「ローカル線は本数が少ないから、1本逃すと1日の予定が狂うこともある。 だから“呑み鉄”は朝が早いんです」と語る六角精児氏

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ドラマや映画、舞台には欠かせない名バイプレイヤーとして活躍中の俳優・六角精児(ろっかく・せいじ)。30代で鉄道にハマって以来、“乗り鉄”として全国を旅するのが趣味だという。

旅の供はもちろん、愛してやまない酒。クロスシートにどかりと座って車窓を眺め飲んだり、ぶらり下車した町で飲み歩いたり。『六角精児「呑み鉄」の旅』を上梓した六角氏の“呑み鉄”っぷりに迫る!

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―まず鉄道にハマったきっかけはなんだったんですか?

六角 昔、全国の競輪場巡りをしていたんですけど、そのときの移動手段がすべて鉄道でした。別に鉄道ファンという感じではなかったですね。でもギャンブルの負けが込んで首が回らなくなったときに、ふと思い出して。そういえば鉄道に乗ってて楽しかったなと。そこからですね。純粋な入り方じゃないです。

―予定を立てず、ぶらりと鉄道に乗ることが多いようですが、行き先はどう決めますか?

六角 前日に大まかな方向を決めておいて、西へ行くなら品川駅、北へ行くなら上野駅から新幹線に乗る。あとは何日休めるかですね。例えば休みが2日あるなら新潟まで一気に行って、そこから乗り換えて新発田(しばた)とか、坂町まで行って米坂(よねさか)線に乗って山形の米沢に行こうとか。時刻表を見ながら考えます。

―車内では、どんな酒を飲まれるんですか?

六角 ビールにチューハイ、白角水割。だいたい3本ぐらい。あとは家で飲まないピーチの酒とか(笑)。基本は駅のキヨスクで売ってるものです。つまみは練り物が好きなので、ちくわや魚肉ソーセージ。そこにスルメを合わせたり。

座席は対面式のクロスシートがいいですね。目の前に人がいる場合は、カバンからこっそりつまみを出して。2本目までは早く飲んで、最後の1本はチビチビと。新幹線の場合は車内販売があるので、ハイボールを買います。あとはアイスクリーム。カチカチに凍っているから、終点までに食べきれるか心配になりますけどね。

―例えば、1泊する場合、その日の最終的なゴール地点はどう決めるんですか? 事前にネットでリサーチしたり?

六角 基本は調べないです。とりあえず、ホテルがありそうな大きな町へ行く。かなり地方まで行くと何もないこともあるけど、まあ食べるところはだいたいあるし、たまに温泉もある。

宿は夕方までに決めないとダメですね。50歳過ぎて駅寝はしたくないですし(笑)。泊まるのはビジネスホテル。もしなければ観光案内所へ行きます。旅館は男性ひとりで予約すると断られることが多いんですけど、観光案内所の紹介だと、たいていOKがもらえますね。

―そして旅先の呑み鉄として大事な要素である、飲み屋はどうやって選ぶんですか?

六角 当てずっぽうです(笑)。まず商店街的なところを見つけて、そこからちょっと外れたところにある居酒屋さんに入る。2階だと様子がわからないので、地べたにある店がいいですね。門構えとか建物のつくりとか品書きとかを見て、ここは良さそうだなと決めるんです。観光客向けに名物を打ち出してる店にはあまり行かない。地元の方が行くような店が好きです。

―入った店の良し悪しは、どういう基準で決まるんですか?

六角 店の人の態度ですね。まあ普通にしてくれればいいんです。でも扉を開けたら誰もいないとか、客が座るところに新聞があって生活感が漂っているとか。そういうときは店を出ます(笑)。お客さんがひとりはいると安心しますね。特段、料理がおいしくなくても、店の人と話す感じがよけりゃいい。

―やっぱり顔バレしますか?

六角 しますね。「息子が作家やってるけど、どうしよう」って、3時間も話し続けられたときはつらかった。「なんで俺に相談するんだよ」と(苦笑)。あとはすし屋のオヤジが「いやぁ、うれしい」って言いながら隣に座り込んじゃって、全然すしを握ってくれなかったり。まあ酒が入ってるから、度を越しちゃうんでしょうね。僕が行く店って、店主がほぼ100%飲んでる気がします。

―飲んで盛り上がって、次の日の朝はつらくないですか?

六角 でも6時までには起きますね。お風呂で時刻表を見ながら、次にどこへ行くか決める。ローカル線は本数が少ないから、1本逃すと予定が1日狂うことだってある。だから“呑み鉄”は朝が早いんです。1日で数百km移動することもあるんで、ダラダラしてちゃダメなんですな。まあ列車に乗っても酒が抜けなくて、車窓どころじゃなく、ずっと寝てることもありますけど。

―ローカル線って、高校生ばかり乗ってるイメージがあるんですけど、騒ぎになったりしないですか?

六角 下を向いてバレないように寝てます。でもたまに「相棒だ!」って気づかれる。地方ではあまりテレビに出てる人に会うことないからテンションが上がっちゃうんでしょうね。あるときは「相棒がいる!」がなぜか「成宮がいる!」になって、高校生が隣の車両から僕のところまで見に来て「成宮じゃねー!」ってなったことありますよ。中央本線の小淵沢(こぶちざわ)辺り。彼らは無自覚なので言いたい放題のときはたまにイラッとしますよね(苦笑)。

―(笑)。改めて、こういった予定を決めずにぶらぶらとした旅をする理由は?

六角 名所を見る旅じゃなく、行き当たりばったりの楽しさがあるんです。だから割とお金もかかるし、実は贅沢(ぜいたく)な旅ですよ。もちろんハズレもあるけど、そのときのほうが記憶に残る。楽しかった。おいしかった。なんてまずいんだ。全部同列ですね。

―そういった、どこか達観した考えはいつからですか?

六角 昔からですね。ただ人と接するのが好きなんですよ。近所の人と飲むことも多いし。旅もそうですね。

―それが自分の成長につながったりするんですか?

六角 それはないですね。何かの作品につながるとか考えたことない。こういうことをやってるのは楽しいからですよ。違う景色を見てリラックスできるし、初めて入る店は楽しい。地元の人の話を聞くと、その町の景気だったり、昔はどんなところかわかったりします。

―行った先で、ここに住みたいとかありますか?

六角 それはないですね(キッパリ)。やっぱり世田谷がいいですよ(笑)。

●六角精児(ろっかく・せいじ)

1962年生まれ。1982年、劇団「善人会議」(現・扉座)の旗揚げに参加する。以降、舞台、ドラマ、映画など幅広く活躍。エッセイ執筆、バンド活動のほか、鉄道への造詣も深く、日本全国を旅している。代表作は映画『相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿』。映画『超高速!参勤交代 リターンズ』(9月10日公開)、舞台『家族の基礎〜大道寺家の人々〜』(9月6日?28 日、東京・シアターコクーンほか)に出演予定

■『六角精児「呑み鉄」の旅』世界文化社 1300円+税

俳優・六角精児による鉄道旅のすすめ。彼が今まで列車に乗り歩いた旅路を、人との出会いや食の思い出とともにふり返る。根室のスナックで出された昆布、津軽のストーブ列車であぶったスルメイカ、周参見で食べた人生で一番おいしかったカツオ……。日本は広い、まだ見ぬ場所、まだ見ぬ出会いがたくさんある!