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9月1日(日本時間)、米国の宇宙企業スペースXの「ファルコン9」ロケットが、打ち上げに向けた試験中に爆発する事故が発生した。この事故によりロケットは完全に破壊され、ロケットの先端に搭載されていたイスラエルの人工衛星「アモス6」も喪失。さらに発射台も大きな被害を受けた。

9月15日現在、事故の原因や今後の影響については調査中で、はっきりとしたことはまだわかっていない。本連載では、今回の事故の状況を整理、解説するとともに、原因調査や打ち上げ再開までの動きを追っていく。

○11月の打ち上げ再開を目指す

事故から12日が経った9月13日、パリで開催されたWorld Satellite Business Weekにおいて、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は「今年11月の打ち上げ再開を予定している」と明らかにした。ただ、これはあくまで希望であり、この発表が行われた時点で、事故の原因や、そもそも事故がロケットと発射施設のどちらで発生したのかについても、まだ特定できていないという。

打ち上げ再開で使用する発射台は、ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションとヴァンデンバーグ空軍基地のどちらかになるという。ケイプ・カナヴェラルは静止衛星や低軌道衛星の打ち上げに適した東海岸のフロリダ州にあり、一方のヴァンデンバーグは極軌道への打ち上げに適した西海岸のカリフォルニア州にあるため、どちらが使われるかは、打ち上げ再開のロケットにどの衛星が搭載されるかによって変わる。

なお、ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションのファルコン9用の発射台は、今回の事故が起きた第40発射台しかない。損害の状況は不明だが、おそらく3カ月で修理するのは難しいだろう。

一方、ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションに隣接する米国航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターには、かつてスペース・シャトルや、アポロを月へ送ったサターンVロケットが打ち上げられていた第39A発射台があり、現在はファルコン9や、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」を打ち上げるための改修作業が進んでいる。スペースXによると今年11月にも改修が完了し、使用可能になるとのことで、ショットウェル社長の発言は、正確にはこちらの発射台のことを指しているのかもしれない。

なおスペースXは並行して、テキサス州にも新しい発射場の建設を進めている。ただ、こちらが使用可能になるのは早くとも2018年になるとされる。

○崩れぬ攻めの姿勢

原因が未だ不明にもかかわらず、11月の打ち上げ再開を目指すというのは、多分に打ち上げを待っている顧客へのアピール、あるいは同じ会議に登壇していたほかのロケット会社に対する牽制の意味合いが強く、ショットウェル社長自身が「あくまで希望」と言っていることからも、今の段階では話半分に聞いておくべきだろう。

しかし、ひとつ読み取れるのは、スペースXはこの事故を受けてもなお、立ち止まることを考えていないということである。

今回の事故は、映像のインパクトもさることながら、ロケット打ち上げ前の段階での(見ようによってはお粗末な)事故であったこと、さらにその事故で人工衛星も失うという、ほかのロケットなら起こりえない結果に終わったことから、そもそもなぜ人工衛星を載せた状態でスタティック・ファイア・テストをやったのかということから、同社の方針、さらにこれまでの振る舞いに至るまで、スペースXに対していくつかの批判が起きている。

もともとスペースXは「人類を火星に移住させる」という壮大な構想を公言し、また同社CEOのイーロン・マスク氏も何かと話題になる人物であることから、世間一般からすると悪目立ちしやすい面があるのを差っ引く必要はあるだろうが、それでもそうした批判のなかには、たとえば今後はより慎重に(たとえば人工衛星を載せた状態でスタティック・ファイア・テストをやらずに)、確実に人工衛星を打ち上げるようにすべき、言い換えればほかのロケットのように運用すべきといった、もっともらしく聞こえるものもある。

しかしそれでもスペースXは、現時点ではそうした声を突っぱね、これまでどおり、ロケットを早々に、次々と打ち上げたいという攻めの姿勢を崩していない。それに対して新たな批判も出るだろうし、愛想を尽かす顧客もあるかもしれないが、しかしこの姿勢こそスペースXの真骨頂であり、失われるべきではないバイタリティである。

○失敗は成功の母

たしかに、打ち上がってすらいないロケットが地上で爆発する、あるいは衛星を失うほどの事故が1年強の間に2度も発生するというのは、ほかのロケットなら考えられないことかもしれない。実際、ファルコン9とほぼ同じ規模、性能をもちながら、数十機の連続成功を続けているロケットはいくつもある。

しかし忘れてはならないのは、そうしたほかのロケットは、ファルコン9とはこれまでの経緯も、置かれている状況も、まったく違うということである。

現在数十機の連続成功を続けているロケットのほぼすべては、基本的にはコストは二の次で、そのロケットをもつ国にとって必要な人工衛星を、確実に打ち上げることのみを求められて開発された。したがって利益や費用対効果といった小難しいことを考えなくても、常に何事も安全寄りにさえ造っていれば、誰も文句を言わなかったわけである。

しかしスペースXは、そうしたロケットがひしめく市場に食い込むために、そして何よりも、ロケットの運用コストを大幅に引き下げ、人類の宇宙での活動を広げたいという目標を実現するために、ロケットの再使用に挑んだり、通常よりも過度に冷却して密度を高めた推進剤を使用したり、ロケット・エンジンの性能を限界まで上げたりといったリスクの高い開発に、常に挑み続けなければならなかった。

また近年では、これまで国に飼い慣らされてきたロケット企業もコスト削減などを意識しつつあるが、彼らには長年にわたるノウハウの蓄積があり、また過去に多くの失敗を経験し、それがあって今の高い打ち上げ成功率がある。そのため、たとえばロケットはどうすれば爆発するのか、安定した運用には何が必要なのか、どこなら削っても大丈夫なのか、といったことを、十分なデータをもってして、じっくりと考えることができる。

だが、スペースXはそうしたほかのロケットが半世紀もかけて積み重ねてきた技術や知見、経験を、一から、そして短期間で習得していかなければならない宿命を、これまでも、今も抱えている。「失敗は成功の母」ということわざがあるが、それにたとえるなら、これまで十分に愛情をもって育てられ、もうほとんど自立できる段階にあるほかのロケットと、今まさに母から物事を教わりつつあるファルコン9、と言えるだろう。

○火星へ向けて走り続けるスペースX

こうした事情から、今回の事故は、原因がなんであれ、語弊を恐れずに言えば「起こるべくして起きた」、あるいは「いつかどこかで起こる」ことだった。そしてスペースXは今回の事故から多くのことを学び、二度と同じ失敗を犯さないような対策を施すだろう。またいつか、別の原因で失敗をするかもしれないが、彼らはまた新たなことを学び、対策をするだろう。その繰り返しが、スペースXと同社のロケットを強くする。

これはほかのロケットも過去に経験してきたことだが、スペースXはそのペースが異常に早い。ほかのロケットは石橋を叩いて渡ったところを、スペースXの場合はロープを一本だけ架けて綱渡りするかのようである。非常に危険で、また急ぐことで新たな失敗の種を生み出す危険もあるが、しかし彼らの掲げる2020年代の人類の火星入植といった目標を実現するためには、ロケットの開発に半世紀もかけている暇はない。

今回の事故が起きてもなお、スペースXが見せる攻めの姿勢からは、たとえそれが危ない橋、あるいは橋ですらない橋だとわかっていても、これまでと変わらずに走り続けるのだという強い意志が感じられる。そもそも彼らにとって、商業打ち上げ事業やロケットの再使用への挑戦は、火星へ向けた通過点でしかない。スペースXにとってはこんなところで立ち止まるわけにはいかないし、もし攻めの姿勢を改め、旧態依然としたロケット開発へ転換しようとするなら、宇宙時代の到来はまた夢物語になってしまうだろう。

スペースXの攻めの姿勢はもとより、イーロン・マスク氏もこのようなことで諦める人ではないことは周知のとおりである。そしてスペースXの規模は、今回ほどの事故でも崩れないほど大きくなっている。さらに、今後いくつかキャンセルは出るかもしれないが、それでもまだ多くの打ち上げ受注を抱えている。

つまるところ、スペースXの未来も、そして今の私たちが生きている間に宇宙へ行ける可能性も、まだ閉ざされてはいないようである。

【参考】
・Anomaly Updates | SpaceX
 
・Peter B. de Seldingさんのツイート: "SpaceX President Shotwell: We anticipate return to flight in November, meaning down for three months. Next flight from CCAFS, then to VAFB."
 
・Peter B. de Seldingさんのツイート: "SpaceX's Shotwell: Nov return to flight is our best hope. We still haven't isolated the cause or whether its origin was rocket or ground."
 
・Peter B. de Seldingさんのツイート: "Shotwell: Not 100% certain if we'll launch from VAFB or CCAFS for next flight. Depends on customer. Both pads will be ready."
 

(鳥嶋真也)