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乗客の女性が痴漢被害を訴えたにもかかわらず、運転手はすぐに対応せず、バスを走らせ続けた−−。

こんな不手際が起きたのは、徳島バス(徳島市)の路線バス。徳島新聞などによると、乗客の女性が8月9日午後7時半ごろ、運転手に「男性に触られた」と訴えた。だが、運転手は「触られた?誰に?」と聞いただけ。女性が数分後に再度、被害を訴えたが、運転手は「もっと助けてと言わないと助けてくれないよ」とバスを走らせ続けたという。

その後、このやりとりを聞いていたほかの乗客から「警察に通報すべきだ」という声があがり、運転手はバスを停車して110番した。運転手は、すぐ対応しなかった理由について「狭い場所で止まりにくかった」と話したそうだ。走行中とはいえ、痴漢被害の訴えに対応しなかったバスの運転手に、どんな法的責任があるのだろうか。平岡将人弁護士に聞いた。

●突発的な事態に対応することが、乗客すべての安全と利便につながる

前提として、バスの運転手には、道路交通法その他の法律に従い、他の公道利用者、運転手自身、そして乗客の安全を危険にさらさないようにする法的義務があります。

そして、旅客自動車運送事業運輸規則や運送約款において、目的地へ届ける義務のほか、「運送の安全及び旅客の利便を確保」することも含まれており(同規則2条4項)、その結果として、運転手を含む乗務員は、旅客が法令違反行為をした場合などに制止し、車内の秩序を維持するために必要な指示ができること(同規則49条4項)を定めています。そして、旅客はこの指示等に従わねばならないこと(同規則53条7号)、従わない場合などには乗務員は乗客に対して運送の継続を拒否できること(同規則13条1号)などが定められています。

この乗客の安全と利便について、路線バスという移動手段は、あらゆる生活の根幹にあるものであり、さまざまな状況にある市民が乗り合って使うという公共的な側面がありますから、バス会社は乗客が犯罪や事故、病気などといった一部の乗客に起こる問題に対しても、適切な対応すべき責任があると考えるべきではないでしょうか。

これにより、時刻表通りに目的地に着くことができず、ほかの乗客が相応の不利益を被ることがあるでしょうが、このような突発的な事態に運転手が協力・対応をすることが、結局は乗客すべての安全と利便につながると考えます。

ワンマンで運用することがほとんどである路線バスにおいて、運転手は交通安全の確保、乗客全員の安全と利便の確保の義務をたった一人で負っているといえ、突発的な事態の発生においては、常に難しい判断を迫られる立場にあるといえます。

●事実確認と対応の検討を速やかにすべきだった

今回のケースについて検討してみますと、被害女性の申告は「触られた」という過去形ですが、バスという密室に犯人と閉じこめられたままであり、被害女性の心理的な恐怖、再度乗客に犯行を繰り返すおそれも含め、乗客の安全及び利便が損なわれたままの状態です。

ところが、報道によると、運転手は被害女性の申告に対し「触られた?誰に?」と答えたもののそのまま走行を続け、さらなる申告に対しても「もっと助けてと言わないと助けてくれないよ」との発言をし、他の乗客に指摘されるまで相当時間対応をしていません。

このような対応は、乗客の安全と利便を確保すべき運転手が、時間通りの運行だけを重視していたと言われても仕方ありません。

本件では、路線バス内での犯罪被害の申告があったわけですから、公道の安全を確保した上で停車し、乗客の安全と利便の確保のため、運転手は女性から事情を聴き、犯人が判明するのであれば事実確認をし、今後の対応策を営業所と検討をするなどの措置を速やかにすべきでした。

この一連の措置のために遅延が生じるとしても乗り合わせた他の乗客が許容できる合理的な短時間で済むと考えられます。

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。平成26年8月より全国で7事務所を展開する弁護士法人サリュの代表弁護士に就任。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「虚像のトライアングル」。
事務所名:弁護士法人サリュ大宮事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/