信頼していた人は指名手配の犯人かも…あなたならどうする? 映画『怒り』は人を信じる難しさと苦しみをつきつける【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、2016年秋の邦画の中でも超話題作の『怒り』(2016年9月17日公開)です。原作は吉田修一の同名小説。監督は李相日。映画『悪人』と同じ原作者と監督が再びタッグを組んでリリースしたのが本作で、キャストも豪華かつ実力派の俳優陣が勢ぞろい。まずは物語からいってみましょう!

【物語】

八王子で起きた夫婦惨殺事件。犯人は見つからないまま1年が過ぎた頃、千葉、東京、沖縄、それぞれに謎の男が現れます。

千葉:漁港で働く洋平(渡辺謙)は、歌舞伎町の風俗店で働いていた娘の愛子(宮崎あおい)を連れて帰って来ます。愛子は、2か月前から洋平の元で働く田代(松山ケンイチ)と知り合い、二人は恋に落ちますが……。

東京:優馬(妻夫木聡)は、仕事の後でクラブに繰り出し、適当にいい男を物色して一夜を共にしようと思っていたところ、直人(綾野剛)と出会います。優馬は、彼と同棲するようになりますが、彼の素性を知りません。

沖縄:母に連れられ離島に引っ越した泉(広瀬すず)は、友人の知念(佐久本宝)と無人島へ行ったとき、田中(森山未來)と出会い、明るく自由人の彼に興味を抱きます。

それぞれの地で、信頼関係を結んでいく人たち。しかし、夫婦惨殺事件の犯人の情報が頻繁に報道されていくと、彼らは信頼していた田代、直人、田中に疑惑を抱くように……。

【人を信じることの難しさ、人間の心の弱さ】

私は原作を読んでから試写を見させていただいたのですが、ほぼ原作に忠実。李監督は脚色も担当していますが、吉田修一の世界を熟知しており、原作の刈り方がうまいというか、原作の中で絶対必要なエピソードなどはしっかり映像に映し出していますし、無駄もないです。

原作となった小説は、殺人事件の犯人が整形をして全国を逃亡、フェリーで離島に渡ろうとしていたところを逮捕されるという、実際の事件をモデルにしています。

千葉、東京、埼玉で、謎の男と交流を深めていく人々。しかし、八王子の殺人犯が整形して逃亡していることを知ると、田代、直人、田中への信頼が揺らぎ始めるんですよね。「素性を隠している」「ワケありのようだ」「もしかして殺人犯?」と疑惑が膨らんでいくのです。

「いい人なのに」「好きになった人なのに」と思うからこそ苦しむ人々。でも、絶対に信じると言えない気持ちもわかる。殺人犯だったら恐ろしい。自分だったらどうしていただろうと考えますよ、真剣に。

【宮崎あおい、広瀬すず、女優人生をかけた挑戦】

俳優陣は実力派揃いなので、見ごたえあります。中でも宮崎あおいさんと、広瀬すずさんは新境地を開拓したのではないでしょうか。

あおいさんは「自分の中にはまったくないものを持った愛子なので、彼女の考えていることが理解できなかった」と言っていますが、愛子役を演じる為に、ごはんと寝る前のアイスクリームで7キロ増量し、すべてをさらけだして愛子になったそうです。

妻夫木&綾野のゲイカップルは原作から抜け出してきたみたいで、役作りのために同居していたという徹底ぶり。本当に二人はそういう間柄なんじゃないの? と思うほどですよ。

しかし、いちばんビックリしたのは広瀬すず。いつも元気で弾けているすずちゃんが……。ネタバレになるので伏せますが、よくこの役を引き受けたなと。なんと自らオーデョションを受けて勝ち取ったそうで、女優根性を見せてもらいましたよ!

【ミステリーを期待してはいけません】

渡辺謙、松山ケンイチ、森山未來などは安定の上手さで、やはり役者のクオリティが高いと、揺るぎない世界を構築できるものなのだなと実感。監督の力もあると思いますが、安心して見られます。

犯人捜し的なミステリーを期待させますが、この作品はそういう映画ではありません。犯罪者は登場しますが、人を信じることの難しさを描いている物語です。

タイトルの『怒り』が、何に対する「怒り」なのかということについては、見る人によって違うのかもしれないけれど、犯人にとっては、その日が暑かった、バカにされた、惨めだった。自分を取り巻く何もかもに対する「怒り」ではないか。世の中は怒りに満ちているという、現代を映し出しているのかもしれません。

重い映画ではあるので、一緒に行く相手を選びそうだけど、見た後に、あれこれ語り合いたくなる映画であることは確かです。

執筆=斎藤 香 (C) Pouch

『怒り』
(2016年9月17日より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー)
監督:李相日
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡ほか
(C)2016映画「怒り」製作委員会

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