小学生の時、クラスのガキ大将だった石田将也は、転校生の西宮硝子が聴覚障害者だったことに興味を惹かれて、からかい始める。しかし、それがエスカレートしたことが問題となり、ある出来事をきっかけに、今度は将也がクラスの中で孤立してしまう。その後、心も耳も閉ざして日々を過ごしていた将也だったが、転校した硝子を探して、5年ぶりに会うことを決意する……。
大きな話題を集めた2度の読み切り掲載を経て、2013年8月〜2014年11月まで『週刊少年マガジン』で連載された大今良時の『聲の形』。最終話掲載と同時に制作が発表され、多くのファンが待ちわびていた劇場アニメがついに完成。映画「聲の形」として、9月17日(土)から全国で公開される。
監督を務めるのは、「映画けいおん!」「たまこラブストーリー」でも高い評価を集めた京都アニメーションの山田尚子。
公開直前インタビューの前編では、将也と硝子への思いなどを聞いていく。


キャラクターたちの根っこをきちんとすくっていきたい


──最初に原作の『聲の形』を読んだ時の印象を教えて下さい
山田 初めて読んだのは、監督のお話をいただいた時です。6巻くらいまで出ている状態だったのですが、ものすごく愛の深い作品だというのが第一印象でした。だから、監督という形で、この作品に携われることを率直に嬉しく思いました。
──原作は全7巻ですが、この内容を約2時間の映画1本にまとめる際、最初にどのようなプランなどを考えたのでしょうか?
山田 とにかく、人の真心の部分をフィーチャーして、そこに集中して描いていこうと思いました。それができていて、作品のコアな部分としてちゃんと機能すれば、1本の映画にできるんじゃないかなって、ふわっと考えていましたね。まだ、7巻分の原作を1本にまとめるのが大変かどうかすら分かってない状態でしたが、脚本は経験豊富な吉田玲子さんですし、きっと何か突破口を見つけてくださるだろうと思っていました。全体の大まかなプロットは、吉田さんたちと話しながら最初に作ったものからほとんど変わっていません。ただ、そこから先の作業は本当に大変で、死ぬかと思いました(笑)。
──小学生の時の将也はいじめっ子ですし、描き方によっては、観る人に嫌われる主人公になる危険もあったと思います。描き方には、気をつかったのでは?
山田 『聲の形』という作品について語られる時、聴覚障害を持った子へのいじめなどのシリアスな部分を取り上げられる事が多い印象もありました。でも、私はあまりそういう作品だとは思わなかったというか、そこはこの作品の本質では無いと思ったんです。だから、将也が硝子をいじめるというか、興味を持っていろいろとやっちゃうところも、ちゃんと将也の行動の理由が分かるように描きたいと思いました。他にも衝撃的なシーンはあるのですが、そういうところも面白がって描くことはしたくなかったです。(目立ってしまう)悪い面ではなく、キャラクターたちの根っこの部分をきちんと、すくっていきたいなと思いました。
──私には、将也と同じようなことをした経験は無いですが、単なる好奇心がおかしな方向へと転がっていってしまう感情の流れは、理解もできてしまうというか。「自分がそうなる可能性はゼロだ」と言い切ることもできないなと感じました。
山田 私もそうですね。将也にとっては、硝子との出会いがとてもセンセーショナルだったのだと思います。将也のやったことは「すごく悪いことで汚いことだ」とだけ描いてしまうと希望も何も無くなってしまう。将也の感じた気持ちは多かれ少なかれ、誰にでもある感情のはずなので、それをすべて完全に否定したくはないなと思いました。
──でも、高校生になった将也は、過去の自分を完全否定しています。
山田 そうなんですよ。本人があそこまで自分の過去を否定しているのだから、他人がさらに追い込む必要は無いのかなとも思いました。


硝子が羨ましいなと憧れる気持ちもあります


──聴覚障害者である硝子を描く時、特に意識した事や難しかったことはありますか?
山田 実は硝子に対しては、そんなに難しいキャラクターだと思った事はないんです。耳が聴こえないことは、硝子という人物の一つの個性であって。それに対して硝子は、試行錯誤しながらも一生懸命生きているんですよね。だから、そんな硝子を描く時、私たちが「そのことを触っちゃ駄目かな」と気をつかったり同情したり、何なら可哀想だと思ったりするのは大間違いだと思うんです。一人の女の子として、どういう風な目線で物事を考えるのかなと考えました。あとは、音って硝子にはどういう風に伝わっているのかなと考えたりしましたね。音は耳で聴こえるだけのものじゃなく、大きな音がしたら物が震えたりもしますし。物質としての音を考えました。
──作中にも何度か水面の波紋などが出てきますね。では、硝子という女の子の性格については、どのように捉えていますか?
山田 すごく生きてるなと思いました。一見、可愛らしい感じで、いつも微笑んでいて天使みたいな子なのかなと思われがちですけど。彼女の行動を一個ずつ紐解いてみたら、自分の本能にすごく忠実に動いているんです。ダイナミックだし、すごく負けず嫌いだとも思います。そのあたりは少し羨ましいなと、憧れる気持ちもあります。原作者の大今先生からは、周りのことをすごく気にして、自分はこうあるべきだということをすごく考える子だとお聞きしたのですが、それにプラスして本能で動く部分もあると思うんですよね。その両極端さがすごく魅力的で惹かれました。


将也と硝子は、太陽と月みたいな関係性


──硝子にはセリフがほとんど無いわけですが、キャラクターを描いていく上での難しさなどはなかったのですか?
山田 どうなんでしょう……。アニメって伝えるための手段の塊で。そのすべてが一つ一つのパーツとして分解できると思うんですよ。動き、色、カット割りとか。その中に声もあるのですが、私はそのどれもが同列のものだと思っているので。声という要素が無いからといって、伝えるという部分が揺らぐとは思っていませんでした。
──声というパーツが無いなら、その代わりに他のパーツの領域を広げていけば良いといった感覚ですか?
山田 はい、そういう感じで組み立てていきました。あ、でも硝子を演じてくださった早見(沙織)さんは大変だったと思います。芝居の引き出しはすごく必要だったはず。それに、アニメーターもかなり役者になった気持ちで描かなければ、硝子は描けなかったと思います。
──将也と硝子の関係性を描く際には、どのようなことを意識しましたか?
山田 将也と硝子は似て非なるものというか。すごく近いけど、ギリギリで違うみたいなイメージがあって。影があることで、光が見えてくるとか、そういった対になるものとして考えていきました。描き方でも、そういうところは意識しましたね。とはいえ、作品自体は将也の物語ではあるので、本当に対の形で物語を進めていくわけではないんですけど。太陽があったら月があるみたいな関係性というか……。
──どちらがずっと太陽で、どちらかがずっと月ということでもなく、入れ替わりながら?
山田 はい。どちらかがどちらかを浮き上がらせるみたいな形で描きながら、二人のことを紐解いていければ良いなと思いながら、作りました。
(丸本大輔)

(後編に続く)