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今回のテーマはVoIPである。

もはや、oが小文字なのがムカつくという感想しかでてこないので、今回は最初から意味を書く。

VoIPとは、IPネットワーク上で音声を送受信する通信技術の総称。パケットと音声データを分割してIPネットワーク上で送受信するので、通話料金を格安にすることが可能になる。社内LANを使用した内線電話や、インターネット電話などに応用されている。VoIPを実装したものに、サーバーやルーターといった機器類などがあり、これらのVoIP技術はコールセンター事業やテレマーケティング会社のIP化促進の方法とも考えられる。(「ITトレンド」IT用語集より)

説明文(ほぼコピペ)を長くして尺を稼ごうとしているわけではない、本当にそう書いてあったのだ。しかし、どれだけ長く説明されても意味がわからないので、VoIPはこのクソコラムの文字数を稼ぐしか使い道の無いものであることがわかった。

○IPから始まる物語

まずIPが何かわからないところから俺の冒険は始まり、そして終わる。私だけでなく多くの人間が、ネットや電子機器は使えさえすれば仕組みとかどうでもいい、ぐらいの感覚で使っていると思う。

実際、嫁キャラの萌え画像を見ることさえ出来れば、それが5Gで運ばれてきたものだろうが、己の脳内が作りだした幻覚だろうが、どっちでもいいのだ。ただ、後者を見た場合は通院の必要があるだけである。

そんな皆様が興味ゼロであろうIPだが、「Internet Protocol」の略で、インターネットを使用した音声通話システムの事を指す。嫁キャラのあられもない姿にしか興味が無い俺たちも、「IP電話」くらい聞いたことぐらいあると思う。

つまり、音声をデータにしてネットに流した通話の総称がVoIPであり、電話回線より格安だから貴様ら泣いて喜べ、という話なのだ。

○通話の技術は「人生に関係ない」

このコラムでつらいのは言葉の意味が全然わからない時だが、さらにそれよりつらいのは、意味がわかった所でそれが自分に一生無関係なものだった時だ。今まで、あまたの「自分の人生に無関係ワード」を調べさせられてきたが、今回は群を抜いて関係ない。

まず、私の人生は、通話以前に会話と無関係だ。人どころか有機物としゃべることも稀である。よく一人暮らしのフリーランスが「コンビニの店員くらいとしか会話しない」というが、私は毎日会社に行き、家族と同居しているのに、全く会話をしないのだ。時々、自分は死んでいるのに気づいていない自縛霊なのではと疑うレベルだ。

そもそも会話が苦手なのもあるが、電話での会話はさらに苦手である。仕事上でも電話での打ち合わせを何かと理由をつけて回避し続けたところ、担当から電話がかかってくるのは、連載終了などの訃報のみになった。

電話打ち合わせが苦手な理由としては、まず担当に言いたいことなど一つもない、というのがある。それでも喫茶店とかで顔を合わせてなら、コースターの柄の話とか何か話題が見つかりそうなものだが、電話だとますます会話の手がかりがなくなるし、いざとなったらパンチとキックでこちらの意思を伝えることもできない。

○カレー沢氏が熱望する「スマホの新機能」

だから、テレビ電話とかそっち方面の進化はどうでもいいので、相手の通話口から毒霧を噴射できるようにしてほしい。そうすれば少しは電話が得意になるだろうし、むしろ特に意味も無く担当に電話をするようになると思う。

よって、現時点で電話を使うことはほとんどない、スマホもソシャゲとエゴサ専用機だ。なので、通話料金がさらに安くなると言われても、今でも底値しか払っていないので特に嬉しくはない。それより「定額毒霧噴射」とか「相手のスマホ爆発させ放題」とかの方がよほど嬉しいし、月5万ぐらいまで払っていい。

つまるところこのVoIP、どれだけ進化してくれようと、私にとっては「股間に伝説の剣を持っているが、実戦をする予定が全くない」みたいなもので、まさに無用の長物である。

このコラムで「IT用語」について書かされるようになって、色々なものが日々進化しているということが分かったものの、自分がそれを使うに値していない、という現実にしばしば直面する。会話ツールが発達しても話し相手がいないし、金を払う機能が進化しても払う金がない。

人と会話したいとは思わないが、言いたいことがないわけではない。だから昔からブログなどに文章を書いてきたし、今も思いついたことはツイッターで随時つぶやいている。それで割と満足だし、Twitterやブログはネットの料金を除けばタダだ。

その点、電話というのは安くなると言っても少しは1分10円くらいの通話料金を払わなければいけないだろうし、タダだとしても、まず相手が必要という時点で恐ろしく効率が悪い。いくら人様に伝えずにはいられない感動的な造形のウンコを出したとしても、それが深夜3時なら電話やメールをするべきではないので、夜が明けるまで流さず待つしかない。

つまり、時短とかコスパとか声高に言われる社会において真に適応しているのは、会話機能を使いこなせる人間ではなく、相手がいなくても喋れるし、それを苦と思わないメンタルを持つ人間ではないだろうか。

<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年〜)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2016年9月20日(火)掲載予定です。

(カレー沢薫)