iOS 10の「水鉄砲の絵文字」に隠された、大いなるアップルのメッセージ

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アップデートされたiOSでは、「金属製の銃」だった絵文字が「おもちゃの水鉄砲」に変更された。このちょっとした変更は、ユーザー同士のコミュニケーションに混乱も起こしうるが、米国で拡がる銃規制への動きに対する明らかなメッセージとして受け止められる。

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iPhoneユーザーが自身のiPhoneをアップデートして「iOS 10」に更新したなら、それまであったピストルの絵文字は消えて、代わりにライムグリーンの水鉄砲が現れることになる。これまで「人殺しの武器」であったのが、「世の中で最も人気のプールのおもちゃ」になるわけだ。

iOS 10の新たな絵文字として、女性サーファーや工事現場作業員が含まれるようになったことを伝えるアップルのブログ記事は、ジェンダーの多様性に焦点を当てているものの、このピストルについての言及はない。が、水鉄砲の存在は大きい。

「これはアップルとしては珍しいことです」と、「Emojipedia」創設者ジェレミー・バージは言う。「アップルがそのグラフィックスを洗練させる以上のことを行った例は、これまでなかったでしょう。ある絵文字の意味を根底から変えるのは、稀なことなのです」。そう、アップルは銃を“廃止”したわけではなく“無害”にしたのだ。

絵文字のなかの多様性

CEOティム・クックのリーダーシップのもと、アップルは同性愛者の婚姻から気候変動に至るまで、あらゆる社会問題に対して一定のスタンスをとってきた。そして同社はいま、銃規制を取り巻く議論にも参加するようになった。その動きが公になったのは、ライフルの絵文字を追加しようとするユニコードコンソーシアム(Unicode Consortium)の提案に反対するテック企業グループにアップルが加わった5月のことだ。今回のiOS 10における絵文字の更新は、アップルの立場をより明確にするものだ。

ただし、この動きがユーザーにどのように影響するかは、必ずしも明確ではない。

かつて絵文字に肌の色の違いが導入されたとき、ユーザーたちはそれを祝福した。「絵文字のなかで最も人気のあるものは、顔や手を使った絵文字です」と、インターネット言語学者グレッチェン・マカロックはいう。「自分が有色人種だったとして、インターネット上でコミュニケーションをするとき、自分自身を“白人”にしなければならないのは、まさにおかしな事態だったわけです。あるいは、女性が何かスポーツをしていることを伝えるために、自分自身を“(スポーツをしている)男”として表現せざるをえないのも、同じことです」

アップルだけでは変わらない

とはいえ、銃の絵文字を制限することと、人種や性別についての表現を変えることとは違った意味をもっている。銃についての会話についていえば、ユーザーにはその“検閲”をやすやすと回避する。代わりに「銃」という単語を入力するか、別の絵文字を使えばいいだけだ(「ナス」と「桃」が、有力な候補だという)。

さらに、この水鉄砲の絵文字を使えるのはアップルユーザーのみに限られる。絵文字は、異なるプラットフォームでは異なって見える。Androidやマイクロソフトユーザーの画面上では、水鉄砲は相変わらず金属製の銃として表示されるのだ(実際に、マイクロソフトは水鉄砲の絵文字をしばらく前に導入したものの、代わりにリボルヴァーのアイコンを使用することを8月3日に発表している。これはどうにも奇妙なタイミングではあるのだが)。

「アップルが何かしら変更をしたとしても、他ヴェンダーがそれを変更しなければ、そこには大きな危険性が生まれます。送った人はユーモラスな水鉄砲を送信したつもりでも、受け取った人は全く違うものを見る可能性があるからです」とバージ氏は言う。

そのとき何が起きるのか。新しい水鉄砲の銃口の向きは、変更前のピストル絵文字とは反対方向になっている。皮肉を込めて「わたしを撃って(もうイヤだ!というニュアンス)」と解釈される銃と顔の絵文字を並びを考えてみよう。これは、Emojipediaのバージ氏によると「非常に人気のある銃の絵文字の使い方」だが、 ピストルの銃口が反対方向に向いていると、その意味は変わってくる。 「この場合、銃口の向きが意味合い的には重要です。ゆえに、表示するプラットフォームによって銃口の向きが変わると、混乱を招きかねません」と、前述の言語学者マカロック氏は言う。

武器よさらば

それならば、そもそもなぜ銃を入れておくのだろうか? なぜ武器の表現をなくさないのか? ナイフも爆弾も、捨てればいいのではないか?

まず第一に、アップルにはそれはできない。どの絵文字が組み込まれるかを決めるのは、ユニコードだ。アップルにしろグーグルにしろ、企業が決められるのはそれを視覚的にどう解釈するかでしかない。それに、アイコンを削除するという行為は、企業が課した検閲だという抗議も引き起こしかねない。

しかし、ピストルをおもちゃに変えるというのは、どこかしら詩的でもある。

「たかが水鉄砲、だということです。誰だって子どものころに遊びましたよね」と、銃による暴力に反対するニューヨークの団体、New Yorkers Against Gun Violence代表のリア・ガン・バレットはいう。バレット氏は、先日アップルに宛てた公開書簡のなかで、同社がその意思を表示すべくアップル製品から銃の絵文字を除くように求めた。

ニューヨークでは、法律によっておもちゃの銃が「鮮やかな色で半透明でなければならない」とされているが、バレット氏は、この法律にもふれている。これによって、子どもたちが“武器”を持っているように見えないようになっている点を称えているのだ。

「わたしたちは、この緑のプラスチック製の水鉄砲の絵文字は、進むべき正しい方向への動きだと考えています」とバレット氏は言う。確かにこれは、1つのステップでしかない。絵文字が銃の法規制を変えるとは誰も思ってはいない。 しかし、アップルを味方につけるのは悪くないやり方だ。

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