家族に残せるものは「銀行預金」だけだから、相続でもめる可能性は少ないとお考えの方も多いかと思います。が、実はそこに大きな落とし穴があるようです。無料メルマガ『こころをつなぐ、相続のハナシ』の著者で現役行政書士の山田和美さんは、「銀行預金を一旦受け取る人と最終的にもらう人が異なる場合は注意が必要」としています。

相続財産が銀行預金だけなら、相続手続きは簡単か?

相続というのは、実は簡単に見えるものの中に、落とし穴が潜んでいるもの。相続財産が銀行預金だけ、というのがその一例です。

皆さん、相続財産の中に不動産があったり、また、相続税がかかるような場合には専門家に相談することが多いでしょう。しかし、例えば故人の残した財産が預貯金だけ、相続人の中に、平日日中に動ける人もいる、相続税もかからず、争いもない、となれば、専門家の出番は、少ないかもしれません。

でも、一つ注意が必要です。例えばこの家族、相続人が、妻、長女、二女の3人だったとします。相続財産は、3つの金融機関に、計1,500万円の預金のみ。この場合の、相続税の基礎控除額は4,800万円ですので、相続税はかかりません。

長女、二女は、遠方に嫁いでいて、頻繁にはかえって来られない。手続きに回れそうなのは妻だけ、という場合。このとき、争いがなければ、「では、手続きに回りやすい妻が一旦全部のお金を受け取って、そのあと、長女と二女に、それぞれ500万円ずつ振り込むね」という事もあるでしょう。

別に、この方法自体に問題があるわけではありません。しかし、ここに一つ、落とし穴があるのです。それは、「一旦受け取る人と、最終的にもらう人が違うのであれば、原則として、遺産分割協議書が必要」ということ。銀行に出す書類だけでは足りないのです。これを見落とすと、相続税がかからなかったはずが、思わぬ課税がされる可能性があります。

具体的に見ていきましょう。まず、銀行からお金を下ろす時は、銀行独自の書類に押印します。金融機関によって形式は異なりますが、この書類の意味は通常、「金融機関が、故人のお金を妻に対して払い戻すことに、相続人全員が納得していますよ」というもの。

金融機関側からすれば、勝手に相続人の1人に払い戻したら、後に他の相続人から文句を言われてしまう可能性があります。そうならないために、ちゃんと、全員が納得していますよ、という意味で押印をする書類だと、イメージしてください。

銀行からお金を引き出せた、ということで、ここで安心してしまう人が多いと思います。しかし、まだ、必要なことが残っているのです。一旦妻が1,500万円すべてを受け取った後で、500万円ずつを、長女と二女にわけたら、どうなるのでしょうか。

これは、もちろん、故人の相続の一環で分けたはずです。相続で分けたのであれば、前述の通り、今回は相続税の基礎控除以下ですので、税金はかかりません。一方で、もし妻が、自分のお金を長女や二女に「贈与した」のであれば、これは贈与税がかかります。

では、「妻の口座から、長女の口座に移した500万円」が、相続なのか、妻からの贈与なのか、どうやって判断するのでしょう。銀行から1,500万円を受け取って、そのまま長女と二女に振り込んでいれば、相続で渡した、ということはある程度明確かもしれません。では、1月後なら? 1年後なら? 2年後なら…?

実は、振り込んだ時期によって、勝手に相続の一環で払い込んだと推定されるような規定はありません。このような疑義が生じないために、「このお金は、相続の一環で動かしたんですよ」ということを明確にするのが、「遺産分割協議書」なのです。

つまり、「銀行口座のお金は一旦すべて妻がもらう。その代わり、長女と二女に妻から各500万円ずつ支払う」という内容を記し、これに相続人全員が合意した証拠として、実印を押印したものを残しておくのです。その上で、できれば振込み期限までしっかりと書き、実際にその期限までに振り込む。これであれば、妻から振り込んだ500万円が、贈与などではなく、相続の一環だという事が明白です。

相続手続きは、簡単に見えるものほど落とし穴が潜んでいるもの。思わぬリスクを背負わないために、相続に詳しい専門家を活用し、問題のない手続きを行うようにしましょう。

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 『こころをつなぐ、相続のハナシ』

行政書士山田和美が、相続・遺言について情報を発信するメールマガジン。「相続人って誰のこと?」という基本的な事から、「相続が起きると銀行口座どうなるの?」等のより実務的な疑問まで幅広くお伝えして参ります。

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出典元:まぐまぐニュース!