自由民主党HPより

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 北朝鮮が5回目の核実験を強行したことを受けて、在韓米軍がアメリカの超音速戦略爆撃機B1Bを13日に韓国に派遣した。米軍が韓国防衛の決意を強調し、北朝鮮に対する強い姿勢を示したことは間違いないだろう。

 しかも、これはただの牽制では終わらないかもしれない。米国、韓国、そして日本政府の一部には、米軍による北朝鮮の核ミサイル基地への「先制攻撃」を主張する動きがあり、メディアからもそれを煽り、期待する声が出てきているのだ。

 国際社会が束になって批判してもまるで聞く耳を持たない。金正恩という若くクレージーな3代目が率いる"ならず者国家"を説得しても無駄である。だったら、先にやってしまうしかない。そのわかりやすくて勇ましい理屈は、手詰まり状態に不安を抱えている国民にある種の説得力をもって広がっている。

 しかし、実際に強硬策に及んだときに、どんな悲惨なことが起きるのか、私たちは本当にわかっているのだろうか。

 たしかに今回の核実験は、東アジアの平和にとてつもない脅威をもたらす暴挙だ。爆発規模は1月に実施した4回目核実験の約2倍。しかも、初めて弾道ミサイルに搭載できる核弾頭の爆発実験に成功したと北朝鮮は主張している。もし本当ならば、いつでも核ミサイルを発射できる体制が整ったということになる。SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を使えば、アメリカ本土も射程に入ることになる。

 しかし、これはけっしてメディアが叫んでいるような「金正恩の狂気」の結果ではない。むしろ、米国、韓国、日本の対北朝鮮政策がもたらした必然の結果と見るべきだ。

 この間、オバマ政権はアジア太平洋地域の軍事プレゼンスを高めるためと称して、北朝鮮に激しい圧力をかけ続けていた。米韓合同軍事演習は年々エスカレートして、ついには先制打撃や金正恩体制の崩壊、領土占領、韓国による吸収統一狙った演習にまで発展している。北朝鮮はそのたびに反発していたが、アメリカも国際社会も聞く耳を持たなかった。この動きが、金正恩に大きな「やらなければやられる」という恐怖を与えたのは間違いない。

 金正恩をとくに震え上がらせたのが、米韓合同軍事演習にステルス戦闘機を参加させて行った秘密訓練ではないかといわれている。これは、レーダーに捕捉されないステルス戦闘機を平壌上空に送りこみ急降下や急上昇で威嚇する「5030」と呼ばれる作戦で、米軍は金正日体制時代の2000年代から行ってきたといわれているが、夕刊フジ(2013年4月7日付)によれば、金正恩体制の2013年にも同様の作戦を展開した可能性があるという。

 今年に入ると、米軍の圧力はさらに強まった。3月には、大量の核兵器を搭載できるステルス爆撃機B2を3機、アジア太平洋地域に配備したしたことを公表。そして、今年の8月には、米空軍がグアムのアンダーセン空軍基地に核爆弾を投下できる超音速戦略爆撃機B1Bを配備することを明らかにした。

 これによってアメリカの脅威が一気に増した北朝鮮は、8月22日から始まる米韓合同軍事演習に向けて、再三の警告を発していた。同月23日には、米韓合同軍事演習が朝鮮半島を「戦争の瀬戸際に追いやる許しがたい行為」だとして国連代表部を通じて安全保障理事会の緊急会合を開くよう求める書簡を議長国のマレーシアに送ったが、北朝鮮の要請は無視された。

 金正恩が核開発を本格化させていったのは、こうした強硬政策の結果であり、そのやり方は完全に裏目に出たというわけだ。

 アメリカの失敗はそれだけではない。北朝鮮のコントロールには中国の協力が不可欠で、今年1月の核実験の時には、その中国も日米韓に同調して制裁強化に踏み出す気配だった。ところが、在韓米軍が最新鋭迎撃システムTHAAD(最終段階高高度地域防衛)ミサイルの配備を決めたことで中国、ロシアの反発を招き、北朝鮮包囲網の連携を壊してしまった。

 一方、日本はこうした緊張の最前線にいながら調整に乗り出すでもなく、独自の外交ポリシーもなく、一方的にアメリカに追随してきた。安倍政権による日米軍事同盟強化によって、かえって危険が増したといっても言い過ぎではない。アメリカと北朝鮮がことを構えることになれば、アメリカに同調する日本が標的になることが明らかだからだ。

 もちろん、本サイトは北朝鮮の核実験を支持しないし、擁護するつもりもさらさらない。だが、武力に対して武力で対抗しても、さらに状況をエスカレートさせるだけで、むしろ解決をどんどん困難にしていくことにしかならないのは明らかなのだ。

 ところが、日米韓の政府の一部や保守メディアはそうした強硬策への反省はまったくなく、それどころか前述したような「先制攻撃論」を叫び始めている。これがいかに非現実的な対応策であるかは、少し考えただけでわかる。

 たとえば、米軍が前述のグアム・アンダーセン空軍基地から超音速戦略爆撃機B1Bを出撃させ、北朝鮮の核ミサイル基地を空爆したとしよう。

 金正恩はどう出るか。報復として直ちに在韓米軍基地、在日米軍基地へのミサイル攻撃を指示するのは確実だろう。日本では、在日米軍施設の約74%が集中する沖縄などが攻撃目標とされる。

 日本はミサイル防衛システムでこれを迎撃することになるが、本当に撃ち落とせるかどうかは疑問だ。たとえば、北朝鮮が8月3日、弾道ミサイル2発を秋田沖に落下させた際、日本政府が発表したのは1時間以上経った後。破壊措置命令も出されなかった。9月5日、3発が北海道沖に落下させた際も、海上保安庁から船舶へ情報が出されたのは19分後で、落下した後だった。1兆5千億円以上の予算をつぎ込んできたミサイル防衛だが、まともに機能していないのである。

 しかも、米軍は核基地空爆と同時にステルス機を使って平壌に迫り、さらに韓国軍の地上部隊が38度線を超えて平壌に侵攻、金正恩を抹殺する計画もあるというが、こんなことを強行すれば、泥沼状態になるのは確実だ。

 軍事力の差を考えれば、平壌は数日で制圧できるかもしれないが、両軍ともに多数の犠牲者が出て、さらに大量の難民流出が起きることになるだろう。しかも、首都を制圧しても、金体制の残党によるテロが頻発する可能性もある。

 事実、過去アメリカのこうした軍事介入はことごとく失敗している。アフガニスタンではタリバン政権転覆に成功したが、その後、同国内はバラバラになり、再びタリバン勢力が盛り返し、米軍は撤退を余儀なくされた。オサマ・ビンラディンを暗殺しても、テロはむしろ増えている。甚だしいのがイラクである。アメリカの軍事介入によって、「イスラム国」という手のつけられないテロリスト集団を生んでしまった。

 北朝鮮でも同様に、軍事的威圧作戦は問題解決にならないばかりか、ますます制御不能の"化け物"を成長させてしまう危険すらある。

 まさに、悪夢のシナリオというしかないが、さらに最悪なのが、安倍政権がこの状況を警戒しているどころか、むしろ積極的に政治利用しようと手ぐすねをひいていることだ。

「今のところ、緊急事態条項からの改憲考えている安倍政権ですが、もし北朝鮮情勢が動けば、一気に本丸9条改正に向けて動き出すのは確実です。衆議院を解散し、北朝鮮危機を煽って議席の大半を独占。そのまま発議、国民投票にまで一気にもっていく。すでに、そのシミュレーションはできていると思いますよ」(政治評論家)

 そして、今の日本のメディアや世論の状況を見ていると、実際に事態が動いてしまったら、これに抗することはかなり難しいだろう。新聞もテレビも先制攻撃論と9条改正一色に染まり、北朝鮮への武力行使に反対するものは「非国民」「反日」扱いされて排除される。そんな事態が現出するはずだ。

 これはけっして、妄想ではない。金正恩が安倍首相の戦前回帰の野望実現の最大の協力者になる可能性はけっして低くない。
(野尻民夫)