「つけなアカンプロジェクト」で証明した元トップAV女優の生きざま

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 元AV女優の紅音ほたるさんが8月15日、32歳の若さで他界されていたことが明らかになりました。強めギャル系の風貌と「潮吹き」とで一時代を築いたトップ女優ですが、ここ数年は「つけなアカンプロジェクト」に尽力してきました。死後、その活動への注目がいままでになく集まっていることを天国の紅音さんが知ったら、どんな思いを抱かれることでしょう。

 2008年、約4年間におよぶAV女優としての活動に終止符を打つのと前後して、HIV感染や望まない妊娠を防ぐために「コンドームをつけなあかん!」と呼びかける活動を開始した紅音さん。2010年には「一般社団法人 つけなアカンプロジェクト」を起ち上げ、「渋谷から活動をスタートしていきます。(中略)そのため路上やクラブで配布活動をはじめます!!」とブログに意気込みをつづりました。

◆路上に立ち、地道な活動を続けてきた

 同法人のFacebookページには、不定期ながら継続的に街頭でコンドームを無料配布する様子がアップされています。それによると最後の活動は、7月12日。「グラマラスバタフライ」という、女性からの支持も多いコンドームを配り終わった後の充実した表情が写真に収められています。

 女優を引退されてからの年月を考えると、コンドームを差し出されたティーンエイジャーのなかには、彼女の顔も名前も知らない人も大勢いるでしょう。奇異なものを見るような視線を向けられたこともあったはずです。華やかだったであろう現役時代とは真逆の、地道な活動に頭が下がります。

 元AV女優がなぜ? 「AVは間違った性知識をまき散らしたり、過剰な性刺激を与えたりする有害メディア!」という解釈もあるなかで、それに従事していた人がセーフセックスを呼びかけるとは?と首をかしげる人もいるかもしれません。筆者も個人的に、紅音さんが定着させた「潮吹き」のイメージを“困ったもの”として見ていました。

 潮吹きのメカニズムはいまだ議論がわかれるところですが、紅音さんのそれは間欠泉のように勢いがあり、撮影用のカメラを何台も故障させたという逸話もあるほどです。脱水症状を起こさないよう、撮影現場には何リットルものポカリスエットが用意されていたと語り継がれてもいます。本来なら紅音さん個人の“得意ワザ”であったにもかかわらず、後続の女優たちも次々とそのワザを習得し、カメラの前で披露し、それを観た一部の男性はこれが女性なら誰にでも起きる“現象”だと思いこむ……という不幸な勘違いが起きました。

◆元祖「潮吹き女王」がもたらしたもの

 男性のオーガズムの絶頂は射精として目に見えますが、女性の場合これといった証拠がありません。性器周辺から派手に水が吹き出すという、インパクトあるリアクションに多くの男性が心動かされましたが、実際、これはオーガズムとはまったく関係ありません。どちらかというと、「膣内の一部を刺激したら、潮吹きした」は「鼻の穴にこよりを差し込んで刺激したらクシャミが出た」という“反射”に近く、性反応ですらないと思われます。

 なのに、AVを真似て潮を吹かようと膣内を過剰に刺激する男性がいるのは、女性にとってつくづく迷惑な話です。もちろん、それを紅音さんのせいにするのは筋違いで「AVで行われていることを鵜呑みにする」人たちに問題があることはいうまでもありませんが。

 しかし、それこそがセーフセックスを呼びかけるきっかけとなったことを、奇しくも紅音さんがこの世を去った翌日に発売された『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)に寄せた記事で明かしています。

 現役AV女優として参加した啓発イベントで、来場者から「若い男女があなたたちのビデオのせいで傷ついている事態に対してどうお考えですか?」と問われ、紅音さんはAVを“性の教科書”だと思い真似する人が少なくないことに初めて気づいたそうです。

◆華々しいキャリアの次に選んだ活動は若者への啓発

 幼いころから性への関心が高く、AV業界に入ってそれを探求し、作り手としてAVという“ファンタジー”作品を世に送り出すことに歓びを感じていた紅音さんにとってその事実がショッキングだったことが行間からも伝わってきます。

 その“AVで描かれているファンタジー”の最たるものがコンドームをつけないセックスで、引退後、ファンタジーの担い手でなくなった紅音さんは、AVではナマでしているように見えても「つけるシーンを映していないだけです。実際には、きちんとつけています」と力強く発信していきます。

 それはある意味、これまでの活動を否定するとも受け取られかねない行為です。が、見方を変えれば、これは紅音さんがAVというキャリアを全力で極めたからこそ見つけられたネクストキャリアです。性というものにこれだけ密接した仕事もそうありません。そこで矛盾に気づいたり、自分なりに発信できることを見つけたりして、次のキャリアに活かす……というのは一般社会でもよくあること。

 たしかにAVは特殊な世界ですし、そこに携わっていたことが黒歴史となるとなる人も少なくないのは事実です。それでも、自身の意志と取り組み方次第で「キャリア」に昇華できる人もいる、ということを紅音さんは身をもって証明しています。

◆性の多様な側面を知った女性たちが届けられるもの

 AVという業界で磨かれたタレント性でもって芸能界に転身しても引く手あまただった故・飯島愛さんや、AVの現場で男女の生々しさに触れることで培った観察眼をマンガやコラムに活かしている峰なゆかさんなど、女優としてのキャリアをメディアの世界で活かす人も少なからずいます。

 今後は紅音さんのように、AV女優としてのキャリアを基盤として、性に対する啓発や教育活動に転身する人も増えていくのかもしれません。現に、熟女女優として活躍した後に、自身が更年期障害でつらい思いをした経験をもとにメディアを通じてよりよい更年期の過ごし方を発信している女性もいます。

 紅音さんは残念ながら、道半ばにして命が尽きてしまいました。もしこのまま活動を続けていたら、その手から何人の人にコンドームを手渡せたことでしょう。1枚の薄い膜によって守られるものはたくさんあります。地道な活動が大きな結果に結びつく日を彼女自身がその目で見られなかったことが惜しまれてなりません。

文=citrus三浦ゆえ