄郎。清(大野拓朗)の話題もようやく出て、戦中戦後はこんなふうに消息がわからない人がたくさんいたんだろうと思わせる。

ここで注目したいのは、鉄郎叔父さんの生き方ではなく、俳優・向井理のこと。
脚本家の西田征史は、向井がこの仕事をはじめたばかりの頃、合宿状態で撮影していた映画で共演した仲。その後も仕事でかかわってきた盟友のような西田が夢だった朝ドラをやるに当たって、スケジュールが埋まっていてもなんとか協力したかったのだろう。
出世作の「ゲゲゲの女房」(10年)のプロデューサーもいるうえ、木村多江が、向井の主演映画(12月3日公開)にマドンナ役で出ているというしがらみ(?)まである。いろいろな関係性に対して向井なりにできる限りのことをしたのだと思う。

これぞ友情出演という感じの鉄郎だがそういうテロップはついてない。それはともかく彼が手みやげにもってきた米の入った袋が明から様に軽そうで、細かい演出家だったらこういうとき、リアルに見せるためにちゃんと中になにかしら入れて重くするものだけれど、それをやってないってことはリアリズムを求めてない宣言なのだろうと思った。

「とと姉ちゃん」の虚構性は向井理と米の前に明らかになっている。

それぞれの生きる道その3 家族のために家を建てる女


美子と大昭のお祝いに家族が集まる場面で、常子が家を建てる話になる。これはとと姉ちゃんとして家長になったとき立てた目標のひとつだった。
すると、妹夫婦(美子はまだ夫婦じゃないが)たちがこぞってその家に一緒に住みたいと言い、常子はちょっと困った顔をしながら「働き続ける頑張る」と言う。
なぜ男どもまで常子に寄生する? ふつうなら考えられない話だが、いいのだ。だって、常子は「とと」なのだから。
考えてみよう。常子が男だったら、このシーンもそれほどおかしくはない。そもそもこの時代はまだ核家族以前だから。妙におかしく思うのは彼女が女性だからだ。つまり知らず知らずに我々は常識に縛られているのだ。
「とと姉ちゃん」はそんな世の中の常識をドヤ顔でひっくり返さず、さりげなくひっくり返して平然としている。そこはきわめてユニークだ。
思い返せば、142回で、ちゃぶ台でかか(木村多江)と向き合って、新聞を読んでいる常子も、奇妙なかかとととって感じでシュールだった。

そういえば最近常子はパンツを着用することが多くなった。年齢があがったのでスカートだと幼く見えるからだろうけれど、星野(坂口健太郎)とお別れした日もパンツだった。それまでは星野に会うときはほぼスカートだったのに。

現実社会では、先日発表された「第15回出生動向基本調査」で恋愛してない独身者が増えている結果が出たこともあり、朝ドラで生涯独身ヒロインを描くトライは意義深い。だがその反面、国のためには出生率をあげたいという思いがあるわけで、それを加味して、モチーフでは生涯独身の三女と、オリジナルの叔父さんを結婚させる策に出てバランスをとっているのかもしれない。

いずれにしても性を超越して頑張る常子(正直な話、無理せず、星野と3度目の正直があってもいいと思うけれど)。
最終回まであと2週! 
(木俣冬)