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9月1日(日本時間)、米国の宇宙企業スペースXの「ファルコン9」ロケットが、打ち上げに向けた試験中に爆発する事故が発生した。この事故によりロケットは完全に破壊され、ロケットの先端に搭載されていたイスラエルの人工衛星「アモス6」も喪失。さらに発射台も大きな被害を受けた。

9月13日現在、事故の原因や今後の影響については調査中で、はっきりとしたことはまだわかっていない。本連載では、今回の事故の状況を整理、解説するとともに、原因調査や打ち上げ再開までの動きを追っていく。

○「スペースX史上、最も難解で複雑な失敗」

事故から8日が経った9月9日、スペースXのイーロン・マスクCEOはTwitterで次のように語った。

「先日、ファルコン9ロケットが火の玉になった事故について、現在もまだ調査を続けています。今言えるのは、この14年間の中で最も難しく、複雑に入り組んだ失敗だということです」。

「この14年間の中で」というのは、スペースXが設立された2002年から今年(2016年)までの14年間のことを指している。

この間、スペースXは小型の「ファルコン1」ロケットの打ち上げに、2006年と2007年、そして2008年に3機連続で失敗し、ファルコン9も2015年に一度打ち上げに失敗している。ファルコン1の失敗は会社設立直後の、まだ何もかもが試行錯誤を続けている中でのことだったためそれほど大きな話題にはならなかったが、2015年のファルコン9の失敗当時は、すでにスペースXも大企業に成長しており、さらに国際宇宙ステーションに補給するだった物資をすべて失ったということもあって、ずいぶん多くの批判にさらされた。

マスク氏が、今回の事故をそれらを超えるほどの困難と語る理由は、事故原因の手がかりが、今のところほとんどないことにある。

たとえば、2015年のファルコン9の失敗は飛行中に起きている。飛行中のロケットは熱や大気との圧力などで大きな負荷を受けるため、空中分解などを起こすことは不思議ではない(もちろん起きてはならないことではあるが)。ちなみにこのときは、ロケットの第2段にあるタンクに使われていた支柱の強度が、規定よりも弱く、飛行中の負荷に耐えられずに折れたことが原因とされている。

しかし、今回の事故は飛行中ではなく、地上において、それも推進剤を充填している最中の、エンジンも何も動いていない状態で発生している。推進剤の充填は、打ち上げ前に毎回行っているのはもちろんのこと、過去のスタティック・ファイア・テストなどで何度も行っており、今回に限って何か特別なことをしていたわけではない。小さな手順の変更などはあった可能性はあるが、それでも、それが爆発を発生させるほどのものだったとは考えにくい。

マスク氏も「重用な点を挙げるとすれば、今回の事故が推進剤充填という、いつもどおりのルーチン作業の中で起きたということです。この時点でエンジンは点火していませんでしたし、また熱を発するようなものもまったくありませんでした」と語っている。

原因を突き止める手がかりの一つとして、マスク氏は爆発が起こる少し前に聞こえた、小さな破裂音を挙げている。実際、事故当時の様子を捉えた動画(以下参照)を見ると、1分16秒あたりで悲鳴のような甲高い音が聞こえ、続いて1分18秒あたりでは何かが破裂したような音も聞こえる。その後、ロケットが爆発する大音響が届く。

<ファルコン9の事故当時の様子を撮影した動画。1分16秒あたりで悲鳴のような音が聞こえ、続いて1分18秒あたりで何かが破裂したような音も聞こえる。その後、ロケットが爆発する大音響が届く (C) USLaunchReport>

現在のところ、爆発がロケットから起きたのか、それとも発射台の設備で起きたのかすらもわかっておらず、この謎の音もどこで発生したものかわからないという。ただ、マスク氏らが重要視しているということは、これまでのスタティック・ファイア・テストや打ち上げ前の準備では聞こえなかった音であるという意味であり、この音が事故の鍵を握っている可能性があるということだろう。

また、「動画を見た何人かが『ロケットに何かがぶつかったのでは?』と言っているが、そのようなことはありうるのか」という質問に対して、マスク氏は「その可能性を排除していません」と答えている。ただ、これは少し誤解を招く答えだったようである。たしかに動画には、ロケットが爆発する前後に、黒い飛行物体がロケットの近くを通過している様子が映っている。おそらくこれは鳥か虫で、また飛行コースもロケットとは直接干渉しない、カメラとロケットの間などを飛んでいたと考えられる。しかしYouTubeには、この黒い物体だけを拡大してスロー再生したり、あるいは細工を施したりして、「爆発はUFO、宇宙人のしわざである」などと言い張る動画がいくつかアップされている。

もちろんマスク氏はそのような荒唐無稽な説に対して「可能性を排除していない」と答えたのではないが、しかし何かがぶつかった可能性、それも虫や鳥程度では爆発はしないだろうから、たとえばテロの可能性が否定できないというのが真意であろう。たしかにその可能性がないわけではないだろうが、今の段階では陰謀論の域を出ない話であり、マスク氏も本当にそう考えているというよりは、その可能性すら排除できないほど手がかりや情報がない、手詰まりに近い状態にあるということの現れであろう。

○人工衛星を載せたままのスタティック・ファイア・テストの是非

スペースXが事故調査で手詰まりを感じているであろうことは、事故当時の映像の録画や音声の録音などの提供を広く呼びかけていることからも伺える。つまりスペースXは、スタティック・ファイア・テストでこうした事態が起こるとはまず想定しておらず、万が一事故が起きた際に十分な調査が行えるだけの記録を取っていなかったということである。

今回のような事故が起こる可能性を軽視していたといえばそれまでだが、しかし事故から12日が経った9月13日、パリで開催中のWorld Satellite Business Weekにおいて、スペースXのグウィン・ショットウェル社長は次のように語ったという。

「今後、スタティック・ファイア・テストを実施する際には、人工衛星を載せずに行うことが何回かあるかもしれません。ただ、9月1日の事故があったからといって、衛星を載せたままこのテストを行うことが悪い考えであると言うのは浅はかです」。

つまりスペースXには、テストで衛星を失うような事故が起こるリスクは認識したうえで、めったに起こるものではないという裏付けや、その危ない橋をあえて渡る価値があるという覚悟と判断があり、それは今でも崩れていないのだろう。

連載の第1回でも触れたように、スペースXがファルコン9の打ち上げで毎回スタティック・ファイア・テストをやっている理由は、ロケットや発射台の機能や健全性、打ち上げまでの手順などを確認することにある。同様のテストは他のロケットでも行われることがあるが、スペースXの場合は、ロケットに人工衛星を載せた状態でこのテストを行うという特徴がある。

これにより、打ち上げまでの時間を約1日短縮することができ、コストダウンにつながるという。つまり同社は、「打ち上げ本番と同じ手順を踏むとはいえ、実際には打ち上がらないテストでロケットや衛星が全損するほどの事故などめったに起こりえないことであり、であるならば衛星を載せたままテストをやって時間を節約しコストを下げたい」という論理で考えていた節がある。

また、スペースXはロケットの再使用を考えていることからも、機体やエンジンの耐久性には相当の自信があるとみえ、またこれまでファルコン9の打ち上げ失敗は28機中1機のみであった。つまり「そもそもロケットは頑丈に造ってあり、実際にこれまでの打ち上げも順調だったのだから、事前のテストで、少なくともロケットと衛星が全損するほどの致命的な問題が起こることはそうそうない(そして細かな問題はこのテストで洗い出せる)」と踏んでいたのだろう。実際のところはどうあれ、実際に衛星を載せたままでスタティック・ファイア・テストを行い続けていたことは、既存のやり方にとらわれず、彼らなりの合理性を追求しつづけるスペースXならではの姿勢といえる。

もちろん、他社のロケットもそれぞれ十分な信頼性をもつように造られ、実際に高い打ち上げ成功率をもつ機体は多いが、それでも万が一のことを考え、衛星を載せたままロケットの試験を行うことはない。しかしスペースXからは、それがひどく無駄なことのように映ったのだろう。

そしてショットウェル社長の発言からは、今回の事故があってもなお、そうした考えや判断は揺らいでいないようである。こうした姿勢もまた同社らしい。

しかし一度今回のような事故が起きた以上、衛星を載せる顧客側としては、我が子のように大事な衛星を載せたままスタティック・ファイア・テストを行うことはできれば避けてほしい、というのが本音ではないだろうか。

今回の事故の原因が特定され、改善策が取られ、そして実際に運用を重ねて問題が出ないことを証明しないかぎりは、どれだけスペースXという会社とファルコン9ロケットに、高い理想と彼らの考える合理性、そして強い意気込みがあったとしても、市場から再び信頼を得るのは難しいだろう。

【参考】
・Anomaly Updates | SpaceX
 
・Elon Muskさんのツイート: "Still working on the Falcon fireball investigation. Turning out to be the most difficult and complex failure we have ever had in 14 years."
 
・Elon Muskさんのツイート: "Important to note that this happened during a routine filling operation. Engines were not on and there was no apparent heat source."
 
・Elon Muskさんのツイート: "Particularly trying to understand the quieter bang sound a few seconds before the fireball goes off. May come from rocket or something else."
 
・Peter B. de Seldingさんのツイート: "Shotwell: Will 'probably not' put payloads on next few static fires, but too easy to say, given Sept 1, that doing so is always bad idea."
 

(鳥嶋真也)