秋は乾燥の季節… 「漢方の知恵」から予習する

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執筆:井上 愛子(保健師)
監修:坂本 忍(医学博士)

朝晩、少しずつ涼しくなり、秋の訪れを感じる季節がやってきました。

1年の中でも過ごしやすく、食べ物もおいしい秋。一方でこの季節は、夏の疲れが残っていたり、気温の変化も大きいため、体調を崩しやすい時期です。高温多湿の夏とは異なり空気も乾燥するため、お肌がカサカサになったり、風邪気味になったりしていませんか?


東洋医学でも秋は「燥邪」(そうじゃ)の季節とされ、乾燥によるダメージから体を守るための漢方薬が古くから使われてきました。秋の乾燥トラブルを防ぐ手段として、今回は漢方に注目してみましょう。

医学的に効果を認められた漢方


漢方が自然の生薬から作られることは良く知られています。ハーブやドクダミのように昔から体に良いと言われてきた「民間薬」とは異なり、医学的に効果を認められている点が漢方の大きな特徴です。

もともと中国から伝えられた医学を元に、日本人に合わせて独自に発展した漢方。「五行説」という古代中国で生まれた世界観では、自然と体の状態の関係を説明しており、「人間の体は自然の一部」という考え方が基本になっています。

漢方は、植物や鉱物など薬効成分をもった自然素材から作られる「生薬」を、多くの場合、2種類以上組み合わせて作られ、体質や生活習慣を含めた全身のバランスを見直し整えていくことを目的に使われます。

秋は「燥邪」の季節


「五行説」では世の中のすべてのものが「木・火・土・金・水」で構成されているとし、季節や色、邪気、臓器なども五行に分けられます。その中で「金」にあたる秋は「燥邪」の季節とされ、古代から乾燥による悪影響が人体に出やすい時期と考えられてきました。

五行説で「燥邪」のダメージを受けやすいのは「肺」。また「肺」は口、喉、鼻、気管支、肺という呼吸器に加え、皮膚も一部とされています。つまり、乾燥する秋は、呼吸器系の病気にかかりやすく、皮膚の乾燥による肌トラブル、ドライアイといったさまざまな症状が起こりやすい時期と言えるのです。

「肺」が担うバランスとは?


漢方を使う目的のひとつは、季節の変化によって崩れてしまう身体のバランスを整えること。

「肺」は呼吸だけでなく、水分の代謝や体温調節などの働きもしています。漢方の考え方では、健康な肺は体液・血液という「陰液」で潤うことで十分な役割を果たしていますが、陰液のバランスが崩れると肺の機能が低下し、身体全体にさまざまな不調が現れてしまいます。漢方には数多くの種類があり症状や体質に合わせて処方されるので、薬局などで相談しながら自分に合うものを見つけましょう。

「医食同源」…食生活の見直しを


漢方の効果を最大限に発揮させるためには、日々の生活、特に食生活を見直すことも大切です。夏バテで食事がきちんと摂れていなかったり、ストレスが溜まっていたりすると、免疫力が低下し、肺も「燥邪」の影響を受けやすくなります。

漢方の考え方に近い「医食同源」を取り入れ、毎日の食事で、身体の中からも潤いを補給しましょう。例えば、喉によいとされるのは、ごぼう・れんこん・梨・みかんなど。また肌に良い食材としては、鶏の手羽先、軟骨、ごま、はちみつなどがあります。

乾燥しやすい秋。バランスの良い食事、運動、十分な休息、といった生活の基本を見直し、必要に応じて漢方の力も借りながら、全身のバランスを整えてみてはいかがでしょうか。


<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社とらうべ社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン